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2017年映画シーンから学ぶヒット創出のヒント “想定外”の成功と失敗をひも解く

小マーケット路線を成功させたソニー・ピクチャーズ

 ランキングの上位には入ってこないが、とても重要な興行を展開した作品がある。米映画の『ベイビー・ドライバー』だ。スタートはわずか40スクリーンほどの公開だった。それが、段階的に館数を増やしていき、最終的には延べ126スクリーンとなり、興収3億8000万円を記録した。100スクリーン前後の公開規模の実写で、3億円を超える作品は年に何本もあるわけではない。予想をいい意味で覆した昨年のヒット作品として、本作を真っ先に挙げたい。

 冒頭、派手なカーチェイスをスバル車で切り抜けたシーンから、それで調子づいた主人公が、@Podで音楽を聴きながらダイナーに入っていくあたりまで、まったく申し分がない。しかも、彼が恋をする相手はダイナーに勤めるミニスカートのセクシーな女性ときた。この描写、シチュエーションだけで、男女問わず興奮しないわけにはいかないだろう。当然ながら、冒頭の疾走感がバネになり、以降映画は全編にわたってダイナミックな映像と音楽の洪水をまき散らしていったから、興奮せざるをえなかったのである。

 本作の大きな魅力とは、カーチェイスをはじめとする描写それ自体の活きの良さ、迫力感だけではない。観る者の心の奥深く突き刺さってくる諸要素を存分に兼ね備えている点にこそ、本作の得難い魅力が溢れ返っている。その1つが若い男女を描く恋愛模様だ。そこには、2人の出会いから、サスペンスとのかかわり方、終局の展開まで、往年のアメリカンニューシネマのように、若者たちの憧れを喚起する清冽さと毒気があり、懐かしいといえば実に懐かしいテイストが満載なのだ。これが、若い人に届いたのだろう。

 内容への言及が長くなってしまったが、予想を覆す興行の局面に至る道とは、作品そのものが切り開いていく場合も多いのだから致し方ない。それとともに、そのような魅力をもつ作品を、いわゆる全国型の大きな公開規模にしなかったのがミソだ。若い人に届くと言ったところで、大多数ということはない。あくまで、観客を選ぶ作品なのだ。車と音楽、そして強奪の犯罪劇が若い2人の行動とテンポ良く絡み合っていくカッコ良さは、響く人には響く。ただ、そのカッコ良さは、観る人の心を心地よく突き刺しつつも、それはどこかで密やかに感じるものとの認識がある。映画を流れるその重低音が、観客を選び、限定的ながら濃密な興行の形を見定めた気がする。
 配給したのは、米メジャー系洋画配給会社のソニー・ピクチャーズだ。実は同社は、限定的な劇場マーケットで、大きな成果を出している。16年に公開された『ソーセージ・パーティー』(スタート6スクリーン/興収8000万円)と『ドント・ブリーズ』(同33スクリーン/4億8000万円)あたりから、その“小マーケット路線”が軌道に乗った。劇場数が限られるから、宣伝費がある程度抑えられる。成果が上がれば、利益率を上げることができる。

 この手法は、映画が広く観られる機会が減るマイナスも出てくるが、全国展開を画策して失敗すれば、元も子もなくなる。続く洋画低迷の折、大作の大ヒットなら昨年は10本以上が生まれる健闘ぶりを見せたものの、邦画と違って5〜10億円クラスの作品はそれほど多くない。中級クラスの娯楽作の厳しい現状を見れば、限定マーケットは1つの手段と考えられる。この劇場戦略は、洋画の芽をつぶさないことも視野に入っている。失敗続きで洋画の選別が行われ、小マーケット展開どころか、公開さえおぼつかなくなることだって、これから起こり得るだろう。

ミニシアターの連続性を示した20世紀フォックス映画

 同じくメジャー系の20世紀フォックス映画も、小マーケット展開で興味深い動きを始めている。その筆頭が、昨年では『ドリーム』だろう。スタートは63スクリーンで最終興収は4億円を超え、これも予想以上の興行となった。宇宙飛行を支える黒人系女性たちの物語を宣伝面でしっかりと打ち出せたこともヒットの大きな要因だ。苦難の道を歩み、成功を勝ち取るストーリーは米国的ではあるが、日本人にとっても比較的受け入れられやすい。当初、中身と違ったサブタイトルで物議をかもしたが、結果的にはそれも1つの話題性となっていくのが、今の時代のおもしろいところだ。作品自体のおもしろさは、嘘をつかないのである。
 同社の子会社の製作配給部門であるサーチライトから送り出された『gifted/ギフテッド』も意外な健闘をみせて評判になった。『ドリーム』と同じく63スクリーンで始まり、最終2億5000万円前後まで見込まれる。子役の卓抜な演技に胸を熱くした女性が多かったようだ。涙を誘う局面もけっこうあるから、女性層の幅広い支持を受けたのも納得できる。サーチライト作品のクオリティの高さは定評があるが、『ドリーム』同様に、それをしっかりと受け止めることができる観客側の意識の高さがあることも見逃せない。かつての都内の主要なミニシアターには、そのような観客が多かった。この2本ともが、TOHOシネマズシャンテをメインにしたブッキングである点が、ミニシアターの連続性と存在感を示していて興味深い。

 米映画ばかりではない。韓国映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』も、まったく予想外の好稼働で17年の忘れがたい興行となった。韓国映画としては異例の226スクリーンで始まり、最終的には3億1000万円を記録した。このスクリーン数だと、米映画では物足りないが、近年ヒットが少なくなった韓国映画にすると健闘の部類に入る。観客には若者が多かった。異色作として話題になり、安定した成績となった『お嬢さん』や『哭声/コクソン』などの韓国映画とは違って、その秀逸な娯楽性のゆえにシネコンの新宿ピカデリーなど都内向きであり、若い男女が韓国映画に対して何の躊躇もなく、そのおもしろさゆえに劇場につめかけた。実にわかりやすい構図だ。17年は、先の2本などに本作を加えた韓国映画が強く印象に残った。

提供元: コンフィデンス

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