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Luupはなぜ「キックボード」を選んだのか? シェアサイクル後発ながら3年で5000ポート拡大の背景
シェアサイクル事業は「高齢者のために」 すでに大手が広く展開、差別化いかに?
「日本の多くの街は、駅間移動は電車で容易にできますが、駅やバス停まではやや遠く、徒歩10~15分かかる住宅も多い。まずはこの移動の問題を解決しないと、これからの時代、介護サービスなどのCtoC事業も普及しないと考えたのが始まりです」(Luup広報・村本萌氏/以下同)
そこで同社は、「電動」「小型」「1人乗り」の乗り物が新たに必要だと考えた。
「『電動』は世界的に環境に配慮した移動手段が求められているためです。『小型』は日本の道路事情を鑑みた時に、狭い道が多く存在するためで、最後の『1人乗り』は、地方では特に顕著ですが、バスが廃止されてしまうような状況が増え、運転手に頼らず1人でも利用できる移動手段が求められていると考えたからです」
「大きなラックを設置する形では、場所の制約があると考えていました。そこで弊社では、小さなスペースにテープだけ貼ってポートに。マンションや店舗の一角、駐車場の空きスペースでも設置できることから、拡大させていきました」
既存の大きなスペースだと置ける場所が限られるため、利用時に結局歩く必要があるなどの難点があった。これら制約を払拭し、まずは50ポートから小さくスタートした。会社やサービスの知名度ゼロの所からの滑り出しだったが、2020年のコロナ禍真っ只中にサービス開始したことが功を奏した。
密を避けられる移動が強く求められていた局面だった。また、飲食店が苦境を迎えていた中、渋谷近辺の飲食店に置いてもらうところから始めた。これが当たった。急増するテイクアウト需要を支える存在としてメディアにも注目され、着実にポート数と利用数を伸ばしていった。
ポートは“小さく密に”増設、女性も支持で急拡大 いまや不動産の宣伝文句にも
「立ったまま進むという乗り物自体の目新しさに加えて、街でポートや乗っている人を見かけること自体に宣伝効果があり、自然に知っていただけたのではないかと思います」
ポートの増設には、車体に搭載したGPSも活用。移動データを見ながら、必要な場所を模索していった。また、Web上のフォームで「うちのマンションに置いてほしい」などのリクエストを受け付けており、利用者からの声に応える形で設置する場合もあるという。
現在は、都内20区、ほか三鷹市などにも拡大。最近では、「LUUPのポートあります」が不動産のアピールポイントとして活用されており、駅遠物件でも入居率が上がると、マンションでもポートを設置するところが増えている。
利用者年齢は20〜50代と幅広く、通勤や通学、ちょっとした移動などの1〜2駅程度の利用が多い。また、自転車だと長いスカートが巻き込まれたりする懸念があるが、キックボードはしわになる心配もなく、服装不問のためか、女性の利用率も高いという。
無免許、ヘルメット未着用に「危ない」「怖い」の声 一部のルール違反者に運営も苦悩
そして今年7月、ようやく改正法が施行。16歳以上であれば運転免許なし、外国人も利用可能になると、LUUPユーザーはさらに急増した。またしてもインバウンドが回復した好機に恵まれ、オーバーツーリズムで京都などではバスが足りない状況の中、これをサポートする形でも活躍をしている。
警察や自治体と議論を重ねながら、これまで80回以上に渡って継続的に対面での安全講習会を開催しているものの、「法律が改正された=ルールが隅々まで周知されるわけではありません。情報を届ける難しさを感じています」と、運営も頭を悩ませているようだ。
とはいえ、個人で持つには持ち運びが大変で、そもそもかばんに入らない。ゆえに今度は、折り畳み可能で、さらにデザイン性も重視したオリジナルヘルメットを開発。今後、展開を検討中だ。
ほか、現状のGPS(アメリカによって運用される衛星測位システム)では、正確な位置が測位しきれず多少のズレが生じており、歩道と車道が判別できない問題がある。そこで、準天頂衛星システム「みちびき」を利用した実証事業(外部サイト)にも参加した。
これだけ事業が成長した今も、若者だけでなく高齢者も対象としたサービスを充実させたいというLuupの理念は変わっていない。「弊社は車両の形にこだわってサービスを開始したわけではなく、より安定した乗り物を出来るだけ早く、安全に導入したい。それができれば、電動キックボードからは撤退しても構わないと考えている」と村本氏は語る。
少子高齢化、街の価値向上、活性化のための移動課題の解決。電動キックボードは、そのきっかけ作りに過ぎない。『LUUP』のポートが発着点となり、駅前以外にも街の賑わいが生まれるのが理想形だ。新たな移動手段の定着は容易ではないが、これが叶えば、日本の駅集中ビジネス構造にも一石を投じることができるかもしれない。