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(更新: ORICON NEWS

自動車教習所で広がるAI教習車の現在地「指導員不足やパワハラ、高額な教習費の解決にも」

 自動車教習所の技能教習をAIが担う取り組みが始まっている。これは自動運転の技術を応用したもので、指導員のマンパワー不足を解決する切り札として注目されている。自動車教習所の指導員といえば「怖い」「高圧的」などネガティブに語られることも多く、不安を感じる教習生にとってもメリットがありそうだ。一方で人命に関わるものとして、運転免許の取得には厳格な法整備もある。AI教習は現状どの段階まで可能となっているのか。そして自動運転社会が実装された未来に、自動車教習所の需要はあるのか。「AI教習所岡山校」を開校したミナミホールディングスに聞いた。

国内外で広がるAI教習…指導員不足や生産性向上など、教習所が抱える課題解決へ

 自動車教習所の業界で指導員不足が深刻化している。この背景には働き方改革による労働時間削減や、今年6月に始まった高齢運転者技能検査の義務化などがあり、指導員の高齢化や採用難から2033年には教習生に対して指導員が35%不足するという調査結果も出ている(一般社団法人「全日本指定自動車教習所協会連合会」第12次長期ビジョン研究会より)。

 この課題を解決する切り札として期待されているのが「AI教習システム」だ。開発したのは交通安全教育に関する多様なソリューションを展開するミナミホールディングスと自動運転技術の国内最有力企業であるソフトウェア企業のティアフォーがジョイントして立ち上げたAI教習所で、同社ではAI教習システムの開発、普及から規制緩和の活動までを行っている。

 今年7月には「AI教習所岡山校」を開校。またすでに一宮・高知県自動車学校(高知県)、遠野ドライビング・スクール(岩手県)などが、AI教習システムを導入している。

「ここ半年だけでも50校以上の自動車教習所に視察していただき、導入に前向きな声をいただいています。またシンガポールでも国の政策として無人による自動車教習を開始することが決まり、商談の機会をいただいています。指導員不足はもちろん、業務の効率化や生産性・教育効果向上など、自動車学校の抱えるさまざまな課題を解決する上で、将来的にはAI教習システムはなくてはならないものになるはずです」(ミナミホールディングス・AI教習所 代表取締役 江上喜朗さん)

“厳しい指導”による対人不安の解決も…人間の目視よりも格段に高い監視や制御精度で安全面の確保も

 AI教習車は、実際にはどのような技術なのだろうか。

「自動運転の技術は車両監視と車両制御、主にこの2つのモジュールから成り立っています。車両監視とは車の挙動を監視してデータ化するということ。そしてそのデータをもとに状況に応じて速度調整やブレーキを踏むなどの操作をするのが、車両制御モジュールです。AI教習車には『LiDAR(光を用いたリモートセンシング技術)』と呼ばれる現在の自動運転では一般的なセンサーが搭載されており、これが車両位置や周囲の状況をAIに送ります。位置推定の誤差は最大でも10センチと高精度で、障害物との衝突も防ぐので、安全に教習ができます」

 また車内にもカメラが設置されており、運転中の教習生が正確に確認しているかなど、顔の角度をチェックしている。監視や制御の精度は人間(指導員)の目視よりも格段に高い。

「通常、指導員は『車線をはみ出していないか』『右折時に道路の中央に寄せすぎていないか』などを助手席でチェックしますが、人間ですのでどうしても見間違いはあります。AIであれば、指導員と教習生の『やった』『やらない』の水掛け論が起こることもありません」

 自動車教習所の指導員といえば、“厳しい指導”で知られる。車の運転は人命に関わることもあり、交通安全への意識を徹底的に指導するのが指導員の役割だが、近年はそうした態度が「パワハラ」と受け取られるようにもなった。

「自動車教習所も昔に比べたらサービス業の側面が強くなりましたが、まだまだ高圧的な指導員は少なくありません。AI教習には対人不安のある方でも伸び伸びと教習を受けられるメリットもあります」

 何よりアピールしたいのが教育効果の高さだという。

「運転ミスを検知すると車内のタブレットが警告音を鳴らして記録します。そして教習の終了後には、AIが付けたスコアを確認できたり、減点部分の動画を見返したりできるので、自分が何が苦手なのかがピンポイントでわかります。また走行を重ねれば重ねるほど成長を実感できるため、モチベーションの向上にもプラスに働きます」

 なお、走行の記録や評価は車内のタブレットでのみ確認できるが、今後は教習生のスマホでも視聴できるように準備を進めているという。映像は自分の目線と俯瞰の目線が記録されるため、予習復習の効果も高そうだ。

低価格で門戸が広い…若者の車離れに歯止めをかけるAI教習所

 普及が期待されるAI教習システムは、指定自動車教習所のペーパードライバー講習、企業向けの講習での使用頻度が高まっている。しかし、現行法において免許取得のための教習については届出自動車教習所でのみ運用が認められている。届出自動車教習所は比較的安価で、一発試験で運転免許を再取得したい人には重宝されている。しかし指定自動車教習所とは異なり教習所内で仮免許の試験ができないため、合格のハードルがやや高いというデメリットもある。

「今はまさに産業競争力強化法によって創設された制度の申請をしているところです。同法は時代に即した制度改革を民間主導で行うための法律で、これが適用されれば限られた条件下において現行法を超えた実証を行うことが認められます。まずは弊社が運営する福岡の指定自動車教習所で実績を重ね、ゆくゆくは全国の指定自動車教習所の免許取得のための教習にも広げていきたいと考えています」

 公共交通機関が発達した都市部では、車を所有する合理的な理由は少なく、若者の車離れと言われる。しかし、令和4年度版交通安全白書によると16〜29歳の免許保有率は70%以上と、今も需要は高い。とはいえ、将来的には自動運転社会が到来するとされている。そのときに自動車教習所は存在するのだろうか。

「政府では2025年までに特定のエリアで自動運転の公共交通バスを走らせるというロードマップを描いています。さらに自家用車も含めた自動運転社会になるには、あと40〜50年はかかるだろうと予想されています。その過渡期において自動車教習所を円滑に運営するためにも、AI教習システムは必要なソリューションだと考えられます。ただ完全な自動運転社会になっても、1割程度は自分で運転する人が残ると言われています。運転というのはモビリティにとどまらず、ホビーとしての魅力も大きいので、自動車教習所がゼロになることはないでしょう」

 そもそも自動車学校の教習費は高額で、若者にとっては費用を工面する難しさもある。AI教習岡山校では、第1段階(仮免許取得までの場内教習)でかかる費用が、約3分の1に抑えられ、費用面でも門戸が広い。教習所が抱えるさまざまな問題解決だけでなく、受ける側にもメリットは大きく、AI教習所が主流となる日も近いだろう。

(文/児玉澄子)
◆AI教習所 岡山校(岡山市/玉野市)のオフィシャルサイトはこちら(外部サイト)
◆ミナミホールディングスのオフィシャルサイトはこちら(外部サイト)

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