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計算された「ネコ型配膳ロボット」、愛らしさを織り交ぜ“完璧”を求めない取り組みが普及のカギに?
国によって反応差…ロボットを“愛でる”日本、“機能性”がバズる中国
このロボットを初めて見た赤ちゃんが泣いてしまったり、暇なときには顔が居眠り顔になっているのを目撃されてしまったり、クスっと笑えるエピソードがSNSに相次いで投稿された。完璧なロボットのイメージから逸脱した“憎めなさ”や“可愛さ”に利用者たちは惹かれているのだ。
これについてPuduロボティクスの開発者・陳鵬氏は「非常に意外な反応です」と驚きを隠せない。「BellaBotは当社の本社がある中国で開発されたロボットです。これまで多くの配送ロボットを手掛けてきましたが、中国では機能性や便利さに秀でた“完璧系”ロボットがバズる傾向にありました。一方で、同ロボットは、あたたかみのあるコミュニケーションが取れるよう設計された型番です。日本はロボットを愛でることを大切にしていて、BellaBotにも『とんかつちゃん』など名前を付けてくれていました。“可愛い”の文化が根付いているからか、ロボットのキャラクター面に強い関心が集まった。ここまで国によって反応に差が出るのだと社内でも驚きの声があがっています」。
数あるPudu社製品でも、BellaBotはインタラクション機能が追加されており、相互会話、チャーミングさに特化している。ネコ型なのは、中国でのマーケティングで犬だけではなく、猫をペットとして飼う家庭が増えたこと。また“招き猫”で日本でもお馴染みだが「お金を呼ぶ」という猫の伝承から発案。ロボットと人との連携、それにペットのイメージを融合させ、冷たいロボットではなく、明るい音やライト、デザインにより、新たなサービス体験を提供する目的で作られた。日本でBellaBotがバズっている現状に陳氏は「ロボットの言葉や表情、可愛さに気づいてもらえるとはうれしいです」と安堵の笑みを浮かべる。
完璧ではないロボットを許容する土壌が育まれ「“半人前”だからこそ許された」
「そうしたまだ人間に及ばない部分も“可愛い”と取ってもらいたかったのでうれしいです」と陳氏。だが一方で、同商品を販売するテクノホライゾン株式会社エルモカンパニーの竹之下新一郎氏は「実は仕入れるまで、こんな“遊びがありすぎる”ロボットだとは思っていなかった。不安が大きかった」と吐露する。「仕様書を見ただけでは、ネコ語を話す機能や触りすぎると怒る機能があるなんて分からなかったんです。ですが最初にかなり仕入れてしまっていた…。日本だったらお客様に『通れないからどけ』なんて暴言を吐くシステム、作りませんよね(笑)」。
国内で製作するのであれば、いわゆる言葉もロボットのような平坦なトーンにしたり、インタラクション機能があったとしても、当たり障りのない言葉しかプログラミングしない選択をせざるを得ない。一重に「クレームが怖い」からだ。竹之下氏も「日本の会社だったらおそらく、このような抑揚のある喋り方で可愛く、媚びたり怒ったり暴言を吐いたり、そんなロボットを作ると99%社長から怒られてしまう(笑)。国内で同機能のロボットを作るなら、コストも計り知れない。数百円の玩具ならいいが、数百万円のロボットで、そんなリスクを冒す会社はないのではないか」と首をかしげる。
だが仕入れたものは仕方ない。実際に販売したところ、驚くことに、そうした暴言、料理をこぼすなどの多少の失敗をしても「可愛い」と逆にそれが利点となってしまった。「可愛くて愛嬌があること、あとロボットであることで、“ロボットなら仕方ないか”とお客様が思ってくれたようです。好き嫌いで見解が分かれると思いましたが“好き”が圧倒数。ロボットですから心の裏で“悪意”がある、とは誰も考えないことも許される理由でしょう」
例えばこれが店員=人間だった場合、「どいてください」と客に言ったり、料理をこぼしたり、何かミスがあると怒る、怒鳴る客も少なくないだろう。陳氏は「いわばAIロボットは人間に比べると“半人前”。だから許された状況もあるのかも」と分析する。
実際に“ネコ型ロボット”といえば、圧倒的なキャラクターが日本にはいる。ネズミに耳を食べられてしまって、それ以来ネズミの存在を怖がる。道具がすぐ出てこなかったり、感情的に怒ったり、恋もする。“愛くるしさ”や“不完全さ”という面ではBellaBotとも共通点があった。そういった地ならしがあったからこそ、日本でより愛をもって迎えられたとも言えるかもしれない。
居眠りから激おこまで…「BellaBot」表情の変化
ロボットも“仲間”として「“1人”と数えられる未来、共存の未来が来る」
「例えば回転寿司は、もともとは工場のベルトコンベアーを用いて料理を運ぶ発想。工場の機械が飲食に持ち込まれた。逆に飲食業界のロボットが工場で用いられる“逆転”があっておかしくない。相互性、親和性は今後より深まります」(竹之下氏)
BellaBotには、エルモ社の技術により顔認証や施錠などのシステムも搭載される予定。これが実現するとキーロックのある会社内、どこへでも物を運べるロボットが実現する。「さらに」と竹之下氏は前置きする。「例えばホテルなどでは、サービスはロボットではなく人間がやるものだ、という考えが強い。しかし一人の世界観を楽しみたいお客様もいる。そういった場合は、人間ではなくロボットの方が適しているとも考えられる。すべてが人間、とか、すべてがロボットというのではなく、その状況に応じて人間とロボット、その選択肢があった方がいいのではないかというのが弊社の考えです。車が権利を得たように、いずれ店舗も家の設計も、ロボットが通れるという基準で設計される未来が来るのではないか」(竹之下氏)
陳氏も「ロボットはあくまでも、人間をサポートするもの。人がいて、お手伝いをするロボットがいる。近い将来、顔のモニターでメニュー、注文、決済など出来るようになるかもしれませんが、人出不足解消であったり、マスコット的存在であったり、その付加価値をどれだけ広げられるか」と力を込める。
人出不足の老人介護施設などでの運用も視野に入れている。「ロボットと人間は仕事のシェアの仕方が違う。人かロボットか。お客様の居心地次第で、どちらかを選べる。いずれペットのように、ロボットも家族や従業員の“1人”のように数えられる未来、共存の未来が来ると私は思っています」(竹之下氏)
(取材・文/衣輪晋一)
取材協力
テクノホライゾン株式会社(外部サイト)
Pudu Robotics Japan(外部サイト)