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ORICON NEWS
ドラマ「カルテット」の緻密で温かな“会話劇”の冴え、今期作品群で際立つ評価
脱力した会話のなかに多くの謎や伏線が…深読みを楽しむ視聴者が続出
センセーショナルな内容にもかかわらず、4人が交わす会話は「からあげにレモンをかけるか否か」「せっかくブイヤベースを作ったのだから、それを食べながら餃子の話をするのは止めよう」などクスリと笑える内容、もしくは脱力するほど日常的なものがほとんど。だがそんななかにも伏線は数多く潜んでおり、第1話では“からあげレモン抗争”が、真紀の過去に関わる発言に繋がったり、第2話では、ブイヤベースを“赤”、餃子を“白”の暗喩とし、さらには司の同僚・九條(菊池亜希子)の結婚エピソードでは、2人のカラオケの定番ソング、SPEEDの『White Love』、X Japanの『紅』もそれぞれ“赤”と“白”として、どんな意味がそこに潜むのか視聴者に投げかけている。
“名作”の共通項はジャンル分けしづらさ、結果あらゆる角度から論じられる
「“形容しがたい”と感じたり、“霧がかったよう”に思えるのは、ドラマの本筋から独立した、ネタ的な楽しい会話や謎解きが表層を覆い隠しているから。例えば第2話では“赤”と“白”のそれぞれの服を着たすずめと来杉有朱(吉岡里帆)の“百合シーン”が描かれました。物語の本筋レベルの濃度でネタや謎を挿入するため、視聴者はそこで一喜一憂したり、深読みで躍起になっているうちに、実は真実から目を引き剥がされているんです。やがて明かされる、本当の真実に辿り着いた際のカタルシスは、ただ一本道を歩いて得た感動の何倍にも及ぶはずです。また後世に残る作品には映画や文学作品も含め、ラブストーリーなのか人間ドラマなのかサスペンスなのか喜劇なのかと、なんともジャンル分けしづらい場合が多い。結果あらゆる角度から論じることが可能で、本作からはその匂いも感じられます」(同氏)
しかし、必ずしも視聴率が高いドラマばかりではなく、本作も第1話が9.8%、第2話が9.6%、第3話は7.8%と推移。そんななかでも坂元ドラマを“名作”に挙げるドラマファンは多く、本作も「ドラマ好きが観るドラマ」とする声が数多く散見される。好みは人それぞれと言えど、なぜ坂元ドラマにはこれほど熱狂的なファンがつくのか。
作詞家としても活躍する坂元氏、言葉のセンスが独特かつ詩的でケレン味があり胸に響く
実は坂元氏は作詞家としても活躍しており、歌詞を提供したアーティストには小室哲哉や深津絵里、そして本作に出演する松たか子などの名が挙がる。そのなかで「永遠と名づけてデイドリーム」の歌詞の提供を受けた小室哲哉は『Woman』放送時、ツイッターで坂元氏の脚本について「繊細で、緻密で、温かい」と表現。ナイーブな感性で緻密に練り上げられていく言葉や展開が、数多くの名言を生み、さらにドラマを盛り上げていると言えそうだ。
そんな俳優陣の演技、繊細な感性から来る名言、緻密に練り上げられた多くの謎、そして数多くのネタ。この4要素のカルテット(四重奏)から、坂元裕二氏の脚本家としての今の成熟ぶりが伝わってくる。今期ドラマのなかでも異彩を放っている『カルテット』のみならず、この先の作品への期待さえも今から高ぶらせてくれる。これからも視聴者を“みぞみぞ”させてくれそうだ。
(文:西島享)