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ドラマ「カルテット」の緻密で温かな“会話劇”の冴え、今期作品群で際立つ評価

 松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平出演のドラマ『カルテット』(TBS系)が高評価を得ている。サスペンスが根幹にありながらも、シーンのほとんどは“ムダ話”とも思える力の抜けた会話劇。だがそこには数々の伏線や謎が散りばめられており、その“霧がかったような”本作の構造に、視聴者は「何とも形容しがたいドラマ」「みぞみぞする」(劇中で満島が演じる世吹すずめが不安と期待でよくわからない感情を表現する際の口グセ)などそれぞれの言葉でおもしろがり、作品の謎解きを楽しんでいるようだ。同作の脚本は『Mother』(2010年/日本テレビ系)や『それでも、生きてゆく』(2011年/フジテレビ系)『最高の離婚』(2013年/同型)などを手掛けた坂元裕二氏。キャストの好演同様、坂元氏ならではの脚本の妙が今再び脚光を浴びている。

脱力した会話のなかに多くの謎や伏線が…深読みを楽しむ視聴者が続出

 『カルテット』は30代を代表する4人の実力派俳優陣が奏でる大人のラブストーリー&ヒューマンサスペンス。ある日偶然、カラオケボックスで出会った4人がカルテットを組み、それぞれが秘密や嘘を抱えながら軽井沢でひと冬の共同生活をおくる姿が描かれていく。だがこの出会いは“偶然”ではなく、すずめは巻真紀(松)の義姑(もたいまさこ)から、失踪したとされる夫を真紀が本当は殺害しているのではないかという疑惑を探るために内偵を依頼されていたこと(第1話)、別府司(松田)は半ば真紀のストーカーとして彼女に近づいた(第2話)ことが判明。このなかで、縦の大きな軸と思われるのが真紀の夫殺害疑惑で、夫が失踪した翌日に真紀がパーティで見せた笑顔の写真の謎はまだ明かされていない。

 センセーショナルな内容にもかかわらず、4人が交わす会話は「からあげにレモンをかけるか否か」「せっかくブイヤベースを作ったのだから、それを食べながら餃子の話をするのは止めよう」などクスリと笑える内容、もしくは脱力するほど日常的なものがほとんど。だがそんななかにも伏線は数多く潜んでおり、第1話では“からあげレモン抗争”が、真紀の過去に関わる発言に繋がったり、第2話では、ブイヤベースを“赤”、餃子を“白”の暗喩とし、さらには司の同僚・九條(菊池亜希子)の結婚エピソードでは、2人のカラオケの定番ソング、SPEEDの『White Love』、X Japanの『紅』もそれぞれ“赤”と“白”として、どんな意味がそこに潜むのか視聴者に投げかけている。

“名作”の共通項はジャンル分けしづらさ、結果あらゆる角度から論じられる

「こうした構造的な伏線や謎、そして力の抜けた会話は、物語の本筋から目をそらさせるためのミスリード。サスペンスや謎解きのおもしろさを最大限に引き出すため、推理小説の“叙述トリック”と似た手法を取っているものと思われます」と分析するのは、メディア研究家で多くのエンタメ記事を手掛ける衣輪晋一氏。“叙述トリック”とは、作り手が読者に対して、あえて誤った解釈を与えることで、読後に衝撃をもたらすテクニックのことだ。

「“形容しがたい”と感じたり、“霧がかったよう”に思えるのは、ドラマの本筋から独立した、ネタ的な楽しい会話や謎解きが表層を覆い隠しているから。例えば第2話では“赤”と“白”のそれぞれの服を着たすずめと来杉有朱(吉岡里帆)の“百合シーン”が描かれました。物語の本筋レベルの濃度でネタや謎を挿入するため、視聴者はそこで一喜一憂したり、深読みで躍起になっているうちに、実は真実から目を引き剥がされているんです。やがて明かされる、本当の真実に辿り着いた際のカタルシスは、ただ一本道を歩いて得た感動の何倍にも及ぶはずです。また後世に残る作品には映画や文学作品も含め、ラブストーリーなのか人間ドラマなのかサスペンスなのか喜劇なのかと、なんともジャンル分けしづらい場合が多い。結果あらゆる角度から論じることが可能で、本作からはその匂いも感じられます」(同氏)
 そもそも坂元裕二氏とはどんな脚本家なのか? 社会現象にもなった『東京ラブストーリー』(1991年/フジテレビ系)などトレンディドラマ出身で、『Mother』『それでも、生きてゆく』『最高の離婚』などで評価を受け、数々のドラマアワードを受賞。シリアスでヒリつくような物語のなかに、どこか“可笑しみ”や“滑稽さ”をにじませる脚本が持ち味だ。またそのときどきの時代性を捉えた作風も特長で、『カルテット』では夢を追う若者たちの労働環境や抱えた苦い過去が描かれている。

 しかし、必ずしも視聴率が高いドラマばかりではなく、本作も第1話が9.8%、第2話が9.6%、第3話は7.8%と推移。そんななかでも坂元ドラマを“名作”に挙げるドラマファンは多く、本作も「ドラマ好きが観るドラマ」とする声が数多く散見される。好みは人それぞれと言えど、なぜ坂元ドラマにはこれほど熱狂的なファンがつくのか。

作詞家としても活躍する坂元氏、言葉のセンスが独特かつ詩的でケレン味があり胸に響く

「坂元さんはエンタテイナー。どんなに深刻なテーマでも『自分がその作品で何を問いたいか』という哲学より、それら知識を昇華させて『何をしたら人が喜んでくれるのか』に重きを置いているように感じられます。数多くの伏線や謎、ネタを散りばめるのも、皆が盛り上がって欲しいという坂元さんのサービス精神からでしょう。『あまちゃん』(2013年/NHK総合)をはじめ、小ネタ満載のドラマには熱狂的なファンが付きやすい。それで単なるネタドラマにならないのは、坂元さんの作品は父と子の葛藤など、ギリシア悲劇やシェイクスピアを思わせる古典的で安定した展開やテーマを作品の下敷きにしていることが多いから。そうした“基礎”や“理念”がしっかりしていることも、ドラマファンにはウケがいいはずです。あとひとつ、坂元さんの資質として挙げたいのは、作詞家でもあること。言葉のセンスが独特かつ詩的でケレン味があり、胸に響くんです」(同氏)

 実は坂元氏は作詞家としても活躍しており、歌詞を提供したアーティストには小室哲哉や深津絵里、そして本作に出演する松たか子などの名が挙がる。そのなかで「永遠と名づけてデイドリーム」の歌詞の提供を受けた小室哲哉は『Woman』放送時、ツイッターで坂元氏の脚本について「繊細で、緻密で、温かい」と表現。ナイーブな感性で緻密に練り上げられていく言葉や展開が、数多くの名言を生み、さらにドラマを盛り上げていると言えそうだ。
 今や演技派女優として映画、ドラマで重宝されている満島ひかりの存在がお茶の間に浸透したのも『それでも、生きてゆく』『Woman』など坂元作品への出演が一役買っている。そして、今回のドラマでも、高橋一生について「高橋一生の魅力を最も理解した脚本」との視聴者の声も見受けられる。坂元氏の緻密に練り上げられた脚本によって、そこに登場するキャラクターを演じる俳優たちも、それぞれの魅力が存分に引き出されているのだ。

 そんな俳優陣の演技、繊細な感性から来る名言、緻密に練り上げられた多くの謎、そして数多くのネタ。この4要素のカルテット(四重奏)から、坂元裕二氏の脚本家としての今の成熟ぶりが伝わってくる。今期ドラマのなかでも異彩を放っている『カルテット』のみならず、この先の作品への期待さえも今から高ぶらせてくれる。これからも視聴者を“みぞみぞ”させてくれそうだ。
(文:西島享)

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