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「直虎」南渓和尚役でも好演 小林薫の“枯れた男の色香”
“うさん臭さ”と“色気”で脇役だけでなく主役も任せられるポジションを確立
だが、寡黙で無精ひげを生やした姿は「お兄ちゃんのほうがカッコいい」と当時の女性からも注目を浴びていたし、劇中でもお手伝いさんの女性に想いを寄せられるなどモテモテ。そして『パート1』最終回では、それまでの弱気が一転、母に「俺は幸子(妻)じゃなきゃダメなんだ。おかしかったら笑ってくれ」とタンカを切る。その姿は視聴者の心を揺さぶり、主演に勝るとも劣らないインパクトをしっかりと残していた。
その後、『イキのいい奴』(NHK総合/1987年)で主人公の寿司職人を演じ、『キツイ奴ら』(TBS系/1989年)では玉置浩二と共演。チンピラっぽいインチキセールスマンを好演し、今も小林が漂わせる“うさん臭さ”や“色気”をふりまきながら、脇役だけでなく主役も任せられる俳優へとそのポジションを確立させていった。
また、映画『秘密』(1999年)では、事故死した妻の精神が宿った娘(広末涼子)とのベッドシーンで父親の顔と男の顔の両面を見せる一方、『ナニワ金融道』(1996年〜 フジテレビ系)のド派手でコテコテの関西人だが見た目ヤクザな取り立て屋。アニメ映画『もののけ姫』のジコ坊役の声では、文字通り“坊さん”でありながら戦闘もするという小林得意の“二面性”を持った役柄を好演していた。
現在、『深夜食堂』のマスター役では原作同様、顔に大きな傷跡があり、「この人には何か過去がある」と観るもの誰にも思わせながらも、ドラマでは過去についてはいっさい触れられず、淡々とした人間模様が繰り広げられていく(とは言っても、マスターは話を聞くだけであまり介入しないが)。
若手イケメン俳優よりもヒットを生み出す要因を担う存在?
その傾向は女性のほうがより強いのは言うまでもないだろう。“品行方正で裏表のない爽やかなイケメン”より、“疲れた背中が寂しげなだらしない中年だけど、何か過去がありそうな謎めいた男”のほうがセクシーに見えるのは、世の女性の常だからだ。放っておけない感、愛すべきダメ男感についついほだされ、「小林の出演作は絶対に観る」というほど熱狂的ではないが、「出ていればつい観てしまう」という小林の“枯れた男の色気”中毒になっているご婦人たちは意外と多い。
『ほぼ日刊イトイ新聞』(2015年2月2日)の糸井重里氏との対談では、「取材で『次回はどんな役に挑戦したいですか?』とかよく訊かれるんですけど、僕はいつも『考えたことないです』って答えるんですね。『ハリウッドでやりたいです』とか言う人もいますけど、自分がこうありたいと思ったからといって、現実的にまわりが動いたりするものでもないですから」と、肩の張らないコメントをしている小林。
そのユルさ加減は決して計算されたものではなく、小林独自の処世術・役者哲学から醸し出されてくるものなのかもしれない。その構えない自然さに女性は惹かれるのだろうし、2000年から続く『美の巨人たち』(テレビ東京系)の渋すぎるナレーション、『直虎』の和尚の枯れ具合、ドラマ『下克上受験』(TBS系)の口が悪いが心優しい江戸っ子大工の“白髪無精ヒゲ”さえも、小林薫だとすべてが“味”になってしまう。
その“艶技”に魅せられた“小林薫中毒”になってしまう女性は、ある程度の人生経験を経た層ばかりかと思いきや、若い世代にも降りてきているようだ。若手イケメン俳優たちがドラマや映画などどこにでもあふれ、飽和気味の昨今のエンタテインメントシーンにおいて、その独特な“枯れた男の色香”は性別年齢を問わない人間の本質的な魅力として響いているのではないだろうか。作品をヒットさせる大きな要因を担っている存在なのかもしれない。