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脚本家・遊川和彦氏が語る今のドラマ事情 演出に口を出す“危険人物”の真意とは

『家政婦のミタ』(2011年/日本テレビ系)をはじめ、朝ドラ『純と愛』(2012〜2013年/NHK総合)『偽装の夫婦』(2015年/日本テレビ系)『はじめまして、愛しています。』(2016年/テレビ朝日系)など、数々の話題作の脚本を手がけてきたヒットメーカー・遊川和彦氏が、阿部寛、天海祐希主演の映画『恋妻家 宮本』で念願の監督デビュー。「もともと映画監督になりたかった」と話す売れっ子・脚本家の同作にかける想いとは? 自らを現場で演出に口を出す“危険人物”としながら、その真意や、昨年大ヒットした『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)についての意見など、ドラマ復権とも言われる昨今のテレビドラマ事情について語ってくれた。

現場で口を出す“危険人物”あつかいされるのも「いい作品を作るため」

――『恋妻家 宮本』が初の監督作品になります。本作も実は、最初は脚本のみの担当だったそうですね?
遊川和彦そうです。脚本を書く上において、まずは重松清さんの原作小説『ファミレス』を読ませていただきました。重松作品は基本的に心に沁みるようないいお話が多いのですが、僕は映像作品ということで、そこにポップな色を入れるなど、映画版ならではの楽しみを入れ込みたかった。それを重松さんに相談したところ快諾いただきました。ところが、重松作品の世界観とは異なる部分が多いので、書いているうちに僕自身「これは演出をするのが難しそうだな」「この世界観が分かるのは僕しかいないのではないだろうか」と思い始めていました。

――誰が監督を務めるのか気になっていたと。
遊川和彦僕はまったく口を出さずにいました。けれども腹のうちでは「僕しかいないな」と思いながら(笑)。監督にはいろいろな方の名前が挙がったのですが、しばらくしてプロデューサーから「撮りませんか?」と言われて、心のなかで「来た、来た!」と。そういう流れですね(笑)。
――演出には以前から興味があった?
遊川和彦もともと映画監督になりたくてこの世界に入ったんですよ。ですが、当時はシステム上、制作会社のADは演出が出来なかった。だから、脚本を書くようになって、それから作品を重ねるうちにオファーが次々と来るようになり、いつの間にか“脚本家の偉い人”のように扱われるようになってしまった。だから「監督になりたかったのに、自分は何者なのか?」と思いながら生きてきたところはありますね。

――そもそもなぜ、脚本家の道に?
遊川和彦この世界で仕事を始めたのは、素敵な作品が出来上がるのが楽しみで、それを作りたいからです。ですから、自分では物書きとか文学者という意識はなく、作品の設計図を書いているだけといった意識で……。ADの頃から、上がってくる脚本を勝手に直したりしているうちに「もうこれは、自分が書いた方が早いな」と思うようになり(笑)、そんな生意気なことを言っていたら「じゃあお前が書いてみろよ」となったんです。ところが書いてみたらそれなりに出来てしまった(笑)。幸いなことにその後オファーが続き、脚本家としてここまで来られたわけです。今回、初めて監督を務めさせていただき、本来は映画監督になりたかったという想いが30年越しで叶ったという感じですね。長いようで、今思うとあっという間の30年でした。

――遊川さんは、現場で演出の助言をされる脚本家ということでも有名です。
遊川和彦「演出家になりたかったのに」という想いがありましたから、その恨みを晴らすように(笑)。それは冗談ですけど、作品へのこだわりが強いからですかね。現場にも行きますし、自分が脚本を書きながらイメージしていたものと違うと「そうじゃない」と指摘します。すべては最終的な目標である「いい作品を作るため」なのですが、現場で口を出す“うるさい先生”というレッテルを貼られるようになり、“危険人物”あつかいされるようになりました(笑)。自分がなれなかった演出という職業の人間に対して、嫉妬する気持ちも多少はあったのかもしれませんけど(笑)。

天海祐希さんに向いていない役柄をやらせるのは僕しかいない(笑)

――主演の阿部寛さんとは初仕事になります。俳優・阿部寛はどんな人物でしたか?
遊川和彦思っていた通り、お芝居に対して真摯な方でした。真摯というより、阿部さんは、今自分がどんなお芝居をするべきか、どうすれば最も良いパフォーマンスが出せるかということ以外、どうでもいいんです。そういうと怒られるかもしれないけれど(笑)。言い方を変えると、お芝居が好きなんだろうな。雑念を捨てて物作りだけに精進するという姿勢はとても美しく、僕も教えられたところがあります。

――阿部さんにはどのような演出をされたのですか?
遊川和彦「小さい男を演じて欲しい」とお願いしました。ビビリの芝居というか、肝っ玉の小さい感じを表現してほしいと。そもそも男は、小さいことでメソメソ、コソコソするもの。それでいて論理的に正しく、冷静に生きているように見せようとするものだと思っていますので。その代表のような、というか(笑)。体が大きい人が、そうして一生懸命に生きている姿はとてもおもしろい。阿部さんがこの現場を楽しんでいただけたかは分からないのですが、僕はとても楽しませていただきました。
――天海祐希さんは『女王の教室』など、これで4回目のお仕事になります。あんなに生活感にあふれる天海さんを観ることはなかなかないと感じましたが、どのような演出をされたのでしょうか?
遊川和彦天海さんが一番向いていない役柄って、ふつうの主婦だと思うんです。そこに手を付けるのはとても危険なことだけど、まあ僕しかやるひとはいないだろうなと思いながら(笑)、これまでもやってきました。『偽装の夫婦』では、初恋の人でゲイの超治(沢村一樹)に偽装結婚を依頼され、妻のふりをする女性を演じてもらったのですが、内心毒づきながらも必死に笑顔を保とうとする芝居をする天海さんがとても可愛く思えて、ちょっとキュンとしたんですね(笑)。強い天海さんを見せることは、もうやり尽くされた感があります。ですが弱い天海さんを魅力的に見せるということを、まだ誰もやっていない。だから今作でも、疲れて重力を1.5倍ぐらいに感じて、だらしなくて、愛想も悪くて、そして“ふつう”の優しさを持つ女性を演じてほしいとお願いしました。天海さんは若い頃からトップスターとして頂点に立っていらっしゃったこともあり、非常に折り目正しく、礼儀がしっかりされた方。そういった“いい人”の面を出さないでほしいと話しました。

――具体的なシーンで教えてください。
遊川和彦夫婦の会話で雲行きが怪しくなった陽平がお風呂に逃げようとするシーンがあります。陽平は美代子(天海)の側をすり抜けて行こうとするのですが、天海さんはつい旦那さんに道を開けてしまうんですよ。でも怒っている奥さんは避けたりはしない。それに、避けない奥さんと壁の隙間をすり抜ける阿部さんの姿もおもしろいですからね(笑)。結果、ポスターもそうですが、とても可愛くて色っぽい天海さんの姿が見られるのではないかと思います。天海さんには、これからどんどん弱い役をやって欲しいですね。そこがまだ未開発ですし、そうすることで芸の幅がまだまだ広がるのではないか、と思います。

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