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『まんぷく』朝ドラにおける異質な“末っ子ヒロイン” リアルな“あるある”に共感のワケ
しっかり者でエネルギッシュ 朝ドラヒロイン=長女の法則
また、『半分、青い。』の鈴愛のように常にどこでも自分が物語の中心にいたり、『ごちそうさん』のめ以子のように無鉄砲で強い意志を持っていたり、『カーネーション』糸子のように強く男勝りで情熱的だったりというケースも多く、その場合は妹がおとなしかったり、弟がクールキャラになったりというパターンも多い。
長女ヒロインが多いのは、特に朝ドラの場合、先述のように戦争を描く物語が多いことが理由として挙げられるだろう。「父親不在」をカバーするために責任感の強い長女が一家の大黒柱となり、家族に振り回されながらも奮闘する健気な姿に、視聴者が心打たれることは多い。また、『ごちそうさん』や『半分、青い。』『カーネーション』など、ちょっとドジで無鉄砲でエネルギッシュである性質が、物語を大きく突き動かしていく原動力になることも挙げられる。
ステレオタイプを覆す、今までにない末っ子朝ドラヒロイン・福子
一般的に言われがちなステレオタイプの末っ子像といえば、「甘やかされて育ってわがまま」「上の失敗を見てきているから、要領がいい」「ちゃっかりもの」など。いままであまり末っ子がヒロインのドラマが描かれてこなかったのは、家族からあまり期待されず、要領よく気楽に生きていて、失敗も少なく、ストーリー性に欠ける部分もあるからだろう。
また、『カーネーション』では、ヒロインである母・糸子と同じ洋裁の道を歩み、ライバル視してはぶつかり合う二人の姉から、いつもへらへら笑っている三女は置いてけぼり。テニスで学生日本一になっても母はまるで興味を示さないことで、テニスをやめ、母と姉と同じ洋裁を目指す。その理由は「もう、さみしい」から。それは「ちゃっかりもの」のステレオタイプな末っ子であり、そうでもなければ、どんなに学校や習い事、仕事など、外の世界で頑張ってみても、親に関心を持たれにくい。特に親の興味のない分野に進んでいれば、なおさらで、「家族の絆」を描く朝ドラにおいては隅っこの存在になる。
ところが、『まんぷく』ではその「末っ子」がヒロイン。そもそもモデルとなった人物が末っ子なのだが、末っ子ヒロインは非常に珍しいケースだ。そして、母も長女も次女も美人でしっかり者として描かれ、三女の福子だけが「ぼーっとしていて頼りない」「器量がよくない」。従来の朝ドラヒロイン像とは大きく異なるキャラクターを提示している。
「末っ子って実はこんな感じ!」 リアルな“末っ子あるある”に共感の声
そして「外で頑張る優秀で聡明な顔と、家の中の末っ子の顔」をナチュラルに演じ分けられる安藤サクラだからこそ、長女・咲が亡くなったシーンでは末っ子のいじらしさが視聴者の涙を誘った。SNSには「福ちゃんの泣き顔が末っ子だ」「お風呂を沸かす薪を燃やしながらも『咲姉ちゃん…』末っ子の甘えん坊が姉を求めて泣く姿に泣ける」「病室に入る前に息をすって笑顔を作る福ちゃん。萬平に報告するときも一瞬気持ちを整える。なのに、部屋で一人泣くときはベソベソと末っ子の顔になる。安藤サクラの隅々までの細やかさよ」などの声が続出していたのだ。
今作は、ありふれたステレオタイプの末っ子像でなく、“リアルな末っ子”ヒロインを描いたことで、ドラマのストーリー性も十分に発揮。その“末っ子あるある”に視聴者は共感し、福子を応援したくなるのではないだろうか。
一見、正統派朝ドラの佇まいでありながら、“末っ子ヒロイン”という新しいヒロイン像を提示している『まんぷく』。いつの時代も変わらない末っ子と家族との関係性がリアルに描かれたことでストーリーに厚みを持たせ、多くの共感を得ている。今まであまりなかっただけに、末っ子視点で見るドラマというのもひとつの楽しみ方ではないだろうか。
(文/田幸和歌子)