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『まんぷく』朝ドラにおける異質な“末っ子ヒロイン” リアルな“あるある”に共感のワケ

  • 『まんぷく』で異例の末っ子ヒロイン・福子を演じる安藤サクラ (C)ORICON NewS inc.

    『まんぷく』で異例の末っ子ヒロイン・福子を演じる安藤サクラ (C)ORICON NewS inc.

 NHK連続テレビ小説第99作目『まんぷく』は、初回視聴率23.8%を記録し、その後も好調に推移。連日、関連ワードがSNSでトレンド入りするなど、盛り上がりを見せている。今作は、「日清食品」創業者の妻をモデルとしたオリジナルストーリーであり、奇をてらったことをせず、ヒロインとその家族を丁寧に描いている「王道朝ドラ」の印象が強い。ところが、共感を得ているひとつの理由に、朝ドラでは非常に稀有な「末っ子ヒロイン」という特徴がある。さらに末っ子について一般的に言われがちな「要領がいい」「わがまま」といったステレオタイプなイメージではなく、“リアルな末っ子像”。その末っ子のリアリティが視聴者に受け入れられている部分もあるだろう。

しっかり者でエネルギッシュ 朝ドラヒロイン=長女の法則

 朝ドラはもともと「長女」の物語が多い。近年の例だけでも、弟がいる『半分、青い。』、兄と妹がいる『わろてんか』、妹と弟がいる『ひよっこ』、二人の妹がいる『とと姉ちゃん』、弟がいる『まれ』、二人の妹がいる『花子とアン』と、弟がいる『ごちそうさん』と、長女だらけだ。これらの多くが、父親を戦争で亡くしていたり、父親が行方不明になったり、父親が働かなかったりする諸事情から、しっかり者で責任感の強い長女が「家父長」的役割を担い、一家を経済的に支えていたり、健気に面倒を見たりする。『まんぷく』の場合は、ヒロインではなく、結核を患い、亡くなってしまう優しく真面目で気遣い屋の美しい「咲姉ちゃん」が、まさにこのパターンだ。

 また、『半分、青い。』の鈴愛のように常にどこでも自分が物語の中心にいたり、『ごちそうさん』のめ以子のように無鉄砲で強い意志を持っていたり、『カーネーション』糸子のように強く男勝りで情熱的だったりというケースも多く、その場合は妹がおとなしかったり、弟がクールキャラになったりというパターンも多い。

 長女ヒロインが多いのは、特に朝ドラの場合、先述のように戦争を描く物語が多いことが理由として挙げられるだろう。「父親不在」をカバーするために責任感の強い長女が一家の大黒柱となり、家族に振り回されながらも奮闘する健気な姿に、視聴者が心打たれることは多い。また、『ごちそうさん』や『半分、青い。』『カーネーション』など、ちょっとドジで無鉄砲でエネルギッシュである性質が、物語を大きく突き動かしていく原動力になることも挙げられる。

ステレオタイプを覆す、今までにない末っ子朝ドラヒロイン・福子

 例えば、末っ子が描かれた朝ドラには、石原さとみ主演の『てるてる家族』があるが、この作品の場合、フィギュアスケートの選手になる長女、芸能界入りする次女、成績優秀な三女に比べ、四女のヒロインは才能のある姉たちを羨みながら、自分の夢を探していくという物語だった。ヒロインありきでなく、さらにいえば、浅野ゆう子演じる母親の行動力が突き抜けていて、ヒロイン的でもあった。

 一般的に言われがちなステレオタイプの末っ子像といえば、「甘やかされて育ってわがまま」「上の失敗を見てきているから、要領がいい」「ちゃっかりもの」など。いままであまり末っ子がヒロインのドラマが描かれてこなかったのは、家族からあまり期待されず、要領よく気楽に生きていて、失敗も少なく、ストーリー性に欠ける部分もあるからだろう。

 また、『カーネーション』では、ヒロインである母・糸子と同じ洋裁の道を歩み、ライバル視してはぶつかり合う二人の姉から、いつもへらへら笑っている三女は置いてけぼり。テニスで学生日本一になっても母はまるで興味を示さないことで、テニスをやめ、母と姉と同じ洋裁を目指す。その理由は「もう、さみしい」から。それは「ちゃっかりもの」のステレオタイプな末っ子であり、そうでもなければ、どんなに学校や習い事、仕事など、外の世界で頑張ってみても、親に関心を持たれにくい。特に親の興味のない分野に進んでいれば、なおさらで、「家族の絆」を描く朝ドラにおいては隅っこの存在になる。

 ところが、『まんぷく』ではその「末っ子」がヒロイン。そもそもモデルとなった人物が末っ子なのだが、末っ子ヒロインは非常に珍しいケースだ。そして、母も長女も次女も美人でしっかり者として描かれ、三女の福子だけが「ぼーっとしていて頼りない」「器量がよくない」。従来の朝ドラヒロイン像とは大きく異なるキャラクターを提示している。

「末っ子って実はこんな感じ!」 リアルな“末っ子あるある”に共感の声

 『まんぷく』では、そんな今までのドラマにあまりなかった末っ子ヒロインが、愛されている。リアルな末っ子と家族の関係性に、共感の声が挙がっているのだ。例えば、母が仮病を使ってまで長女の結婚を邪魔する理由は何より「福子と二人になるのが不安」だから。これこそ“末っ子×母親あるある”で、一家の中では何歳になっても、末っ子は「頼りなくてぼーっとしている、みそっかす」だ。その分、「頼りないと思われてたっぷり愛情を受けて育ち、優しかったり、親を大切にしていたり、案外図太かったり」もする。ただ、親にとっていつまでもみそっかすでも、外ではちゃんと仕事を頑張っていて、それを親に認めてもらおうとする一面が丁寧に描かれることで、報われた気持ちを抱く末っ子視聴者も多いのではないだろうか。

 そして「外で頑張る優秀で聡明な顔と、家の中の末っ子の顔」をナチュラルに演じ分けられる安藤サクラだからこそ、長女・咲が亡くなったシーンでは末っ子のいじらしさが視聴者の涙を誘った。SNSには「福ちゃんの泣き顔が末っ子だ」「お風呂を沸かす薪を燃やしながらも『咲姉ちゃん…』末っ子の甘えん坊が姉を求めて泣く姿に泣ける」「病室に入る前に息をすって笑顔を作る福ちゃん。萬平に報告するときも一瞬気持ちを整える。なのに、部屋で一人泣くときはベソベソと末っ子の顔になる。安藤サクラの隅々までの細やかさよ」などの声が続出していたのだ。

 今作は、ありふれたステレオタイプの末っ子像でなく、“リアルな末っ子”ヒロインを描いたことで、ドラマのストーリー性も十分に発揮。その“末っ子あるある”に視聴者は共感し、福子を応援したくなるのではないだろうか。

 一見、正統派朝ドラの佇まいでありながら、“末っ子ヒロイン”という新しいヒロイン像を提示している『まんぷく』。いつの時代も変わらない末っ子と家族との関係性がリアルに描かれたことでストーリーに厚みを持たせ、多くの共感を得ている。今まであまりなかっただけに、末っ子視点で見るドラマというのもひとつの楽しみ方ではないだろうか。
(文/田幸和歌子)

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