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芳根京子、“地味顔”だからこそ光る女優としての優位性

  • 芳根京子(写真:田中達晃)

    芳根京子(写真:田中達晃)

 ドラマ『高嶺の花』(日本テレビ系)、映画『累-かさね-』など話題作に次々と出演し、ダークな人間性をさらけ出す演技を見せて新境地をひらいている女優・芳根京子。彼女は2016年の『べっぴんさん』(NHK)に主演して全国区となった朝ドラ出身女優だが、「昭和顔の美人」「演技が上手い」と評価される一方、「地味」「個性がない」という世間の声も聞かれる。しかし、彼女が女優として進化しつづけている理由は、その“地味さ”からこそなのではないだろうか。

業界では他の若手が「会いたくない女優No.1」のオーディション荒らしだった!?

 芳根の初出演ドラマは2013年の『ラスト・シンデレラ』(フジテレビ系)。翌年『花子とアン』(NHK総合)で仲間由紀恵が演じた蓮子の娘役を演じて朝ドラデビューを飾ると、2015年には『表参道高校合唱部!』(TBS系)で1000人以上の候補者の中から合唱に青春をかけるヒロイン役に選ばれ、初のドラマ主演を務めた。まさにデビューからトントン拍子の出世ぶりだ。当時ライバル女優たちからは「あの子が来たら諦めるしかない…」と言われるほどの“オーディション荒らし”だったというエピソードは、本人が否定しているものの、火のないところに煙は立たず。彼女が早くから業界で一目置かれる存在だったことは間違いない。

 そして、2016年に『べっぴんさん』で主人公・坂東すみれ役を射止めた芳根は、当時19歳ながら戦後の高度経済成長期を生き抜いた女性の一代記を演じきり、女優としての評価を高めた。だが、本作で彼女の人気がブレイクしたかというと、世間の反応はイマイチだった感が否めない。彼女に対して「地味なヒロインだった」「印象に残らなかった」という感想をもった視聴者がいたのも事実だ。

 確かに、芳根はパッと見て印象に残りやすい女優顔ではないだろう。素朴さのあるアッサリとした顔立ちのため、『べっぴんさん』のように感情を惜しみなく表現するシーンが少ない役では、彼女の魅力が十分に伝わらなかったのかもしれない。なんといっても彼女の魅力は、細やかな感情の動きも表情やまなざしで表現できる演技力。これまでの『先輩と彼女』『心が叫びたがってるんだ。』といった青春映画では、思春期の感性を表情豊かに表現していた。しかも、地味顔だけに微妙な表情の変化でその顔の印象は様々に変化していく。さっきまで垢抜けない幼い顔に見えていたかと思えば、ハッとするほど魅惑的な美女に見える瞬間もあるのだ。

 この個性がうまく活かされたのが、今年主演した月9ドラマ『海月姫』(フジテレビ系)だろう。本作は視聴率こそ振るわなかったものの、クラゲを愛するイケてないオタク娘から清楚な美少女キャラに変身するヒロイン・倉下月海を演じた芳根は役にピタリとはまっていた。この手のキャラはどう見てもモテそうな美人女優に演じられると興ざめするものだが、その時々で様々な印象を与えることができる彼女の顔のおかげで、視聴者はその外見のギャップを素直に楽しみながら、月海の恋と夢を応援することができたのではないだろうか。

狂気演技でSNS騒然!朝ドラヒロイン像を打ち壊す新境地

 そんな芳根が先日最終回を迎えた『高嶺の花』(日本テレビ系)では、石原さとみが演じるヒロインの妹・月島なな役を演じ、視聴者の予想を裏切る新たな顔を見せたことが話題となっている。この役は彼女がこれまで多くの作品で演じてきたような純情娘キャラ……かと思いきや、途中からストーリーは意外な展開へ。清廉で従順なお嬢様だったななが嫉妬と激情に満ちたダークサイドを見せ、恋に一途なオンナのしたたかさとずるさを発揮しはじめるのだ。この変化を見事に演じている芳根に対して、SNSでは「負のオーラがすごい」「闇落ちぶりが実に最高」「豹変ぶりがすごい」など驚きと賞賛の声が上がった。

 さらに、芳根がこれまでにない衝撃的なキャラクターを熱演しているのが、土屋太鳳とW主演している新作映画『累-かさね-』だ。彼女が演じるのは女優として天賦の才能をもっているが顔に醜い傷がある累。口に塗ってキスをすれば顔を入れ替えることができるという特別な口紅を持つ累は、女優として芽が出ない美女ニナの顔を借り、女としての欲望と野心を叶えようとする。つまり、芳根は累という自分の役と土屋太鳳の演じるニナという役を演じ分けているのだが、「本当に身を削って苦しみながら命をかけて撮影しました」と完成披露試写会で語っていた通り、全身全霊の鬼気迫る演技を披露しているのが圧巻。これまでも作品、シーンによって様々な顔を見せてきた彼女にとって、この一人二役の演技は本領発揮といったところだろう。

もはやコンプレックスではない? “地味顔女優”の優位性

 近年は芳根に限らず、次期朝ドラ『まんぷく』(NHK総合)のヒロインを演じる安藤サクラ、映画『ビブリア古書堂の事件手帖』の公開が控える黒木華、玉木宏との結婚でも注目度がアップしている『ハゲタカ』(テレビ朝日系)の木南晴夏、映画『湯を沸かすほどの熱い愛』で日本アカデミー賞助演女優・新人賞を受賞している杉咲花など、実績十分の女優から次世代の女優まで“地味顔の実力派”の活躍が目立ってきている。彼女たちは広瀬すず、長澤まさみ、綾瀬はるか、石原さとみといった華やかで美しいと評されるザ・女優顔と比べて、“個性を主張しすぎない昭和顔”だからこそイメージが固定化されない。その結果、幅広い役柄を演じられ、観客からも女優としてではなく役として共感してもらいやすいといえる。

 加えて芳根の場合、若くしてギラン・バレー症候群という難病をも乗り越えてきた芯の強さが、女優としての底力となっているようだ。『しゃべくり007』(日本テレビ系)で彼女が語ったエピソードによれば、かつてマネジャーに「今お前が辞めても事務所にとって得も損もない」と叱咤激励された時に、号泣しながら「事務所が困るぐらい大きくなって辞めてやる!」と啖呵を切ったというから、その負けん気の強さとハングリー精神は相当なものだ。

 地味顔は女優にとってコンプレックスとなるかもしれないが、役柄の可能性が広がるという点で一つの大きな武器。今年21歳となった芳根も、この武器を使っていろいろなタイプのキャラクターを演じる機会が増えていくはず。女優としてこれからが正念場といえる彼女が、さらにどんな成長をとげていくのか見守っていきたい。
(文:小酒真由子)

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