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朝ドラ『半分、青い。』中村雅俊の“イケてる好々爺” 新たなおじいちゃん像を開拓
孫たちに歌をせがまれ、弾き語りをする仙吉じいちゃん(中村雅俊) 連続テレビ小説『半分、青い。』(C)NHK
若かりし頃は“イケメン”枠の大筆頭だった中村雅俊
中村がテレビで脚光を浴びたのは、74年のドラマ『われら青春!』(日本テレビ系)。主役に抜擢され、その人気は一躍全国区となった。その後、76年『俺たちの勲章』、78年『ゆうひが丘の総理大臣』(ともに日テレ系)に出演したほか、刑事役や熱血漢な役どころなどを好演。今の“イケメン枠”ともいえる青春ドラマの象徴的存在に。また91年には『結婚の理想と現実』(フジテレビ系)などで良き夫、良きお父さん役を。映画『夜逃げ屋本舗』(92年〜)では情にもろい二枚目役を演じるなど、年齢に見合った役柄を次々とものにしていった。
「中村さんを語る上で忘れてはいけないのが、彼がミュージシャンの顔も持つこと」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「『われら青春!』の挿入歌である『ふれあい』は100万枚のミリオンセラーに。ほか桑田佳祐さんが作詞作曲を務めた『恋人も濡れる街角』などを引っさげ、毎年全国でコンサートを開催、彼の歌はカラオケでも、今も根強い人気を誇っています。年齢を重ね、おじいちゃん役が板についてきたところでもって、ミュージシャンとしての技量もあるがゆえに、歌う好々爺=仙吉じいちゃんの役柄がこの上なくマッチするのでしょう」(同氏)
ギター弾き語りのおじいちゃん? 従来のイメージから飛び出した新たな「おじいちゃん像」
居間でギターの玄を張り替えている仙吉じいちゃん 連続テレビ小説『半分、青い。』(C)NHK
「SNSでは“歌に涙が出まくり”“生歌は心に染みた”“仙吉さんの歌のシーンに尽きる”などの絶賛が続出。15分しかない放送時間に、惜しみなくフルコーラスに近い状態で流された贅沢さもあり、視聴者には興味深く新鮮に映ったかもしれません。ですが同時に、“中村雅俊のおじいちゃん役はしっくりこない”の声も。これは、今までのドラマのおじいちゃん史でなかなかない光景であり、それ故、“安定”のホームドラマを求める人には違和感があるのではないか」(衣輪氏)
確かに同・朝ドラ『ひよっこ』の古谷一行、また『過保護のカホコ』(日テレ系)の「おじいちゃん」こと平泉成、「じいじ」こと西岡徳馬など、昨今のドラマを見ても、寡黙だったり、かまってほしいが故にわがままになったりといった、いわゆるこれまでのおじいちゃん像が描かれている。ほかホームドラマのおじいちゃんと言えば、頑固一徹、厳格な人というキャラ設定も定番。「ドラマファンが求めるステレオタイプな“おじいちゃん像”が描かれてきたと言えます」(同氏)
シニアも世代交代 “カッコイイおじいちゃん”は今後も増加傾向?
「『水戸黄門』(TBS形)やテレ朝系の刑事ドラマに根強いファンがいるのを見ても分かる通り、ドラマファンには、“典型”を良しとし、それで安心する視聴者は多くいます。なので最初は違和感を覚えますが、ミュージシャン・中村さんのフォークギターによる弾き語りは、それだけでショー足りうる。テレビとは、そもそもが“テレビショー”なので、ショーとして成立していれば、新しいことをやっても受け入れられることが多い。好意的に受け止められた結果、仙吉は単に奇をてらった存在ではなく、“ちょっと枯れた感じとギターを弾くというアンバランスさがイケてる”と感じられ、今のSNSの盛り上がりがある」
「70年代には学生運動は衰退しつつあり、日本万国博覧会が開催。ブルース・リーがブームとなり、欧米ではロックがポップミュージックの主流に。日本の音楽シーンでもプログレッシブ・ロック、グラムロック、ニューロマンティック、パンク・ロックが “最先端”とされた。音楽文化豊穣の時で、今の日本の若者カルチャーの基礎が築かれた時代とも言える。中村さんたちは当時のニュージェネレーションで、だが若者の多くは貧しかった。そんな若者カルチャー黎明期に青春を謳歌したからこそ若者の苦悩を理解し、背中を優しく押す存在を好演できるのでしょう」(衣輪氏)
ドラマ上では、先日16日に楡野仙吉さんが88歳で永眠された。ひ孫の花野を抱いて一緒に昼寝をしながら安らかに眠るという大往生であった。ギターの弾き語りをしながら、ささやくような優しい声で歌い始め、最期も日常の中でそっと逝く。常に穏やかな雰囲気を醸し出していた仙吉爺ちゃん。視聴者からも「温もりを感じた」、「温かい気持ちになれた」とホッコリした“ロス評”が見られた。
二枚目のハンサムであるが、ちょっとタレ目がチャームポイントな中村雅俊だからこそ、“イケてる好々爺”なる新たなおじいちゃん像を開拓できたのではないだろうか。この世代には、寺尾聡、三浦友和、草刈正雄ら多くの魅力的なシニア俳優がいる。次なるホームドラマで“新たな好々爺”が登場してくるかもしれない。
(文/中野ナガ)