民放連続ドラマが朝ドラ化、背景に高齢視聴者の取り込み
連続ドラマで目立つ朝ドラ出身俳優の活躍
この理由として挙げられるのは、まずはキャスティング。以下のとおり朝ドラのメインキャスト経験者が勢揃いしているのだ。
松本穂香(『ひよっこ』第4週ほか)
松坂桃李(『梅ちゃん先生』『わろてんか』)
土村芳(『べっぴんさん』)、久保田紗友(同)
宮地雅子(『あぐり』『すずらん』『ひよっこ』)
竹内都子(『カーネーション』)
大内田悠平(『とと姉ちゃん』)、稲垣来泉(同)
山本圭祐(『梅ちゃん先生』)
尾野真千子(『芋たこなんきん』『カーネーション』)
木野花(『純情きらり』『どんど晴れ』『あまちゃん』)
塩見三省(『甘辛しゃん』『十条キラリ』『あまちゃん』)
仙道敦子(『おしん』)
宮本信子(『本日も晴天なり』『まんてん』『どんど晴れ』『あまちゃん』『ひよっこ』)
ちなみに、前クールも『コンフィデンスマンJP』東出昌大(『ごちそうさん』)、『シグナル』坂口健太郎(『とと姉ちゃん』)、『花のち晴れ』杉咲花(同)、『正義のセ』吉高由里子(『花子とアン』)、『未解決の女』波瑠(『あさが来た』)、『モンテ・クリスト伯』ディーン・フジオカ(同)、『あなたには帰る家がある』玉木宏(同)、『おっさんずラブ』田中圭(『おひさま』)、吉田鋼太郎(『花子とアン』)、『ブラックペアン』竹内涼真(『ひよっこ』)、葵わかな(『わろてんか』)など朝ドラ出演俳優は多くの連ドラで活躍しているのだが、『この世界の片隅に』のように1作にここまで集中するのはめずらしい。
安心と安定感の朝ドラ、脇役を含め役者が注目されるきっかけに
次に世界観だ。朝ドラの王道は、悪人は登場せず、誰もがいい人で心温まるエピソードが多い、主人公の成功物語。その安心と安定感が、年配者が多い視聴者層をしっかりと掴んでいる。今季の『ラストチャンス』の主人公・樫村徹夫(仲村)も、最終的には「一生懸命働くことがよい人生になる」と考える人物で、“いい人、安心と安定”という意味での朝ドラ主人公的性格を匂わせる。
世界観と言えば、『この世界〜』の脚本・岡田惠和氏もそうだ。『ビーチボーイズ』『泣くな、はらちゃん』『心がポキっとね』などのほか、『ちゅらさん』『おひさま』『ひよっこ』と3作の朝ドラ脚本を務めた人気脚本家。岡田氏の作風は、どこか優しい世界観にフィクションとしての毒や違和感を混ぜつつ、どこまでも続いていきそうな物語の“ある部分”を切り取ったような視聴感が特徴。変人は登場するものの絶対的悪はほぼ現れず、金太郎飴のようなステレオタイプのエンタテインメントは避けている印象がある。
つまり、形の上だけで見ると朝ドラと似ている。同作から感じられる朝ドラ感は、原作が持つ雰囲気はもちろん、キャストと岡田氏の世界観によるものが大きいと考えられる。
朝の視聴習慣の取り込みを狙う民放朝ドラ参入も
現在は少子高齢化とともに、テレビを観ない若年層が増えてきている。若い世代を取り込むことはあらゆる業界の喫緊の課題であり、メディアにおいてもそれをなくして未来がないことは間違いないが、若者だけをターゲットにしていては、視聴率を指標にする以上、数字的に限界があることも分かってきている。高齢層をメインにした幅広い視聴者層を取り込むために、数字の良い朝ドラで注目された役者、力を見せた役者がキャスティングされるのは自然の流れだ。同時に、朝ドラが好調となれば、それに倣った世界観のドラマも増えやすくなる。視聴者が「民放が朝ドラ化している」と感じるのは、この辺りが理由と言えるだろう。
一方、朝ドラの視聴率が好調なひとつの要因として挙げられるのは、朝の視聴習慣。1日の始まりに、ニュースなど情報番組を観る流れで朝ドラをそのまま視聴している層は多い。そこを取り込もうと画策しているのが、日本テレビだ。開局65周年を記念して、『架空OL日記』で向田邦子賞を受賞したバカリズムが脚本を手がける朝ドラを制作することが発表されている。
昨今の連ドラの朝ドラ化に続いて、いよいよ朝ドラへの民放の参入も始まる。数々の実験や挑戦が行われ、過渡期を迎えている昨今のテレビドラマ界だが、朝ドラを巡る民放各社の動向は今後も要注目だ。
(文/衣輪晋一)