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今季最高のドラマとの声も 『透明なゆりかご』に見るNHKの矜持

  • 清原果耶が主演を務める、放送中のドラマ10『透明なゆりかご』(NHK総合)

    清原果耶が主演を務める、放送中のドラマ10『透明なゆりかご』(NHK総合)

 産婦人科は赤ちゃんが産まれるだけの場所ではない――。中絶や不倫の末の妊娠、母体死亡など、幸せな出産の裏にある陰に向き合うNHKのドラマ『透明なゆりかご』(毎週金曜 後10:00〜10:44)がSNS上で話題になっている。「見るのに勇気がいる」「視聴後ねこそぎ気力を持っていかれる」など、重すぎるテーマを扱うがゆえの感想が見られる一方で「(だからこその)命の大切さを自分の子どもにも伝えていきたい」などの声も。「今季もっとも優れたドラマに?」との呼び声も高い同作の魅力とは?

『コウノドリ』よりも壮絶、影が色濃いストーリーをNHKで放送する意味

 原作は沖田×華氏による漫画『透明なゆりかご 産婦人科医院 看護師見習い日記』。准看護学科に通う高校生だった沖田氏が、看護師見習いとして産婦人科医院で勤務した実体験をもとにした作品で、ただ生命が産まれるだけの幸せな場所ではない産婦人科の現実を描き続けている。同漫画では、「中絶をした後、胎児のかけらを集めて瓶に詰める」、「女子高生が一人お風呂場で出産」などのショッキングなシーンがあり、同ドラマではこれもしっかりと映像化されている。

 同漫画の読者からは「原作の世界観を見事に映像化している」などの声がSNSに挙がっており、「中絶の胎児のかけらを瓶に詰める現実は原作を見てショックだったけど、それも描かれていてすごい」「夫と見てしんみりしてる」「命の大切さを子どもたちにも伝えたい」など、好意的な声が多数。家族がいる世帯では、その重さや厳しい現実を受け止めようとする流れも見られる。

「ある意味『コウノドリ』(TBS系)よりも壮絶。あまり例が見られない医療ドラマ」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「医療ドラマと言えば、『白い巨塔』(フジテレビ系)など院内の権力争いに焦点を当てた作品を始め、『Dr.コトー診療所』(フジ系)のようなヒューマンドラマ、『ナースのお仕事』(フジ系)のようなコメディ、『救命病棟24時』(フジ系)のようなリアリティ系と多くのジャンルがありますが、そのほとんどが昨今の『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』(テレビ朝日系)のように、医師が問題を解決する物語が主軸で、後は他ジャンルとの融合がほとんど。そして大半はラスト、なんらかのカタルシスが得られる作りになっています」(衣輪氏)

 だが『透明なゆりかご』は、問題の根幹部分は解決されない場合が多い。例えば第1話では不倫の末に出産した患者の赤ちゃんが退院後すぐ死亡した際、それが事故だったのか、虐待だったのか、結論は視聴者に投げかけられ、余波を残して終わりに。だがヒロインはそこで希望的な現実を空想しており、同じように産婦人科を描いた『コウノドリ』が“光とその中にある陰”を描く一方、『透明なゆりかご』はある意味“陰の中で光を探す”作りになっている。

「このように、救いようのない問題を、ドラマ的なケレン味を外しつつ、ドキュメンタリーであるかのように見せていくのは、民放ではなかなかできないこと。潤沢な制作費があり、スポンサー等のしがらみのないNHKだからこそのドラマだと言えます」(衣輪氏)

主演の清原果耶が魅せる“透明感”が重いテーマ性を相殺する存在に

  • 『透明なゆりかご』でアオイ役を演じる清原果耶

    『透明なゆりかご』でアオイ役を演じる清原果耶

 にもかかわらず『透明なゆりかご』は不思議な透明感と光に満ちている。「これはヒロインを演じる清原果耶の存在感が大きい」と衣輪氏。清原は、朝ドラ『あさが来た』で女優デビュー、『放送90年 大河ファンタジー 精霊の守り人』(NHK総合)で綾瀬はるか演じるヒロインの少女時代を好演。映画でも『3月のライオン』『ちはやふる-結び-』など話題作に出演する16歳だ。 

 演じるアオイは看護学校に通う高校生で、舞台となる産院で看護助手のアルバイト。彼女の演技について「目力がすごい」「透明感がすごい」と話題になるほか、衣輪氏は「朝ドラ出身ならではの直球芝居、また“未来への希望”を感じさせる空気を持っている」と分析。重いテーマ性を少し軽くする役割も担っている。

 脇を固める瀬戸康史、原田美枝子、水川あさみらの演技も同ドラマを語る上で外せない。例えばアオイが務める医院の院長・由比先生を演じる瀬戸康史には「大人の男の人という現実味を演じられている」「瀬戸史上、最高の役」などの声が。各話のゲスト俳優でも、第3話の田畑智子には「イラつかせる演技が秀逸すぎ」、妊産婦死亡で妻を亡くした夫を演じた葉山奨之は、第4話で、妻を亡くした怒りや孤独、疲弊や無気力、号泣から自覚への芝居の流れが好評を博しており、「やるせない」「泣かずにいられない」の声が挙がる。「ベテランかつ安心して見られる役者陣の芝居で安定と安心感が。観る人が悲劇の重みで潰されるのではなく、エピソードとして“そこに”置いていく“流れ”も生んでいる」(衣輪氏)

NHKの“安心感”が顕在化、ドラマが“教育番組”としての役割に

 そして驚くべきことに、SNSでは「保健体育の教材として扱ったほうがいい」「娘たちと一緒に見ればよかった」「家族で見て号泣」など、“親子関係”や“子どもへの教育”を意識した声も多く挙がっている。子どもにドラマを見せる基準として“NHK”が制作しているというのは重要で、親にとって「安心して見せられる」と思える“絶対的な安心感”は本作においても顕在。この点も“NHKだからこそ”だ。

「出産はドラマティックですが、産婦人科では日常であり、その日常には“中絶”なども含まれる。そんな、日常を日常として描くニュートラルさが本作の特徴であり、これは『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(フジ系)第3期と劇場版も手がけた脚本家・安達奈緒子さんの力も大きい。『コード・ブルー』で安達さんは医療監修の先生からリアルにまつわる非常に丁寧な指導を受けた経験があり、これがかつて『中学生日記』などを放送していたNHKのノウハウと良い化学反応を起こしている」(衣輪氏)

 幸せな出産を描くだけでない『透明なゆりかご』。原作にはさらなる悲しい現実やショッキングなエピードも多く描かれている。同ドラマが最終回に向けてどのような展開を見せるのか、見守っていきたい。
(文/中野ナガ)

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