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【連載10】SMAP 5人の役割を考察:香取慎吾 小学生からずっと――末っ子が生きてきたSMAPという人生

「SMAPでも、つらかったり苦しかったりすることがあって」

 また、『笑っていいともグランドフィナーレ』でのタモリへのスピーチに戻るが、そこで香取は、「テレビに出ている僕ですけど、SMAPでも、つらかったり苦しかったりすることがあって。笑ってなきゃいけないのがつらいときもあって……。でも始まったら、笑顔になってる自分がいて」と涙をこらえながら話していた。SMAPの末っ子であることも手伝って、一般的には“天真爛漫”だと思われがちな香取だが、実は彼には独特の影がある。もちろん、そんなことはファンならずっと以前からわかっていた。だからこそ、ドラマ『未成年』(TBS系・95年)や『ドク』(フジテレビ系・96年)では、胸が締め付けられるような孤独や絶望や哀しみが表現できたのだ。11歳から芸能界にどっぷり浸かっていた香取の場合、いわゆる思春期に、もう仕事で自分を表現しなければならなかった。本来なら、将来自分が歩むべき道を模索して、様々な自我の壁にぶつかるべき時期に、歌って、踊って、芝居をして、カメラを向けられればニッコリ笑って、取材で自分の話をして……。“自我”なんてものと格闘する暇もないくらい、目の前にある“やるべきこと”に忙殺された。

 だから彼には、“つよぽん”(草なぎ)以外、友達がいない。当たり前だ。小学校6年生から、放課後は連日仕事。学校で友達なんかできるはずがなかった。仕事先では、大人たちに囲まれ、“プロ”としての振る舞いを要求される。2004年のNHK大河ドラマ『新撰組!』で共演した山本耕史に連絡先を“盗まれ”、以降、年に一回は共演者同士で集まるようになった。山本耕史と観月ありさとは同学年で、2014年にはミュージカル『オーシャンズ11』で共演もした。香取と山本の信頼感が垣間見えるシーンもあって、ドキドキした。香取のエンタティナーとしてのスケール感がビシビシ伝わってくる、とてもゴージャスな舞台だった。山本も観月も、香取同様幼い頃からテレビで活躍しているからこそ、世間のイメージと本来の自分との狭間での葛藤を、共有できたのかもしれない。

香取慎吾の光と影……だが彼は確実に「SMAPバカ」である

 『いいとも!』が終わって、『オーシャンズ11』に出演して、『27時間テレビ』があって。アルバム制作にコンサートの演出と、2014年の香取は、怒濤の仕事量をこなしていた。洋服をこよなく愛する彼が、『服バカ至福本』という私服満載のファッションブックを上梓したのも2014年のことだ。香取には、いい意味での、“バカ”という言葉が似合う。服バカで、たぶん笑顔バカ。どんなにつらいときも、人前に出れば、自然に笑顔になっていた。笑えないときでも、笑っていた。その笑顔に、何度も何度も、力をもらった。あんなにも、一瞬にしてその場を明るく照らす笑顔を、私は他に知らない。

 一方、この頃から彼は自分の中の“暗部”をあまり隠さなくなって、自らを「スーパービジネスアイドル」と公言したり、“いつも明るく元気な慎吾ちゃん”と、“実は友達のいない孤独なオレ”のギャップ感を、自虐的に面白がるような姿も時折見られるようになった。

 香取慎吾には、ハッピーでキラキラした圧倒的な美しさと、特殊な世界で自我を育んできたことから生まれた劣等感と、それからくる孤独の哀しみのような、人を惹きつける上での両極端の魅力がある。光が眩しければ眩しいほど、そこに映る影も濃い。小学生のときからSMAPで、ライブのときは、よく「おじいちゃんになってもSMAPです」と宣言していた。SMAPは、彼の人生そのものだ。メンバーの誰もが、SMAPを心から愛している。でも、「SMAPバカ」と呼べるのは、香取だけなのかもしれない。
(文/菊地陽子)
【連載11】に続く

【連載1】SMAP解散がもたらした喪失感 終わらないことは“残酷”なのか?
【連載2】SMAPにとっては“異色”だった国民的ソング「世界に一つだけの花」
【連載3】SMAPきょう25周年 記者が見た5人の真実 PART1
【連載番外編】記者が見たSMAPの真実 PART2 〜中居正広と木村拓哉の素顔〜
【連載番外編】記者が見たSMAPの真実 PART3 〜稲垣吾郎・草なぎ剛・香取慎吾の素顔〜
【連載4】逆境に強いSMAP ライブで見せた成長と結束の物語
【連載5】SMAPのベスト盤 木村の歌を中居がプッシュしたあの日
【連載6】SMAP 5人の役割を考察:中居正広 自分たちのことでタブーは作らない、“自虐”という神センス
【連載7】SMAP 5人の役割を考察:木村拓哉 バッシングされるスーパースター、逃げない男の真実
【連載8】SMAP 5人の役割を考察:稲垣吾郎 解散発表後はじめてファンの前に立った、個性派集団の中のバランサー
【連載9】SMAP 5人の役割を考察:草なぎ剛 無垢で天才、嘘のない“5番目の男”がSMAPを予測不可能な未来へ

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