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【連載9】SMAP 5人の役割を考察:草なぎ剛 無垢で天才、嘘のない“5番目の男”がSMAPを予測不可能な未来へ

 前回お送りした『稲垣吾郎 個性派集団の中のバランサー』に続く、SMAP連載第9弾。今回は、草なぎ剛について触れたい。年末をもって解散すると発表されたSMAPだが、年明けすぐの1月から、草なぎはドラマ『嘘の戦争』(フジテレビ系)に出演する。そう、かつて“SMAP5番目の男”と言われていた彼は、もはや日本のドラマシーンに欠かせない役者となった。それを可能にした草なぎにしかない特性とは? 今後のSMAPにとって、嘘のない男・草なぎが鍵になるのかもしれない。

“SMAP5番目の男”、草なぎ剛の出世作となった『いいひと。』

 SMAPいち、もっと言えばジャニーズいち、“予測不可能な男”である。

 25年前、あるいはSMAPが結成された28年前、誰が草なぎ剛の現在のような活躍を予想していただろうか。もちろん、当時は誰一人として、たぶん本人たちでさえ、SMAPが世紀をまたいで大活躍し、“国民的アイドルグループ”と呼ばれるようになることなど想像してはいなかっただろう。アイドルの旬は今よりもずっと短かったし、活躍する場にしても、今よりもずっと限定されていた。

 一般的に、SMAPがブレイクしたとされる95〜96年までには、草なぎ以外のメンバーは、役者としてそれぞれに連続ドラマで“主演”を経験していた(96年に脱退した森且行も、デビュー前の89年に漫画原作の日本テレビ系ドラマ『ツヨシしっかりしなさい』で主演を務めている)。96年4月に自らのグループ名を冠したバラエティ番組『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)がスタートし、軒並み高視聴率を連発。歌もダンスもトークもコントも料理もドッキリも罰ゲームもこなすスーパーアイドルグループにあって、森の脱退後、“SMAP5番目の男”として、比較的目立たない存在だった草なぎが、一躍脚光を浴びることになったのが、97年4月スタートのドラマ『いいひと。』(フジテレビ系)だった。

 草なぎが演じたのは、スポーツメーカーに勤務する北野優二。彼の信念は“周囲の幸せが自分の幸せ”で、あまりに“いいひと”すぎるため、様々な場面で貧乏くじを引いてしまう。当時から、「キャラクターが似ているのでは?」とインタビューなどでよく聞かれ、草なぎ自身は、「僕はそんなにいい人じゃない」と答えていた。ドラマは初回から20パーセントを超える視聴率を叩き出し、“SMAPで最後まで名前が出てこない男”は、そのアイドルっぽくない実直さを武器に、一人のリアルで不器用な青年として、多くの人たちの共感を集めた。アイドルに少なからずアレルギーのあるはずの中年男性からも、「草なぎはなぜか好感が持てる」という声がよく聞かれた。大人の男性にとって、90年代のアイドルは、今以上に「チャラチャラして、たいして努力もせず、見た目のカッコ良さだけでキャーキャー言われやがって……」とやっかみや嫉妬の対象だった。彼らが人一倍努力していることは、アイドルに興味のある人ならよくわかっている。ただ、彼ら自身は今も昔も、「自分たちは夢を売る商売なのだから、影の努力は表に出さないほうがいい」と思い込んでいる節もあり、あまり大変さを口にすることはない。

5人の中ではいじられキャラ、芝居では故・つかこうへいさんも認める「大天才」

 もともと、草なぎという存在からは、妙な自意識の薄さが漂っていて、それがかえって彼を“気になる存在”にさせていた。キラキラの4人に囲まれながら、“やればできる子”であることはSMAPのファンならよくわかっていたけれど、出しゃばらず、いつもニコニコして、癒し系で、いじられキャラで、打たれ強くて。グループの中では、ちゃんと自分の居場所は確保しつつも、今の自分に甘んじている感じもしなかった。不思議と、向上心の塊なんだろうな、ということは伝わってきていた。連ドラの主演が発表になった後、スペシャルドラマ『沙粧妙子−帰還の挨拶−』(97年3月・フジテレビ系)で悪役を演じ、その鬼気迫る芝居に、衝撃を受けたことを今もよく覚えている(このドラマの草なぎの役は、最近になっても中居正広が「あの剛の芝居が好き」と話すほどだ)。役者・草なぎ剛が開眼したのは、あのスペシャルドラマがきっかけだったのかもしれないと、今になって思う。

 草なぎの芝居は、不思議と胸を打つ。表情なのか、口調なのか、視線なのか、動きなのか。とにかく、彼が全身から発する何かが、見る側の心の琴線――感情を震わす柔らかい場所――に触れる。かつて、劇作家で演出家の故・つかこうへいさんには、「大天才」と評された。つかさん自身、紛れもない天才だが、99年の舞台『蒲田行進曲』で、その天才を、20代の草なぎが唸らせた。それは、演出家の想像をはるかに超えた演技で、結局、稽古中につかさんは、草なぎに一つとして芝居の注文はつけなかったという。

 ドラマや映画での芝居も素晴らしいが、草なぎの舞台での芝居は、ちょっと特別だ。彼の存在そのものが、毎分毎秒、ぐいぐいと胸に迫ってくる。変な言い方だが、同じセリフを、例えばハングル語や英語で言われたとしても、そこに乗せている感情は、言語に関係なく正確に伝わってくる感じがするのだ。草なぎの発するセリフから汲み取れるのは、言葉の意味ではなくて感情そのもの。呆れたり、驚いたり、戸惑ったり、苛立ったり、興奮したり、嫉妬したり、諦めたり、迷ったり。豊かな感情の使い手であることに、驚嘆させられながら、「でも人間って、そういうものだよな」と気づかされる。

ハングルもギターも歌も、不器用だけれど常に一生懸命で夢中

 草なぎがアイドルらしくないのは、彼がどうしようもなく、人間臭いからなのかもしれない。ひとつの役を自分のものにするために、もがいて、もがいて、もがいて、もがく。不器用なことを自覚している分、自分にできることは何だってする。稀代の努力家、勉強家。そして凝り性。思えば彼は、芝居以外に、ハングル語にタップにピアノにギターと、アイドルとしても様々なことにチャレンジしてきた。ハングルはネイティブ並みの発音で、“ビストロSMAP”(『SMAP×SMAP』内)にゲストでやってくる韓流スター達に話しかけるたび、ゲストを感激させた。コンサートツアーでピアノを披露したことは二度ある。2010年の『We are SMAP!』ツアーでは、死んでしまった恋人を思うバラード「短い髪」でピアノを担当。歌は香取慎吾がメインだったが、草なぎと香取の、心を一つにしたようなハーモニーもまた切なかった。ピアノも歌も、決してうまい部類ではない。でも、心をギュッと掴まれる。コンサートDVDを何度繰り返し観ても、この曲でいつも胸が苦しくなる。

 「SMAPの歌には、心がある」とかつてのインタビューで草なぎは話していた。でも、歌と同様かそれ以上に、草なぎの芝居には、ちょっとびっくりするぐらい豊かな感情が込められていて、それはピアノやギターに対しても、同じことなのだ。『SMAP×SMAP』の“イケメン登山部”(9月12日放送)で自作の曲を披露したときは、たどたどしい弾き語りだったけれど、だからこそ目と耳が釘付けになって、最後はホロっとした。橋下徹元大阪市長が“ビストロSMAP”にゲストで来店したとき(9月5日)は、自分のギターで、サザンオールスターズの曲のイントロクイズをやろうと提案し、夢中になるあまりに出だしの歌詞を自ら歌ってしまうという前代未聞の出題方法で、その場を和ませた。目の前のことに夢中になっている草なぎを見ていると、「本当に楽しいんだな。本当に好きなんだな」ということが伝わって、嬉しくなる。

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