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無名の新人女優が『なつぞら』柴田家の次女役を勝ち取るまで

 NHK朝ドラ100作目で視聴率好調な『なつぞら』。戦災孤児だった主人公のなつ(広瀬すず)が育った柴田家の末っ子・明美が大学生になり、8月の放送から新人女優の鳴海唯(21)が演じている。演技を学んで半年でオーディションを勝ち抜き、この朝ドラで女優デビュー。彗星のように現れた彼女の足跡と素顔を探った。

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■「自分に言い訳ばかりして、ずっと流されて生きてきた」

 北海道の牧場育ちの明美役では、素朴であどけなさの残るたたずまいを見せているが、兵庫出身の鳴海自身は、ストレートヘアで整った顔立ちが際立つ美女だ。『なつぞら』初登場は、なつが婚約報告のために柴田家に里帰りして、家族や牧場仲間が勢揃いしたシーン。その8月5日の放送を、自身は午前8時からリアルタイムで観たという。

「直前に幼なじみから連絡が来て『鳴海唯のテレビ初出演を副音声にして観よう』と、2人で電話で話しながら観ました。すごくドキドキしましたけど、明美が映ってテロップが出た瞬間、友だちのほうがワーッと泣いてしまって(笑)。私は『これは本当に自分なのかな?』って不思議な感覚でした」

 その日は地元の友だちから「ビックリした」といった連絡が相次ぎ、両親からは「喋ってないときにボーッとしてなかった?」と厳しい指摘が。

「自分で観ても緊張が画面に出てしまっていたので、反省しました。でも、2日目の放送の後には『ちゃんと柴田家の明美ちゃんになれていたね』と誉めてもらえました(笑)」

 女優に興味を持ったのは、小学生のときに上野樹里(33)主演のドラマ『のだめカンタービレ』を観てから。だが、中学・高校時代は積極的なアクションを起こさなかった。

「バレーボール部に入ったり、バンドのボーカルをやって、部活帰りにみんなでハンバーガーを食べたり、平凡な学校生活に幸せを感じていました。高校では大学受験が当たり前の環境の中で『私は役者を目指すので』とはとても言えず……。自分に言い訳ばかりして、ずっと流されて生きてきたので、一歩踏み出すことができませんでした」

 オーディション雑誌を見て履歴書を送ったことはあったが、まったく通らなかった。

「『とりあえず東京に行けば何かある』と思って、東京の大学に通いながら役者を目指そうとしていたんですけど、受験で全部落ちてしまい、すべり止めだった関西の大学に入りました。舞台芸術学科で『ここで4年間、演技について学んでから』とフワッと考えながら、上京できなくなった瞬間、ほぼ諦めモードになりました」

■「すべてが役者に繋がるという気持ちで何でも楽しく」

 転機になったのは大学1年のとき、握手会に行くほどファンだった広瀬すず(21)が主演した映画『ちはやふる−結び−』の撮影に、エキストラで参加したこと。高校生の競技かるたの全国大会のシーンで、大勢の観客の一人として現場を体験した。

「同世代の方たちのお芝居を拝見して、『私はここで何をしているんだろう?』と思いました。『大学に4年通って、役者にチャレンジしないまま終わっていいのか?』と、自分の中で滑車がダーッと回り出す感覚になりました」

 東京の俳優養成所に合格し、親を説得して大学を辞めて上京。父親には最初、反対されていた。

「『受験であれだけお金がかかったのに、何を言い出すんだ!』と怒られました。でも母から、父も若い頃は役者になりたくて上京したことがあると聞いたんです。父にマッサージをしながら、その話をしたら『どこで聞いた?』と言われながら、『本気で芝居が好きでないなら止めたほうがいい。本気ならチャレンジしてみればいい』と認めてくれました」

 上京してからは週4日ほど養成所に通いながら、派遣のアルバイトにも精を出した。

「宅配便の荷物の仕分けとか、人の家のお掃除とか、本当にいろいろやりました。配達する人を観察したり、すべてが役者に繋がるという気持ちで臨むと、何でも楽しくできます。でも、お金がなくなった時期があって、もやしばかり食べたりもしてました(笑)」

 養成所では初めて本格的な演技に触れて、学んだことは多かったという。

「私は自分の台詞だけ覚えればいいのかと思っていたんですけど、相手の台詞ひと言の言い回しによって、自分の台詞の言い方が全然変わることにビックリしました。それと、たくさんの監督さんに教えていただいて、それぞれお芝居に対する感覚が違っていたので、希望に合わせて演じることも勉強になりました」

 そうこうしながら半年も経たないうちに頭角を現し、スタッフの目に留まるように。養成所で制作した映画に出演し、オーディションで川栄李奈(24)と共演した『銀座カラー』などのCMも決まっていく。そして、初めて受けたドラマのオーディションが、上京のきっかけを作った広瀬主演の『なつぞら』だった。ただ、最初に受けたのは明美役でなく、姉の夕見子役。

「5人ずつ入って、ペアになって役を入れ替えながら演技をしたんですけど、私は初心者だったのに他はテレビで観ていた方たちばかりで、『あっ、あっ』と緊張してしまって……」

 最終候補まで残ったものの結果は不合格。夕見子役は民放ドラマのレギュラー出演歴もある福地桃子(21)に。

「自分の力不足と、お仕事をされている方たちとの差を感じました。もしまたNHKのオーディションを受けられたら、『落ちたら運がなかっただけ』と言えるくらい、全力を尽くして挑もうと思いました」

■「審査員さんが笑ってくださることが多くて」

 数ヶ月後、大学生になった明美のオーディションの話が来た。

「当日まで毎日台本を読み込んで、どこから読んでも台詞を全部言えるくらい、完全に頭に入れました。そうすれば自分に余裕ができて、相手の役者さんがどんな言い回しで来ても、どう受けたらいいか考えられますから。オーディションでは今までないほどやり切った感はあって、お芝居が楽しかったです」

 今度は見事に明美役に決定。マネージャーから連絡を受けたときは胃腸炎で寝込んでいたが「すぐごはんを食べられるようになりました(笑)」。『なつぞら』の放送が4月に始まると、5月中旬に自身がインするまで毎日観て、子役の平尾菜々花が演じていた明美を研究。撮影では話し方のペースを普段の自分より遅くしたり、インパクトのあるひと言が多い明美の突発的な台詞の言い回しを意識したという。

「明美ちゃんは末っ子なのにしっかり者で、家事を誰より手伝っていて、そういう部分は私と真逆です。私は家事はお母さんに言われて嫌々する感じで、部屋はすぐ散らかるし、1日1回は何かを忘れるほど抜けているので(笑)。そのくせ、小さなことをめっちゃ気にするところもありました。小学生の頃は友だちに『ちょっと太った?』と冗談で言われたのを気にしすぎて、ダイエット日記をつけ始めましたから(笑)」

 『なつぞら』の撮影中にも悩むことは少なくなかった。

「一流の方々のお芝居を目の当たりにして、自分の力不足を感じて反省する毎日で、どう明美にアプローチするか考え込んでしまいました。でも、母に相談したら『柴田家の一員として自然にやればいいんじゃない?』と言われて。以前の私は考えすぎてやりすぎて、大学受験も失敗したので、脳みそを一度リセットして、楽にやるようにしました。『朝ドラだから。全国に放送されるから』といったことは考えないようにして、緊張は回を重ねるごとにほぐれました」

 ちなみに、彼女はオーディションなどで自己PRがあると“モノマネ”をするという。

「英会話CDの『レッスンワン』とかのボイスのマネをします。『そんなことするの?』みたいな感じで、なぜか審査員さんが笑ってくださることが多くて、一緒に並んでオーディションを受けている方もクスクスします(笑)」

■「お笑いは生きがいと言っていいくらい」

 関西出身ということもあり、お笑いも大好きだそう。

「M−1は毎年欠かさず観てますし、お笑いは生きがいと言っていいくらい、昔から私に元気をくれるものでした。今、特に好きなのがアキナさん。漫才はもちろんコントが大好きで、『LIFE!』に憧れます。オモえもんが大好きで、着ぐるみもやりますよ(笑)。好きな女優さんもたくさんいますけど、キムラ緑子さんが映画の『SUNNY』の冒頭で関西弁を爆発させていたところがめちゃくちゃ面白くて、本当に素敵な方だなと思いました」

 さらに、夢はハリウッド映画にまで広がっている。

「中学生の頃から英語だけは成績が良くて好きだったので、機会があれば海外の作品にも出演したいです。あとは、日本アカデミー賞の授賞式に出席して主演女優賞で呼ばれたいとか、コメディ映画に主演したいとか、自分と全然違うシリアスな役に挑戦したいとか、夢は無限大にあります。『憧れの女優さんは鳴海唯』と言ってもらえるようになるのが目標です」

 朝ドラで第一歩を踏み出した鳴海唯が、その夢をどこまで達成していくか注目したい。

(取材・文/斉藤貴志)

関連写真

  • 鳴海 唯 (C)ORICON NewS inc.
  • 『なつぞら』で女優デビュー
  • 連続テレビ小説『なつぞら』第19週より。なつの北海道の家族の妹、明美役で出演
  • 連続テレビ小説『なつぞら』第19週・第109話より。結婚を決めたなつ(広瀬すず)と坂場(中川大志)は、十勝の家族に報告するため北海道にやってきた(C)NHK
  • 鳴海唯 (C)ORICON NewS inc.

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