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“通り過ぎる街”浜松町に変化…大規模開発で「建物を作って終わり」ではない、異例の連携が見せるスクラップ&ビルドの先
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東京タワーに増上寺、芝浦ふ頭…観光スポットは多くとも“地味なオフィス街”のイメージ
(写真はイメージ)
(写真はイメージ)
そんな浜松町が今、大規模開発によって変わり始めている。海沿いの竹芝地区には、2020年に商業施設や劇場、ホテル、オフィスを擁した「ウォーターズ竹芝」や、国際会議にも対応するイベントホールを備えた「東京ボートシティ竹芝」が相次ぎ開業。同じく東京湾に面した芝浦地区にも、今年、オフィスや商業施設、ホテルを擁した「BLUE FRONT SHIBAURA」(以下、ブルーフロント芝浦)がオープン。浜松町芝大門地区では、「世界貿易センタービルディング」の建替えが進行中。2027年から、ホテルや商業施設、ワールドメディカルセンターにカンファレンス施設などを備えた超高層ビルとして順次開業予定となっている。
もちろん、多彩な高層ビルの誕生だけでは街の賑わいや魅力度アップに繋がるかというと、答えは否。しかし、デベロッパーとしては作った建物を“収益を生み出す価値ある資産”にするために、単体で多くの集客を狙うことも当然。足元のエリアの発展まで施策を拡げることは珍しく、ましてや周辺エリアと手を組むことなど滅多にないのが現実だ。
時間も労力もかかるのになぜ? 地区や企業を超えて“連携”したワケ
野村不動産の高橋和也さん(高=はしごだか)
ブルーフロント芝浦におけるエリアマネジメントを担当している、野村不動産の高橋和也(高=はしごだか)さんは言う。
「他事業者との共創は、合意形成が必要なために時間も労力もかかりますし、施策を実現しづらい面があるのは事実です。しかし、当社のブルーフロント芝浦は、魅力的なツインタワーを作って成功させるだけが目的ではありません。20年、30年先を見据えた街づくりや新たなライフスタイルを提案し、中長期的な街の魅力の創出を実現させたい。そんな想いがあります。そのためには、芝浦地区だけでなく、隣接する浜松町芝大門、竹芝の各地区と共に手を取り合うことが必要不可欠だと思っております」(高橋さん/以下同)
それは3地区共通の思いだった。「各々のエリアや活動範囲は限定的なので、共創しなければ浜松町全体の良さは作れない」と高橋さんが言う通り、浜松町芝大門も、竹芝も、芝浦も、魅力的なスポットは点在。大丸有(大手町・丸の内・有楽町)や渋谷、赤坂・六本木のように、ひとかたまりとして魅力が認知されていなかったことが、3地区共通の大きな課題となっていたのだ。
ビジョンの共有からではなく、困りごとの解決で繋がる現実路線
「芝東京ベイ協議会」を設立
ここで興味深いのが、「この3地区には明確なビジョン的な繋がりはない」ということだ。チームを組んで街づくりを推進するとき、まず議論となるのが「どのような街をつくっていくか」という未来像だと思うのだが、「あくまで同じ課題を抱えている者同士、『困っていることをお互いで助け合って解決しようよ』ということで仲間になれたのであって、各地区で描くビジョンは異なる部分もある」とのこと。その背景にはこんな考えがある。
「各地区で特色は違うし、独自の価値が認められるべきもの。各地区の目指す姿は別々に考えることであって、同じにする必要はないと思っています。あくまで、各地区の目指すビジョンに関して相互理解を深めながら、顕在化している共通の問題を解決すること。そして、ここに住む人や働く人、訪れた人が気持ちよく過ごせる空間や体験価値を一緒に作り上げていこう、そんな集まりになっています」
「建物をつくることが街づくりのゴールではない」
芝東京ベイ協議会の活動範囲・魅力的な地域資源
さらに、もうひとつ。回遊性においては、東京湾岸部という立地を生かした水上モビリティにも注力。BLUE FRONT SHIBAURAとウォーターズ竹芝を結ぶクルーズ船を一般社団法人竹芝エリアマネジメント及び一般社団法人竹芝タウンデザインの上で運航。芝浦地区では日の出ふ頭と晴海フラッグを結ぶ通勤船「BLUE FERRY」の運航やイベントが行われている地点とブルーフロント芝浦を結ぶイベント船など、舟運の活性化にも取り組むという。
ほかにも、地域資源の利活用、スマートシティサービスによる防災力の向上など、共通の地域課題に3地区一帯となって取り組んでいくという「芝東京ベイ」。都市開発という一大プロジェクトに携わり、本協議会での活動を通じて、高橋さんはそれまで従事してきた住宅営業では得られなかった大きな気づきがあったと振り返る。
「ひとつは、『魅力的な建物をつくることが街づくりのゴールではない』ということです。建物というハードの価値に加え、移動、体験など立体感のあるサービスを創り上げること。新たに開発されるオフィスビルや魅力的な地域資源をより魅力的に、より利用しやすくする多様なソフトサービスを街にインストールすることで、多くの人を幸せにできるのではないかと考えました」
人や企業が繋がるからこそ、競争ではなく「Give&Give」の精神
無料循環バス「(仮称)はまバス」/東京の水辺を活かした回遊・クルーズ施策のルート
「海や歴史的文化財など、魅力的な資源やスポットがこの街に存在しているのは、先人たちのおかげ。さらに、2013年から都市再生特別地区として街の創出に取り組んでこられた、竹芝地区や浜松町・芝大門地区のおかげです。先駆者である皆様が築き上げてくださった資産やノウハウがあるからこそ、今ここで協議会を設立し、みんなで共に課題に取り組む共創関係を作ることができたと思っています。自分たちだけでできる範囲は限られていますが、人や企業が繋がって出せるインパクトは、はるかに大きいことを実感しています」
任されたプロジェクトを20年、30年先を見据えた街づくりと捉え、多くの人の幸せと社会の豊かさを生み出すものと認識したことで、高橋さんは広い視野を得た様子。そして、そこから「Give&Giveの精神が大切なことにも気づいた」と微笑む。
「プライベートにおける家族間でも、Takeを期待しないでGiveする気持ちがないとうまくいきませんよね。ましてや企業間では、Takeを求めた瞬間に競争関係になってしまい、すべてが崩れる可能性があります。難しいことではありますし、我々もまだまだではありますが、互いがGiveの精神で、結果的に全員にとってTakeの状態になる。継続的かつ発展的な連携のためにはそうした懐の広さも必要だと感じています」
「一気に作り上げて20年後に衰退」ではなく、「更新する街」へ
野村不動産 高橋和也さん(高=はしごだか)
「一気に作り上げて、10年後・20年後に衰退…では元も子もありません。長い時間をかけながら、着実にアップデートし続ける街を目指したい」
大規模な開発が進み、スクラップ&ビルドで街の光景が急速に変化している東京。そんな中で、街が持つ歴史や可能性を大切に、住む人や働く人、訪れる人に寄り添い、課題を解決しながら変化していこうとしている「芝東京ベイ」。東京に限らず、「衰退する街」というのは残念ながらよく耳にするが、反対に「更新する街」があっても面白い。街が成長していく過程をじっくり追いかけるのも、今この地だからこそできる楽しみではないだろうか。
■芝東京ベイ協議会(外部サイト)
(文:河上いつ子)