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(更新: ORICON NEWS

『トクサツガガガ』で再浮上した“特撮” CM界にもブーム波及する日本が誇る文化遺産

 今期放送されたドラマ『トクサツガガガ』(NHK総合)や『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(日本テレビ系)に共通していることがある。それは“特撮”を巧みに取り入れたことだ。同ドラマなどをきっかけに特撮ブームが再浮上する中、その流れはCM界にも波及。ここにきての再評価は、日本独自に進化の過程を歩んできた“特撮”の灯を消さないという、クリエイターたちの“草の根運動”に起因する。

『ゴジラ』『ウルトラマン』円谷プロの功績…時代はCGに移行、特撮は時代遅れの産物に

 特撮と聞いてまず思い浮かぶのが、円谷プロだ。創業者は“特撮の神様”こと故・円谷英二氏。戦前には『ハワイ・マレー沖海戦』を手掛け、戦後の1954年には日本初の本格的特撮怪獣映画『ゴジラ』を公開。空前の大ヒットとなり、昭和の時代に一大怪獣ブームを巻き起こした。そして63年に円谷特技プロダクション(現円谷プロ)を設立。テレビ界に進出し、66年に『ウルトラマン』の放映を開始。以降、怪獣と子供たちの日常を描く『快獣ブースカ』(66年)、ミニチュア特撮で今も多くのファンがいる『マイティジャック』(68年)、特撮技術と人間ドラマが融合した『怪奇大作戦』(68年)なども制作。円谷氏は70年に享年68歳で亡くなったが、同氏が手掛けた特撮は今も愛され続けている。
 「一方ハリウッドでは、恐竜が登場する『ロスト・ワールド』(25年)や『キングコング』(33年)などでパペット・アニメーションがすでに発展していた」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「中でも『猿人ジョー・ヤング』(49年)や『シンバッド七回目の航海』(58年)、『アルゴ探検隊の大冒険』(63年)などで知られるストップモーション・アニメーターのレイ・ハリーハウゼンは、その技術を最大限にまで高め『ゴジラ』や『スター・ウォーズ』シリーズに多大な影響を与えたのです」(同氏)

 しかし90年代以降になると、CGによるデジタル技術を活用したSFX(特殊撮影)が普及し始め、ミニチュア撮影や着ぐるみといったアナログ的な“特撮”は衰退。とくに映画『ターミネーター2』(91年)、『ジュラシック・パーク』(93年)、『マスク』(94年)のインパクトは強烈で、特撮は時代遅れの産物になってしまうかと思われた。

“特撮ヒーロー”がイケメン登竜門の形で存続危機を回避、庵野氏らも特撮保護に尽力

 だが2000年以降、救世主が現れる。いわゆる“特撮ヒーロー”だ。00年に放送された『仮面ライダークウガ』では、オダギリジョーが主人公を熱演。他にも佐藤健や松坂桃李、菅田将暉、竹内涼真など売れっ子俳優を多数世に送り出してきた。クウガから始まった「平成ライダーシリーズ」と共に息を吹き返し始めた特撮は、今やイケメン若手俳優の登竜門として評価が上昇している。
 「背景には視聴習慣の変化がある。以前は、特撮と言えば子どもたちだけが観ていたが、平成シリーズでは30〜50代の親世代が子供と一緒に視聴するようになった。制作陣もいち早くこの現象に気付き、イケメンで将来有望な若手俳優を続々と起用。ストーリーも“大人向け”要素を多めにしている。昭和の特撮ブーム時に子供だった視聴者が大人になり、馴染みがあったものに再び触れブームに火が付いたのでは」(同氏)

 幼少期に特撮に馴染みがあったという意味では、制作側も同様だ。『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズや『シン・ゴジラ』(16年)などで知られる映画監督・庵野秀明氏は大の特撮好きで知られている。『新世紀エヴァンゲリオン』も『ウルトラマン』(特に新マン)のオマージュであるというのは有名な話だ。
 13年に庵野氏は「僕らに創造と技術を与えてくれた特撮を、どうか助けてください」とのメッセージを発信。「平成24年度 メディア芸術情報拠点・コンソーシアム構築事業 日本特撮に関する調査」を監修した際も、特撮におけるミニチュアや造形物の保全が難しい状況に追い込まれていると指摘。特撮を日本の文化として認識し、貴重な遺産として保護することが急務だと伝えた。

 庵野氏の盟友で、今なお特撮ファンの間で“神作品”として挙げられる『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995年)で特技監督を務めた樋口真嗣監督も「我々の先輩たちが作り上げた素晴らしい技術は、残念ながら昨今の合理化、デジタル化によって活躍の場が失われつつあります。想像力と技術力によって生み出された自由な空想世界の遺産を、現在のアニメ、コミック、ゲームといった日本のメディア文化の源泉として未来に受け継いでいきたい」と宣言している。
 庵野氏らの行動は、行政をも動かした。円谷氏の出身地である福島県須賀川市に2018年11月、特撮文化の振興を担う「特撮文化推進事業実行委員会」が設立された。副会長には庵野氏が就任、実行委員会には樋口氏も加わった。19年1月には、同市に「円谷英二ミュージアム」がオープン。特撮番組に関する写真や映像、台本などをまとめた新プロジェクト『ULTRAMAN ARCHIVES』もスタートするなど、今後も特撮保護の動きは広がるだろう。

ドラマだけでなくCM界にも 時代劇とともに日本が誇る“文化”としての特撮

 昨今の特撮再ブームは、今期放送されたドラマにも表れている。連載中の丹羽庭氏の漫画を実写化した『トクサツガガガ』は、長年特撮を制作し続けている東映が撮影協力したこともあり、本格的なヒーロースーツやアクションシーンに注目が集まった。ネット上では「最終回を見て涙。続編希望!」「好きなものに年齢は関係ないっていうメッセージが込められた良いドラマだった」など、好評なコメントであふれかえっていた。また『3年A組』内でも特撮ヒーローが活躍するシーンが織り込まれていたため、「唐突な特撮ヒーロー(笑)」「何か物語上で意味が?」など、ネット上で考察論議が巻き起こっていた。
 そして特撮再ブームの流れは、CM界にも波及している。ソフトバンクが公開したワイモバイルのWEB動画『怪人家族の憂鬱』では、タレントの小倉優子が“怪人ママ”として熱演。子供のスマホデビューに対し、「会話が減るのでは」「勉強しなくなる?」「スマホ依存が怖い」と葛藤する夫婦をコミカルに演じている。ネット上では「ゆうこりんがサキュバス…!」「CMクリエイターに拍手」「このCMから目が離せなくて4分くらい経過してしまった」と話題となっている。

 「特撮再ブームの動きは一時的なものかもしれない。だがそもそも日本のアナログな特撮技術は世界と比べても独特で、高度な技術と伝統が詰まった宝石箱のようなもの。世界のエンタメと勝負する日本の武器の一つとして、時代劇とともに受け継いでいかなければならない」と衣輪氏。昨今の特撮再ブームが今後どんな盛り上がりへと進化していくのか、注目したい。

(文:西島亨)

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