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“不倫ドラマ”の変遷 「ドロドロ」から「笑える愛憎」まで…時代を投影しアプローチも変化
エポックとなった“金妻シリーズ”、人生を謳歌する女性像がテーマに
この頃に描かれる不倫ドラマについてメディア研究家の衣輪晋一氏は、「元々事件が起きやすいサスペンス系を除けば、三島由紀夫が1957年に発表した大衆小説『美徳のよろめき』などの影響下にあった」と分析する。婚前に稚拙な接吻を交わした男友達との再会をきっかけに、官能に目覚めた人妻の苦しみを描いた小説で、「よろめき妻」が流行語に。当時の不倫ドラマも「よろめきドラマ」と呼ばれるほどだった。
そこに1983年、『金曜日の妻たちへ』が登場する。これまでは、背徳感にさいなまれる弱い女性がヒロインの印象があったが、同作では“自分の人生を謳歌する”自由なタイプのヒロインに変貌。「金曜日の夜は妻が電話に出ない」と言われるほどのブームとなった。「核家族がまだ少なかった時代であり、そこに都会的な生活様式が描かれたことで女性の心を掴んだ。特に第3シリーズは景気向上と女性の社会進出の時代と重なっており、まさに時代を写す鏡に。トレンディドラマのエポックメイキング的側面もあり、“よろめき”が死語となったのもこの頃です」(衣輪氏)。
女性の社会進出と共に不倫ドラマも増加 昼ドラでは思わず笑える“愛憎”表現も誕生
「一方で、これまで主婦層が好むドロドロの愛憎劇を描きながらも細々と放送されていた昼ドラにも、自身で作ってきた流れをパロディ化でもするかのような変化が起こりました。中でも2002年の横山めぐみ版『真珠夫人』(フジ系)では、主人公・瑠璃子(横山)の恋人の妻(森下涼子)が嫉妬に狂い、夫に出した“自称冷めたコロッケ=たわし”には視聴者も騒然。この流れは2004年『牡丹と薔薇』(同系)でさらに加速し、“役立たずの雌豚!”“粗大ゴミッ!”“このさかりのついたメス猫!”“アバズレ女”など数多くの名(迷)言が。一気に昼ドラが見直され、脚本家・中島丈博さんは“昼ドラの顔”となりました」(衣輪氏)
“不倫=禁断の恋”というイメージは低下? あくまでも恋愛形態の一要素に
その動きが目に見える形となったのは2016年。『せいせいするほど愛してる』(TBS系)『不機嫌な果実』(テレ朝系)、コント的ではあるが『黒い十人の女』、『僕のヤバい妻』(共にフジ系)など立て続けに放送。また不倫ドラマという感ではないが、前田敦子主演の『毒島ゆり子のせきらら日記』(TBS系)では、二股に関しての抵抗を全く持たないヒロインが登場。偶然にも同年、「文春砲」が多数放たれたことで、2016年のテレビは、不倫や奔放な性に彩られたかのような印象もあった。
しかしそれらは、過去のめまいや笑いを起こすようなフィクション的ドロドロとは違った印象がある。不倫や浮気が舞台装置ではなく、あくまでも物語上での出来事で、恋愛形態の一種のような扱いに変わり、波瑠が主演を演じた『あなたのことはそれほど』(TBS系)は“透明感のある作品”と称されるほど、過去の“ドロドロの不倫ドラマ”からの変化が見られた。
「おそらく過去の昼ドラは、家事に明け暮れる妻が、夫や子供、誰もいない家で一瞬だけ、“お母さん”ではなく“女”に戻って楽しむエンタメ作品。男で言えば、家族が寝静まった家で、アダルトな深夜番組を見る、そんな楽しみだったのでしょう。だからこそ、女性の願望や楽しみが詰まっていた。ですが、時代の変化で共働きも増え、待機児童も増加。視聴者層の激減もあり、昼ドラは終了。“その面白さよ再び…”とプライム枠で不倫ドラマが制作されていますが、深夜のプライム枠は昼帯と違い、一元的な作り方では視聴者は納得しない。結果、舞台装置ではなく、物語や恋愛の一要素として盛り込まれているのが現状だと思われます」(衣輪氏)。
と はいえ、今も昔も女性の願望のような“不倫ドラマ”は面白い。昔のようなコメディよりの愛憎劇への懐かしさから、再び『牡丹と薔薇』のようなドラマが反動で生まれる可能性もある。時代は繰り返されると言うが、増加傾向にある不倫ドラマが今後どのような変化をみせるのか注目したい。
(文/西島享)