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求められる“月9ブランド”からの解放 高満足度も得られぬ支持のワケ

 かつてのテレビドラマ界で“王様”的扱いだったフジテレビ“月9”枠。その栄光ゆえ、今は視聴率が10%台に届かないと“爆死”などと言われ作品と出演者が必要以上に叩かれる風潮も。ところが今期の『海月姫』に関して言えば、視聴率は低迷しているものの、“月9黄金期”にあまり馴染みのないF1層(20〜34歳女性)からは支持を得ており、満足度高い。かつて一時代を築いた“月9ブランド”というフィルターを一度外し、フラットな状態で作品を観ることが必要なのかもしれない。

トレンディドラマで一世を風靡、「月曜の夜は街からOLが消える」

 30代後半以上の視聴者にとって、“月9”と言えばトレンディドラマ。その先駆けは、陣内孝則主演の『君の瞳をタイホする!』(1988年)だ。ほか『君の瞳に恋してる!』(1989年)、『同・級・生』(同年)、『愛しあってるかい!』(同年)など数多くのヒット作が生み出された。

 そして1991年、“月9”ブームの火付け役となるドラマ『東京ラブストーリー』が放送される。同作は平均視聴率22.9%、最高視聴率32.3%の大ヒット(ビデオリサーチ社調べ)。その後も『101回目のプロポーズ』(1991年)、『素顔のままで』(1992年)、『ひとつ屋根の下』(1993年)、『あすなろ白書』(1993年)など数多くの話題作が誕生し、“月9”はたちまち、テレビドラマ枠のトップに駆け上がった。

 ドラマの主題歌も『素顔〜』の米米CLUB「君がいるだけで」、『東京ラブ〜』の小田和正「ラブ・ストーリーは突然に」、『あすなろ〜』の藤井フミヤ「TRUE LOVE」など多くのヒット作が生まれる。さらに言えば、野島伸司、北川悦吏子、坂元裕二、遊川和彦といった、現在も活躍する脚本家が飛躍するきっかけを作ったのも同枠だ。

“月9が時代を動かす”から、ライフスタイルの変化で“テレビを観ない”時代に

 やがて“月9主演俳優”は、ひとつのステータスと言われるほどになった。「その象徴といえば木村拓哉さん」と語るのは、テレビ誌で長らくフジテレビの番記者を務めたことがあるメディア研究家の衣輪晋一氏。

 「脚本・北川悦吏子氏で挑んだ『ロングバケーション』(1996年)をはじめ、大ヒットドラマを続々排出。月9平均視聴率トップ3も独占しており(第1位『HERO』34.2%、第2位『ラブジェネレーション』30.8%、第3位『ロングバケーション』29.6%)、その勢いはまさにモンスター級でした」(衣輪氏)

 同時に“月9主題歌アーティスト”もひとつのステータスとなった。『ロンバケ』では久保田利伸withナオミ・キャンベル「LA・LA・LA LOVE SONG」、『HERO』では宇多田ヒカル「Can You Keep A Secret?」、『やまとなでしこ』(2000年)でのMISIA「Everything」などがヒット。

 「ある種、月9が時代を動かしているような、そう錯覚させる時代がしばらく続きました」(同氏)。ところが、00年代からインターネットが普及、10年代にはスマートフォンも広がり、ライフスタイルが劇的に変化していく。「今まで娯楽の中心だったテレビの存在が薄れ、これまで視聴率20%前後でキープしていた月9も視聴率の低迷が叫ばれるようになりました」(同氏)

他局のドラマ枠は時代に合わせて変化、一方“月9”は迷走のレッテルが?

 しかし、この視聴率低迷の危機は、何も“月9”に限ったことではない。どの枠もどの局も、同じようにこの波に直面していた。そんな中、他局は『家政婦のミタ』(2011年/日テレ系)、『半沢直樹』(2013年/TBS系)、『ドクターX』(2012年〜/テレビ朝日系)などを放送。その斬り込む姿勢は、「新しい」「今の視聴者に合っている」などと言われ視聴者に温かく迎え入れられている。

 もちろん月9もただ手をこまねいていたわけではない。例えば、“社会派のラブストーリー”として当時の社会情勢を取り入れた『婚カツ!』(2009年)や、同枠で22年ぶりの刑事ドラマと謳った『東京DOGS』(同年)、更なる実験的作品とも言えた『極悪がんぼ』(2014年)など、今までのラブストーリーのイメージと異なる作品に挑戦。ところが、その“月9”らしくない作風への反発と、視聴率が15%、10%を切るなど、かつて20%前後が当たり前だった“月9”がそれに届かない現状に“迷走”の声が上がってくる。

 「正直、現状の月9ドラマが正当な評価を受けているとは思えません。もちろん『コード・ブルー』3rdシーズン(2017年)のように話題になる作品もありますが、それでも視聴者側が“月9”というだけで、斜に構えてしまっている部分も否めない。また、日本映画テレビプロデューサー協会会長の木田幸紀氏によれば『録画再生も合わせた総合視聴率で見れば、ドラマのほとんどは視聴率20%超』とのこと。つまり、実際は昔とそれほど変わってない可能性もあり、一般的な視聴率の低迷だけが指標とは言えません」(衣輪氏)

“月9黄金期”に馴染みがない世代はフラットな評価、「おもしろい!」

 今期の『海月姫』も視聴率的には第3話で5.9%を記録しており、危機的状況と見える。ところが、「F1層(20〜34歳女性)からの支持は高く、SNSでも同世代と思われるアカウントから『続きが気になる』、『おもしろい!』などの声が多く挙がっています」(衣輪氏)。

 先日、同ドラマ演出の石川淳一監督(『リーガルハイ』など)が主演の芳根京子のコメディエンヌぶりを絶賛する報道がされたほか、SNS上では瀬戸康史の女装の美しさが話題に。さらに木南晴夏、松井玲奈、内田理央、富山えり子ら“尼〜ず”4人の、東村アキコの原作漫画から飛び出してきたような好演を称える声も挙がっている。

  ほか、坂元裕二脚本で、有村架純演じる音ら、四人の男女の思いが複雑に絡み合う群像ラブストーリー『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(2016年)は『コンフィデンスアワード・ドラマ賞』作品賞・脚本賞を受賞。相葉雅紀演じる貴族が難事件を解決する『貴族探偵』(2017年)はミステリーファンから支持。政治ネタで挑んだ『民衆の敵〜世の中、おかしくないですか!?〜』(同年)も、賛否両論巻き起こしながらも『ギャラクシー賞』を受賞。「“月9”らしくない」と視聴率が低迷しながらも、高評価を得た作品は他にも多数ある。

 「“月9”ブランドのイメージがそれほど定着していない若い世代の女性の間では、近年の作品も素直に楽しまれています。同じくF1層でヒットした『好きな人がいること』(2016年)のプロデューサーが当時、『若者を標的にしないとドラマの未来はない』と語っていましたが、対象をティーン層に傾けた結果がそろそろ出始めているのかもしれない」(同氏)

 視聴率だけではドラマが計れなくなった昨今。「作風や数字に縛られがちな“月9”というブランドから解放し、ドラマをドラマとして純粋に楽しむのもアリではないか」と衣輪氏は話す。今一度、“月曜夜9時に観るドラマ”を気楽に楽しんでみるのはいかがだろうか。

(文/西島享)

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