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『隣の家族は〜』が改めて提示した“ホームドラマ”の汎用性、“家族の多様化”も今風に昇華

  • ドラマ『隣の家族は青く見える』(フジテレビ系)の主演を務める深田恭子(撮影:逢坂 聡)、松山ケンイチ(撮影:鈴木一なり) (C)oricon ME inc.

    ドラマ『隣の家族は青く見える』(フジテレビ系)の主演を務める深田恭子(撮影:逢坂 聡)、松山ケンイチ(撮影:鈴木一なり) (C)oricon ME inc.

 各年代の家族とそこを取り巻く問題を、時にハートウォーミングに、時にシリアスに、そしてコミカルに扱ってきた“ホームドラマ”。向田邦子や橋田壽賀子といったホームドラマの名手を生み出した70年代、80年代を全盛期に、その時々の“家庭の姿”をリアルに投影し人気を博してきた。だが昨今は家族の多様化でホームドラマの低迷が進み、減少傾向に。そんな中、深田恭子と松山ケンイチが主演を務めるフジテレビの木曜ドラマ『隣の家族は青く見える』は、その多様化を逆手に取り、ホームドラマの今後進むべき新たな道を照らそうとしているように考えられる。視聴率では測れない今作の魅力と、フォーマットとしてのホームドラマの強みとは?

医療モノ、刑事モノと肩を並べるジャンルだった“ホームドラマ”、近年は減少傾向に

 70年代、銭湯を舞台に家族の関わりを描いた橋田壽賀子脚本『時間ですよ』(TBS系)が大ヒット。単発ドラマとしてスタートしたが、1970年からシリーズ化。1980年代にリバイバルされ、1990年まで放送される人気コンテンツとなった。ほか向田邦子脚本の『寺内貫太郎一家』(同系)も大きな反響を呼び、1974年の放送では平均視聴率31.3%を記録。80年代に入ると『金曜日の妻たちへ』(同系)がスタート。家族間の不倫のドロドロを描いて社会現象となり、「金曜日夜10時は主婦が電話に出ない」と揶揄されるまでに至った。

 さらに90年代、兄弟たちが様々な困難に立ち向かっていく姿を描く『ひとつ屋根の下』(フジテレビ系)が人気に。また“渡鬼”として愛される『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)は00年代になっても人気が衰えることなく、2011年までシリーズが放送。その後もたびたびスペシャルドラマが放送されている。

 そんな、家庭の娯楽として人気を得ていたホームドラマ。実は“ホームドラマ”という言葉は和製英語だ。家族それぞれが抱える悩みが露呈していくたびに一つ一つ解決する“群像劇”の一種で、激しい濡れ場や凄惨な犯罪などがほとんどないことから、テレビが家族の集まるお茶の間の主役だった時代に、良い意味で“当たり障りなく”みんなで見られるドラマとして数多く制作された。

 だが、時代は変わり、いわゆる“核家族化”が進む。家族のカタチが多様化したことからドラマで描かれる家族への“共感”も薄れ、テレビを家族で集まって観るというスタイルも減少。そして、肩を並べていたはずの医療ものや刑事ものなど、気兼ねなく個々人で楽しめるエンタテインメント性の強いドラマが目立つようになっていったと考えられる。

不妊治療、同性カップル、リストラ…『隣の家族は〜』は“今風”ホームドラマを提示

 ホームドラマは、この多様化の波に乗り遅れてしまったのだろうか? 『家政婦のミタ』(日本テレビ系)や『過保護のカホコ』(同系)など、一部人気を得たモノもあるが、制作本数が少なくなっているのは誰の目にも明らか。だが今期の『隣の家族は青く見える』は、これを逆手に取って、新たなホームドラマのカタチを提示している。

 本作の舞台は、様々な家族が自分たちの意見を出し合いながら作る集合住宅“コーポラティブハウス”。そこに住むのは、深田恭子と松山ケンイチが演じる妊娠を望んでいる夫婦、子どもを望まない婚前カップル、男性同士の同性カップル、世間体を気にして幸せを装う家族の4組だ。ほかにも、松山演じる大器の妹・琴音(伊藤沙莉)の“おめでた婚”もあるなど、様々な事情の様々な人生が配置されている。

 問題を抱えた家族たちがこれからどんな困難に立ち向かっていくのか――、なるほど、一見ホームドラマの王道ストーリーのように思える。だが今作は、その視聴者のホームドラマ的“共感”を得ようとするだけでなく、昨今叫ばれている“多様化”にスポットが当たっているように見えるのだ。

 例えば第2話、「女は子どもを産むことが社会貢献」と型にはめようとする小宮山家の妻・美雪(真飛聖)に対し、高橋メアリージュン演じる子どもを望まない女性・ちひろが「母親になんか絶対になりたくない!」「自分の物差しだけで他人を測るなって言ってんのよ!!」と啖呵を切ったシーン。圧巻の一言であり、SNS上で「よくぞ言ってくれた」などの声が多く挙がった。

深キョン&松ケンの理想の夫婦像に「結婚もあり」

 ほかにも、北村匠海演じる同性愛者の朔もいい味を醸している。同シーンで朔は「良い事も悪いことも言っちゃいけないって風潮があって息苦しくないですか?」「言いたいことも言えない人生なんてつまらない」と話しており、ゆとり世代的な発言ながら、これには全世代が「そうだよな」と思えるところがあるだろう。また、その朔と渉(眞島秀和)の同性愛カップルもドラマのいいスパイスになっていて、SNSでは「このカップルだけでもドラマが成立する」などの声も見られる。

 また、「野間口徹さん演じる夫の肩身の狭さにキュンとくる」の声もあり、おそらく描こうと思えばどの家族を主役にしてもホームドラマが作れるほどの濃度と問題、共感エピソードが盛り込まれているのだろう。

 普通、これだけ多くの問題を取り入れてしまうと、見ている方が疲れてしまう。これを緩和しているのが、深キョン&松ケンの“理想的な夫婦像”だ。深田恭子演じる妻の姿は可愛らしく癒されるし、女性としても松山ケンイチ演じる夫の思いやりのある言動にキュンとくるはず。いわばドラマの“オアシス”的存在で、そのラブラブぶりに「結婚するのもありかも」と思わせてくれる。

 家族のカタチが多様化してきた昨今、“共感”が得られ難く人気に陰りが出てきた“ホームドラマ”。だが、その多様性をあえてテーマにする『隣の家族は青く見える』から、改めてホームドラマの“汎用性の高さ”が浮き彫りになった。これは不調が取りざたされるフジテレビの同ドラマプロデューサー・中野利幸氏(『ラスト・フレンズ』『ブザー・ビート〜崖っぷちのヒーロー〜』『ラスト・シンデレラ』など)の反撃の狼煙(のろし)であり、壮大な実験でもあるかもしれない。ちなみに筆者は過去に中野氏から「新たな作家、演出家、役者などを発掘してどんどん現場で使っていきたい」と聞いたことがある。目の前だけでなく、未来に向けて、若手を育てようとする気概のある人物なのだ。

 現代の社会性を反映した今風のホームドラマ『隣の家族は青く見える』。視聴率だけでは測れない新時代のドラマの萌芽が、放送終了の今春頃にあることを期待したい。

(文/衣輪晋一)

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