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“お父さん共感ドラマ”が好調 視聴者ターゲットがより高年齢層へ?
好調の“お父さんドラマ”3作で描かれる共通点
『下克上受験』は阿部サダヲが主演。中卒の父と偏差値41の娘が受験塾にも行かず二人三脚で最難関中学を目指した実話のドラマ化で、阿部演じる信一の思いつきの行動に振る舞わされる妻・香夏子を深田恭子が好演。信一はダサくてカッコ悪い男として描かれるが、基本的に善人で、そのダメさも愛らしく感じられる。
『〜佐江内氏』は、藤子・F・不二雄による大人のヒーロー漫画を、『勇者ヨシヒコ』シリーズ(テレビ東京系)の鬼才・福田雄一が実写化したコメディで、主演は堤真一。佐江内(堤)が謎の人物(笹野高史)からスーパーヒーローになるよう使命された理由も「常識家だが、力を持っても大した悪事がでになさそう」という“さえない”理由で、さらに原作とは違う妻(小泉今日子)が鬼嫁という設定も、現代ならではの哀愁を誘っている。
ベテラン俳優が主演のホームドラマは多くの世代に訴求できる
昨今、アラフォーやアラフィフ、ときにはさらに上の世代の俳優が出演するドラマが話題を集める光景はしばしば目にする。例えば、松重豊主演の『孤独のグルメ』(テレビ東京系)、小林薫主演の『深夜食堂』(TBS系)、そして今期、第3シリーズが放送されている北大路欣也、泉谷しげる、志賀廣太郎出演の『三匹のおっさん』(テレ東系)などの話題性と人気ぶりは記憶に新しいところ。さまざまな理由もあるだろうが、これはマーケティング的に、ドラマ視聴者のターゲットが従来から言われているF1層(20〜34歳の女性)やM1層(20〜34歳の男性)からさらに上の世代に移っていることの表れといえる。これについてメディア研究家で多くのエンタメ記事を手掛ける衣輪晋一氏は「単純には結びつけられません」と前置きしつつ、次のように解説する。
「現在、視聴率と一般的に呼ばれているものは、ビデオリサーチ社が調査している世帯視聴率のことを指します。つまりある一定の層で反響があっても、それは視聴率には結びつきづらい。例えば昨夏に放送された桐谷美玲さん主演の月9ドラマ『好きな人がいること』(フジテレビ系)はSNS上で若者を中心にけっこうな話題となりましたが、平均視聴率は8.92%と決して高くありませんでした。NHKの放送文化研究所によれば、若年層のテレビ視聴は『リアルタイム視聴グループ』、『録画視聴グループ』、『動画視聴グループ』に分けることができるそうで、テレビの観方が多様化。年配層と比べ、個々の番組への愛着が薄いことも指摘されており、高齢層を狙った方がリアルタイムで観てもらえる可能性は高くなり、視聴率に反映されます」
「昨今、テレビを観ているのは高年配層ばかりとも言われていますが、アラフォー、アラフィフ、さらに上の人気俳優を主演に据えると、若者よりもテレビに対して近い距離にいる同層を取り込めます。そればかりか、ホームドラマの場合は“家族”という構造上、主演俳優、その妻、子どもたちと、さまざまな世代の人気俳優が配置できます。コア層の年配者を中心に、多くの層への訴求も出来る仕組みが世帯視聴率というシステム内で功を奏しており、その狙いが今回、結果を見せたと言えるでしょう」(衣輪氏)
現代の悲哀を体現する良質ドラマへの原点回帰
長引いた不況で人々は不安を抱え、さらに“父権が失墜した”と言われてからも久しい。必死でがんばっても必ず結果が出るわけではなく、さらに誰かが褒めてくれるというわけでもなく、そういった現代ならではの男の悲哀をどう物語や作風に絡めていくかが脚本家の腕の見せどころになる。
「良い脚本を体現できる演技力の高い俳優陣も必要。この面でも、アラフォー、アラフィフ、さらに上の人気俳優は安定感がありますし、その経験と幅の広いお芝居、人間的な円熟ぶりから、視聴者の共感を呼び込むのが上手い俳優が多い。特に上記3作はそれぞれ皆さんハマり役です。若手がダメというわけではありませんが、上記3作の好スタートは、話題性だけでなく、脚本・演技力といった“当たり前”への原点回帰に、さらにそれぞれが工夫を凝らしたことで得られた結果のように感じます」(同氏)
“お父さん”の悲哀や哀愁を表現するには、それなりの人生経験も必要。良い脚本とベテラン俳優の高い演技力によって描かれる悲哀、哀愁の人生は、どこかコミカルでもあり、同年代を中心に観るものに愛着を抱かせる。とくに家族は愛情を持って観ることができるだろう。そんなところが“お父さん共感ドラマ”の人気の理由なのかもしれない。かつてアラサーだった人気俳優がアラフォー、アラフィフへ。その流れもあるだろう。同じく“お父さん”を主人公にし、世代を超えて語り継がれる『北の国から』(フジテレビ系)のような名作が今後、再び現れることに期待したい。
(文:西島享)