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『黒い十人の女』、部外者が騒ぐ“不倫=絶対悪”風潮へのアンチテーゼ?
バカリズム版はスラップスティック色漂う壮絶コメディ
「このように風は近場で次々と女性に手を出しており、愛人たちは互いに牽制しあうだけではなく、任侠映画や『キル・ビル』ばりの激しいバトルを繰り広げることも。原作の映画の愛人たちはどこか上品でしたが、彼女たちはチンピラのような口調で『クソババア』など言葉も過激。ブチ切れて顔に水をぶっかけたり、あんかけ焼きそばをぶっかけたりと、その掛け合いややり取りは、もはや“コント”。この愛人が鉢合わせをしてドタバタ劇を繰り広げる皮肉めいた作風は『黒い十人の女』というより、1991年に最も上演されたフランスの戯曲としてギネスブックにも登録された喜劇舞台『ボーイング・ボーイング』を思わせますが、視聴者は成海璃子、水野美紀、トリンドル玲奈らの振り切れたお芝居と同様、原作を尊重しながらも振り切ったバカリズムさんの台本を存分に楽しんでいるように思えます」(テレビ誌ライター)
当事者側が言えないけど言いたい“本音”を代弁している
これらのほとんどは、当事者の男女の内面にフォーカスした辛く切ないラブストーリーが多く、なかには後味の悪いシリアス系の作品もあるが、昨今は『せいせいするほど、愛してる』(TBS系)や『ふればなおちん』(NHK BSプレミアム)、『毒島ゆり子のせきらら日記』(TBS系)などライトな味わいのドラマも登場している。そんななかでもバカリズム版『黒い十人の女』は、当事者10人の女性のそれぞれに真剣な姿を滑稽に描き出すことで、人間模様とともにそこに渦巻く愛憎をうまく“笑い”に昇華しており、さらには劇中に名言、迷言も多数飛び出している。
社会への不満や疑問、当たり前になっていることを、バカリズムは斜めからの視線で切り取り、おもしろおかしく風刺しているのだ。かつて喜劇王チャップリンはその代表的な映画『ライムライト』のなかで「人生は近くで見れば悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ」と語った。バカリズムは“喜劇”という形で人間関係を遠くから眺め、照れたりせせら笑いをしたりしながらも、結局は人生の“ど真ん中”を見つめている男なのではないだろうか。本作のバカリズム節は、当事者たちが世の中に声を大にして言えない想いを、ギャグやあり得ない設定や大げさな展開でデフォルメしながらも、最終的にまっすぐな心の声を代弁しているような感もある。それは、昨今の不倫報道にいちいち大騒ぎする部外者(メディアと世の中)へのアンチテーゼにもなっているのではないだろうか。
(文:衣輪晋一)