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『逃げ恥』ヒットに見る、普遍的“偽装恋愛フォーマット”の強み
『マイ・フェア・レディ』や『プリティ・ウーマン』も“偽装恋愛フォーマット”で歴史的名作に
このフォーマットは、いちジャンルとして古くから手を変え品を変えさまざまに表現されており、なかでもブロードウェイミュージカルから1964年にオードリー・ヘップバーン主演で映画化された『マイ・フェア・レディ』や、1990年の映画『プリティ・ウーマン』などが代表格。日本では主に少女漫画のなかで発展していき、速水もこみちが“理想の恋人”フィギュアを演じた『絶対彼氏。』(2008年)をはじめとして、山崎賢人の“壁ドン”も話題となった映画『L・DK』(2014年)、同じく山崎と二階堂ふみ主演の映画『オオカミ少女と黒王子』(2016年)、中島健人主演の映画『黒崎くんの言いなりになんてならない』(2016年)など数多くの作品が実写化されている。
「あまりに広いジャンルなので、ひとくくりにするには若干乱暴な感も否めませんが、とくに少女漫画に多いように感じられますね。今も林みかせの『うそカノ』が『LaLa』(白泉社)で、小玉ユキの『月影ベイベ』が『月刊フラワーズ』(小学館)で、北川夕夏の『影野だって青春したい』が『別冊フレンド』(講談社)で連載中ですし、ここ最近だけでもわたなべ志穂の『汝、オレに愛を誓え』(小学館)、藤原よしこの『恋したがりのブルー』(小学館)、美麻りんの『嘘つき王子とニセモノ彼女』(講談社)など数多くの作品があって、それぞれ人気があります。また過去作に目を向けても、ドラマも大ヒットした『花より男子』では、ヒロイン・牧野つくし(井上真央)の親友・優紀(西原亜希)の復讐に、F4のひとり西門(松田翔太)が優紀の恋人のふりをして加担するエピソードは名シーンのひとつとしてファンからも愛されています。また少女漫画といえば、日本の少女漫画に大きく影響を受けた韓流でも顕著で、『私の名前はキムサムスン』『恋愛じゃなくて結婚』『私に嘘をついてみて』『恋人づくり』と枚挙に暇がなく、日本にも多くのファンがいます」(エンタメ誌ライター)
今も昔も需要の高いフォーマットだが、時代と共に現代風にアレンジ
こうした現代的な味付けをした“偽装恋愛フォーマット”では、2015年にフジテレビの月9ドラマ枠で放送された『デート〜恋とはどんなものかしら〜』も記憶に新しい。生真面目なリケ女の薮下依子(杏)と、自称“高等遊民”で、津崎と同じく“高齢童貞”系の谷口巧(長谷川博己)の恋模様をおもしろおかしく表現。恋愛感情がない“理念だけの交際”と割り切った恋が、不器用ながらも真の愛に近づいていく姿に多くの視聴者が笑い、涙した。
「以前の“偽装恋愛フォーマット”と違ってきている点は、一種のリアルさ。同フォーマットはもともと女性の“妄想的ドキドキ”に寄っていましたが、“恋愛は面倒なもの”と考えがちの現代の若者たちにとって、合理的かつ打算的な理由で恋愛&結婚するストーリーや、そうした古くからの社会に疎外感があるキャラクターは“リアル”であり、“恋愛的ファンタジー”の嘘を感じにくいのでしょう。ですが、同フォーマットの根底には“顔を合わせて素顔に触れていくうちに、いつの間にか恋に落ちる”という誰しもが経験したことがあるだろう普遍的な恋模様も描かれています。新垣さん目当てで見始めたとしても、視聴者が離れず視聴率が上がっていくのは結局、そうした“普遍”の恋の楽しさを“妄想”できたうえでの“イマドキ”だからと言えます」(同ライター)
もちろんこうしたドラマはリアルではないのだが、現代の若い世代にとってはかつての王道であるベタな恋愛ドラマよりも、よっぽど共感できてストーリーに入り込んで、楽しみながら観ることができるのだろう。『逃げ恥』のエンディングでは、星野が歌う主題歌「恋」に合わせて新垣らが踊るキュートな「恋ダンス」が話題になっているが、今どきの視聴者がテレビに求める“楽しさ”を、偽装恋愛をベースにしたドラマのなかのあらゆる面でしっかり応えているのが、『逃げ恥』の人気の理由になっているのではないだろうか。
(文:衣輪晋一)