2016-05-31
“人生を変える”旅のススメ 井浦新
[文:若松正子/写真:鈴木かずなり/ヘアメイク:樅山 敦(BARBER BOYS)]
僕の旅のスタートは子どもの頃の家族旅行です。頻繁に旅行をする家で日本各地の温泉や遺跡、寺社仏閣など、自分が好きか嫌いかまだ分からない小さい頃から連れて行かれていたので旅は日常でした。しかも移動は“車縛り”だったので、車窓を眺めながら何時間もひとりで遊ぶという感覚が原体験として根付いている気がします。その後、10代後半から海外へひとり旅をするようになり、さらに20代後半になって改めて「旅が好きだ」と認識したんですが、そんな“旅人生”のベースを作ってくれたのは幼少期の家族旅行ですね。
旅する国の歴史や文化、行きたい場所を事前に調べていくことはもちろん大事です。でも現地に着いたら、それを踏まえつつ感性の赴くままにプランを立てた方がいい。例えば途中で出会った地元のおじさんから、「あそこに行った方がいい」と自分の知らない場所を教えてもらったら、僕はなるべくそれを受け入れるようにしています。そうやって、あえて目的を決めない時間や日を作るのも旅の面白さで、だからこそ出会える人や場所もある。そのためにも、旅先では臨機応変に方向転換する柔軟性を大切にしています。
旅の醍醐味は、言葉も通じない国に行ったときの必死な感じというか。とりあえず“生きるため”に一生懸命になる自分と出会えることだと思います。そして、そんな海外体験を経て国内の旅に戻ると、また新たな視点で日本を見ることができる。でも、国内外どちらの旅も僕が惹かれる部分は共通で、いにしえからの文化や歴史、伝統、そこに住む人々の暮らしや手仕事なんです。あと神話を紐解いていくと必ず、その地域の大自然につながっていくもの。そういう、根源的なエネルギーに触れたときの驚きや感動は、人生をより豊かにしてくれると思いますね。
「木地師(きじし)」は、お椀やお盆などの木工品を加工する仕事なのですが、佐竹康宏さんは僕が初めて一対一で取材した職人さんでした。現場では佐竹さんから「僕は作品を作るから、好きなように撮りなさい」と言われまして。そこから丸1日、佐竹さんは作業を、僕はそこに張り付いて撮影をしたんです。お互い無言のまま、汗だくになって。それはとても刺激的な時間で、これをきっかけに日本の職人さんを訪ねて勉強させてもらうという取材がスタートしたんです。だから、佐竹さんは記念碑的な存在。職人さんとの向き合い方を学ばせてくれた方でした。
僕、海外でも国内でも、旅をして何もおみやげを買ってこないってことはないんですよ。ただいつも買う物は決まっていて、その地域の歴史や文化を形作っているもの、例えば民芸品とか郷土玩具、遺跡のある場所ならミュージアムショップでレプリカや文化財グッズを買ったりします。あと、民族楽器もすごく興味があって、素朴であればあるほど、奏でる音色がその土地の空気感みたいなものを伝えてくれる。どんな言葉よりも雄弁に歴史を語ってくれる気がします。
イランの国境付近にある、長距離ドライバーが寄って行くチャイハネで食べたスクランブルエッグは忘れられない。ニンニクとトマトを入れただけのシンプルな味なんだけど、その頃、羊肉で疲れていた僕の胃に染みてものすごくおいしかったんですよ。あと国内なら和歌山の“めはりずし”。高菜の葉に包んだおにぎりで、いわゆる“旅メシ”なんですけど、お漬け物で包むことで長持ちさせるっていう先人の知恵が詰まっている。僕は旅の中で“食”を一番ないがしろにしてしまうんですが、そういうソウルフードは見つけたら食べるようにしています。
圧倒的な自然の雄大さを感じたのは、中央アジアと東ヨーロッパの境界にある塩湖のカスピ海。特にここで見た朝日は素晴らしくて、毎朝いろんな角度や場所から撮影したんですが、撮るポイントによって太陽の色が変わるんですよ。しかも紫とかピンクとか、日本で見る朝日とはまた違う独特の神秘的な色合いに驚かされた。ここ数年、国内にこだわって旅をしてきましたけど、自然に関しては海外の壮大な“大陸感”にはやっぱり叶わないものがある。一つひとつがとにかく大きくて、島国育ちの概念を軽く越えてくるスケールを感じますね。
アイスランドといえば、北欧神話とそれを育んできた大自然、あとはバイキングのイメージが強い。その一方、ビョークやシガー・ロスなどを輩出した最先端の音楽大国の印象もあって、いにしえと現代的なエレクトロニカなものが融合しているとても面白い国ですよね。 僕は何百年、何万年と人を感動させたり楽しませ続けてきた、“体力のある場所”こそが観光地だと思っていて。その中でも今回は、歴史や自然美の深さを感じられるような場所をセレクトするよう意識しました。また、北欧ならではの民芸品にもぜひ触れていただきたいなと思っています。
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1974年東京都生まれ。98年に映画『ワンダフルライフ』に初主演。以降、映画を中心にドラマ、ナレーションなど幅広く活動。現在、『NHK日曜美術館』の司会を担当。『一般社団法人匠文化機構』にも従事し、日本の工芸、歴史、伝統文化を未来に繋げ拡げていく活動を行っている。アジア各地を旅したNHK BSプレミアム『ザ・プレミアム 井浦新 アジアハイウェイを行く』の書籍を制作中。4月15日よりスタートしたNHKドラマ10『コントレール〜罪と恋〜』(金曜22時〜/全8回)に出演中。
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