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55年前の万博で“ミライの食卓”提示した冷食 レンジが調理器具となった今、ニチレイが見据える“その先のミライ”
大阪・関西万博に出店している「テラスニチレイ」(画像提供:ニチレイフーズ)

監修者 株式会社ニチレイフーズ マーケティング部 マネジャー
2014年、ニチレイフーズに新卒入社。家庭用冷凍食品の営業に従事後、広報へ異動し、メディア対応やHP・SNSの企画運用を通じたブランディング業務に携わる。2024年4月より現職。家庭用商品のプロモーション戦略立案等に加え、大阪・関西万博の主担当を兼務。テラスニチレイ店長。
人手不足が課題の外食産業、高クオリティ・多様なアレンジが効く自動調理器を提案
スペシャル炒飯(画像提供:ニチレイフーズ)
そして55年後の今年、「再び『テラスニチレイ』から冷凍食品の新しい価値を提案できたら」という思いで大阪・関西万博へ出店。メインに用意したのは、『スペシャル炒飯』『凍ったまま食べられる今川焼』『アセロラMixスムージー』の3つのメニューだ。ニチレイフーズのマーケティング部マネジャーの原山高輝さんは言う。
「この3つはいずれも弊社の得意分野であり、なおかつ未来感においてそれぞれ違う提案ができるメニューということで、提供を決めました」(株式会社ニチレイフーズ マーケティング部 マネジャー 原山高輝さん/以下同)
『スペシャル炒飯』は、2001年の発売以来、冷凍炒飯カテゴリーで連続売上No.1を誇り、「世界で最も売れた炒飯ブランド」としてギネス認定もされた同社の代表商品『本格炒め炒飯(R)』で培ってきた技術を活かしている。今回は、店舗にて温度や時間などを独自にプログラム設定した自動炒め調理ロボット「I-Robo2」を使用。生産過程では炒め度合いをあえて抑えた炒飯を、注文を受けた後、調理ロボットによって炒め度100%に仕上げ、出来立ての美味しさの提供を実現している。そこにはこんな未来に役立つ提案がある。
「今、外食産業は人手不足が大きな課題となっていますが、自動調理ロボットを使えば誰が作っても変わらない高い美味しさを安定して提供できます。さらに自動調理ロボットは多様なアレンジも可能にしますので、味付け(醤油味・コク旨ガーリック・旨辛キムチ)やトッピング(にんにくチップ・キムチ)、卵の数(シングル・ダブル)、具材(焼豚・エビ・五目)を自分好みに選べるカスタマイズ炒飯も用意し、多様な価値観や食の好みにも対応しています」
会場で食した客からは、「プロが炒めたのと変わらない美味しさ」という驚きの声が寄せられるとともに、SNSには「コク旨ガーリックに卵ダブルで焼き豚をオーダーした」など、自分流のアレンジを投稿する人も増えるなど、カスタマイズの多様さもウケている。
凍ったまま食べられる今川焼(画像提供:ニチレイフーズ)
アセロラmixスムージー(画像提供:ニチレイフーズ)
「冷凍技術自体はそこまで変わっていない」進化したのは“美味しさ”と“再現力”
1970年万博時の「テラスニチレイ」(画像提供:ニチレイフーズ)
「1950年代、小学校を皮切りに学校給食がスタートしましたが、5人に1人が栄養失調と言われる中、子どもたちに栄養価の高い食事を届けるために、弊社では学校給食向けにタラ・サケ・イカなどの魚を主原料にした『三食スチック』を開発し、大ヒットさせました。
1964年の東京五輪では、世界から5000名を超える選手団を受け入れるにあたり、選手村の料理長を務めた後の帝国ホテル初代総料理長の村上信夫氏が東京から食材が消えることを危惧し、冷凍食材の採用を決意。弊社は野菜や魚など品質の高い冷凍食材を納品し、それをきっかけに、その後、ホテル業界や外食産業に活用されるようになりました」
その後、冷蔵・冷凍庫の2ドア冷蔵庫や電子レンジなどのインフラが整備されたことで一般家庭にも冷凍食品が浸透していったが、同社のなかで転機となったのは、1994年に発売された「新・レンジ生活」シリーズだ。冷凍コロッケを電子レンジで温めると衣のサクサク感が失われてしまうという課題を独自の技術で克服し、それまでは「油で揚げる」前提であった冷凍コロッケを初めて電子レンジ対応にしたという。
新・レンジ生活(画像提供:ニチレイフーズ)
もう1つ冷凍食品が家庭に普及するきっかけとなったのが、2001年に発売された同社の代表商品『本格炒め炒飯(R)』だ。それまでの冷凍炒飯といえば、炒飯と名乗ってはいるが実際には炒めておらず、炒飯風の味をごはんにまとわせるだけの混ぜご飯になっていたそう。だが、2001年に同社独自の技術で、初めて炒めた家庭用冷凍炒飯を世の中に提供することができた。
「プロが作った本格的な味わいを冷凍食品で提供することは難しかったのですが、こちらの商品をきっかけに、冷凍食品の“美味しさ”を2000年代以降ご提案できるようになっていきました。そこから、味のクオリティを求めて各社間で切磋琢磨することで、現在の市場まで拡大することができたと思っております」
最近の冷凍食品の味のクオリティの高さから、「昔よりも冷凍技術が向上したからだろう」と考える人も多いが、冷凍技術自体はそこまで変わっていないという原山さん。
「大量生産で連続に冷凍していくという意味では、そこまで技術は変わっていないと捉えています。ただ美味しさと再現力というのが、各社上がってきているので、やはり美味しいものをしっかり急速凍結して適切に解凍して食べれば、美味しいものは美味しいまま食べられるということを伝えていきたいです」
目指すのは「冷凍なのに」ではなく「冷凍だから」美味しい
大阪・関西万博に出店しているテラスニチレイ(画像提供:ニチレイフーズ)
「まず栄養価に関しては、例えば冷凍野菜は旬の時期に収穫し、急速凍結することで美味しさはもちろん鮮度と栄養価も高いレベルで維持されていますし、価格変動もほとんどないという利点があります。また、冷凍食品は長い間保存がきくので、保存料が入っているのではないかというお声もよく聞きますが、冷凍食品はマイナス18度以下での流通・保存が定められていますので、その状態では腐敗や食中毒の原因となる細菌が活動できないため、保存料は必要ありません」
ネガティブな印象を払拭するためにも同社では「イベントへの協賛やキャンペーン、売り込みチラシなどを使って、あらゆる年代に向けて冷凍食品に興味を持ってもらうべく、タッチポイントを増やしていこうと取り組んでいる」という。
同社は、大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「EARTH MART」内の展示コンテンツのひとつ「進化する冷凍食」へも技術協力をしている。
「ここでは様々な食材を凍結粉砕することで作られたパウダーが展示されているのですが、弊社は、山形大学の古川英光教授との共創で、そのパウダーから作られた米型の食品の再成形において技術協力をいたしました。この技術を使えば美味しさや栄養価はそのまま長期保存できるし、圧縮加工して輸送コストをカットすることもできます。見た目や形が悪いということで廃棄されていた農作物の規格外品も活用できるほか、世界に流通できますから、飢餓などグローバル課題の解決にもつながります。
コロナ禍、家で食事をする方が増え、便利さと保存性の高さからそれまで冷凍食品を食べていなかった方々にもお手にとってもらえるようになり、美味しさを知ってもらえる機会が増えました。そのため『冷凍なのに美味しい』というお声をひじょうに多くの方々からいただくようになったのですが、我々は『冷凍だから美味しい』し、さらには冷凍だからこそ人手不足やフードロス、サステナブルなど解決できる社会課題があると思っています。今後も冷凍食品の普遍的な価値とともに、未来に向けた新たな魅力や可能性を発信していきたいと思います」