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ゼブラ、“使い捨て”だった「サインペン」を高級化し大ヒット 開発者が経験した「書いて伝えることへの感動」とは?

 どこの家庭にも1本は置いてあるサインペン。そのイメージは、「キャップのついたプラスティック製」で「インクがなくなったら捨てる」=「安価」という意見がほとんどだろう。昨年11月、ゼブラから発売された『フィラーレ ディレクション』は、一見、「万年筆かボールペンか?」と見間違えるような金属製のボディに、キャップのないツイスト式。替え芯も用意されているから長く愛用可能と、これまでのサインペンの常識を覆す特徴がズラリと揃う。意外にもありそうでなかった高級サインペンは、一体どのように開発され、ヒットしたのか? “灯台下暗し”的なアイデア誕生のきっかけや、市場について、開発者の吉田章人氏と広報室の鈴木由佳氏に話を聞いた。

「前例のない商品」に発売前、意見は真っ二つ

――1月にドラマ『妻、小学生になる。』(TBS系)内で使用され、3月には『王様のブランチ』(TBS系)で取り上げられるなど、徐々に世間の認知度が上がってきました。発売から半年ほどですが、手応えはいかがですか?
鈴木メディアに取り上げていただいたことで、広く皆さまに知っていただけ、おかげさまでジワジワと売上が伸びている状態です。もともと、市場において前例のない商品だったので、その価値が認められるまで時間がかかるだろうなと予想していました(苦笑)。

――発売当初は売れるかどうか自信がなかったということですか?
吉田どの商品も、企画段階で「本当に売れるの?」という心配の声が必ずあがるものですが、この商品に関しては「これはありだよね」と、「こんなの誰が使うの?」と、社内の意見が真っ二つで、正直不安はありました。発売後も頻繁に小売店で動向を見守ったり…。なので、ドラマやテレビで取り上げられ、ショッピングサイトのランキング上位にランクインした時はうれしかったですね。

開発コンセプトは、「サインペンを使う所作」が美しく見えるもの

――そもそも、なぜ、“高級”サインペンを作ろうと考えられたのでしょう?
吉田弊社では、社会人向けに高級感あるデザインのシャープペンやボールペンをラインアップしている『フィラーレ』というブランドがあります。このラインアップ拡充のために、何か新しい提案ができないかと考えていたとき、同僚から「サインペンって社会人にとって実用的な筆記具なのに、高級なものがないよな」と意見が出たことがきっかけでした。

――具体的に、誰がどんなふうに使うシーンをイメージされたのですか?
吉田僕自身、会社に入って1年目に商品開発部に配属されたとき、当時の上司がA4の紙にサッと書いて指示するスタイルだったんです。それがすごく分かりやすくてありがたくて、「書いて伝えてくれるってすごくいいな」と感動したんです。相手に伝えるという点では、ボールペンなどよりも線が太く、視認性のハッキリしたサインペンの方が最適で、「そういうシーンでのサインペンはデザイン性も高い方がいいのでは?」と思ったことがきっかけになりました。

――商品名には、リーダーポジションのビジネスパーソンが相手や自分に「ディレクション=指示する」というコンセプトを込めているそうですが、ご自身のその実体験が元になっているんですね。
吉田はい。ですから開発にあたって、上司が部下に手書きで指示を出すときにカッコよく見えることにこだわりました。例えば、ペン先で指すときは、書くときよりもペンの後ろのほうを持ちますので、その動作がスムーズにできるような長さと握りやすさを追求したり、指すところが目立つようにペン先を金色にしたり、ボディのフォルムやクリップの長さやカーブといった基本的なデザインの美しさはもちろん、所作が美しく見えることも意識しました。

市場未開拓でも時流に乗れる 背景にリーマンショックで好調になった高級文具市場

――今までになかった画期的なアイデアですね。でも、なぜこれまで、筆記具市場には高級サインペンがなかったのでしょうか?
吉田これは僕の個人的な考察なんですが、高級筆記具市場はギフトがメインだったので、やはり贈り物にするなら一番実用的なものがいいという意識から、ボールペンや多機能ペンが選ばれ、サインペンの需要はなかったのだと思います。

――にもかかわらず、開発に取り組まれたわけですが、その背景には、高級サインペンが受け入れられるであろう変化が筆記具市場にあったのですか?
吉田これも一つの考察ですが、2008年のリーマンショックをきっかけに、これまで会社から備品として支給されてきた筆記具が支給されず、個人で準備するものになり、「どうせ買うなら、自分好みのいいものに」と、以降高級な商品が売れる傾向になっていきました。こだわりを持って筆記具を選ぶ人が増えたことで、高級筆記具も、近年は、ギフトだけでなく、自分のために買う人が増えている状況でしたので、高級サインペンも時代に合っているのではないかなと思っています。

――なるほど。この高級感のあるデザインを可能にしているのが、大きな特徴であるキャップレスです。インクが乾いてしまうことから「サインペン=キャップがある」というのがこれまで当たり前だっただけに、これは驚きでした。
吉田“高級”をうたうからには、デザインだけでなく、どういう機能をつけるかも大きな課題でした。そんな中、ちょうど弊社から、キャップがなくてもペン先が乾燥しない独自の新技術の「モイストキープインク」を搭載したノック式の水性カラーペン『クリッカート』が発売されたので、その技術を活用し、キャップのないものにすれば、さらに機能的にも便利で、所作的にもカッコよく見えるサインペンが作れるのではないかと考えました。

――確かに、キャップを取ったり付けたりするより、キャップレスのほうが、動作がスムーズで所作が美しく見えるかもしれません。
鈴木「モイストキープインク」は、水性カラーペンについての調査で上位にあがったお客様からの「キャップの開け閉めが面倒」「キャップを開けるときにインクが手についてしまう」「キャップを閉め忘れるとペン先が乾いて使えなくなってしまう」といった声を解消するべく開発した技術なのですが、利便性とともにデザインにも貢献できる技術になったと思います。

当たり前を課題と考える企業風土が生み出す新技術

――ゼブラといえば、1976年の発売以来、圧倒的な実用性で人気の「マッキー」ブランドが有名です。こちらも太字と細字を1本にするというそれまでにない画期的な発想と、当時当たり前だった強烈なアルコールインク臭を消したことでベストセラー商品となりました。今回の高級サインペンも含め、ゼブラには、それまでの前提を覆す発想で商品開発にあたる企業風土があるのでしょうか?
鈴木当社はすでにある商品の課題や不満点を見つめ直して改善することを昔から得意としておりまして、その根底には、生活者の視点に立って、当たり前を当たり前としてではなく、課題としてとらえ、アイデア重視の商品を生み出そうという企業風土があると思います。

――現在、デジタル化やペーパレス化が進む一方で、手書きの良さも見直されていますが、『フィラーレ ディレクション』も、今後、バリエーションを増やすなど、さらなる展開を考えられているのでしょうか?
吉田デジタルは効率が上がるので良い面も多いですが、どんなに発達しても、手書きの良さというのは絶対にあると思うんです。例えば、サインペンはボールペンに比べて筆記線が太く、相手に直接説明する時でも、ビデオ会議越しでも見やすい文字が書けるのが特徴です。そのため、サインペンで文字や図を書いて説明や指示をすることで、イメージを具体的に相手と共有することができますし、軽いタッチで書けるので、自分の思考を自由に書き出しやすく、サインペンを使ったほうが、アイデアが出やすいという方も多くいらっしゃいます。ですから、『フィラーレ ディレクション』では、デザインや色のバリエーションに加え、その良さをさらに伸ばす形の商品開発が今後も続けられたらと考えています。

――昨今、文房具は、実用性を前提に、デザインがいいものや、機能性がよりよくなったもの、環境問題に対応したものなど、さまざまなベクトルで進化しています。多様化する価値観のなか、郡雄割拠の文房具業界で、ゼブラが担う役割をどのように思っていますか。
鈴木近年、例えば1本数百円のボールペンでも「替え芯はないんですか」という問い合わせが多くいただくなど、環境問題などに対するお客様の意識が非常に高まっていると実感しています。ですから、今後は、社会問題や教育問題など、多様化した価値観にも細かく対応し、アナログの文化の良さがいつまでも残り続けるように切磋琢磨していきたいと考えています。
 また、「モイストキープインク」をはじめ、シャープペンは芯が折れるという当たり前を課題にし、芯折れを防ぐ機能を搭載したシャープペンなど、常にお客様の不満をフィードバックし、固定観念を覆す商品の開発に取り組んでいます。今後も、文房具業界の当たり前を疑い、技術の進化に取り組んで、手書きの良さやアナログの良さを追求した商品づくりに尽力し、お客様に喜んでいただける商品を提供していきたいと思います。

取材・文/河上いつ子

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