ORICON NEWS
「スペシャルドラマでいいじゃん」令和も続く“人気ドラマ映画化”の潮流に陰り
ドラマがヒットせずとも映画化相次ぐ謎 『踊る大捜査線』以降、“慣習化”で不作も
この頃はまだテレビが圧倒的なパワーを持っていた時代。かなりの高視聴率、もしくは話題作品だったことから、映画でも十分な興行収入が見込まれていたのだろう。かつての人気ドラマの映画化は大きな挑戦であり、ダイナミックな演出や豪華俳優陣を起用し、ドラマとの明確な差別化が見られた。刑事モノや人命にかかわるもの、より舞台の規模を広げた題材が多く、『HERO』のように海外にロケ地を求めるものもあった。
ちなみに、最近の映画化したドラマを挙げると、『ルパンの娘』(21年10月)、『きのう何食べた?』(21年11月)、『あなたの番です』(21年12月)、『99.9』(21年12月)、『コンフィデンスマンJP』(22年1月)、『前科者』(22年1月)、『ラジエーションハウス』(22年4月)、『チェリまほ』(22年4月)、『シャーロック』(22年6月)、『妖怪シェアハウス』(22年6月)、『極主夫道』(22年夏)などなど。“ドラマロス”に陥ったファンにとってはうれしい話題だろうが、「お金を払ってまでは」「映画化する意味よ」といった冷めた声があるのも無視はできない。
映画並みの莫大な予算をかけたVOD“オリジナルドラマ”のヒットで高まるスクリーンの壁
「また現代、ドラマの映画化が多い理由にはコロナ禍、また動画配信サービス(VOD)の状況が整っていることも挙げられる」と話すのは、映像作品のアドバイザー経験もあるメディア研究家の衣輪晋一氏。「第一に、コロナ禍で危機を迎えている映画界にしても、固定ファンがゼロのコンテンツよりは、ある程度、固定客が見込める作品の方がリスクが低い。そして、配信サービスがあることで、映画化を機に、元のファンがもう1度ドラマを見直す機会や、リアルタイムで見ていなかった人にアピールすることもできる」(同氏)
とはいえ、NetflixなどのVODが普及し、コロナ禍を経た今、“自宅で映画を観る”習慣がますます定着。加えて、『愛の不時着』『ストレンジャー・シングス』『梨泰院クラス』『全裸監督』『イカゲーム』など、オリジナル作品も国内外でヒットを連発している。中には、スクリーンで見られる邦画よりも莫大な予算をかけているのではと思わされるような、ダイナミックな作品も増産されている。これらが家でも楽しめるようになった今、人気ドラマが元といえども、映画館まで足を運ばせるのは困難だ。
「映画化ありきのドラマ」に限界 求むは“ドラマの延長線”ではなく“スクリーン作品”
だが『コンフィデンスマンJP』のように、テレビドラマとしては『逃げ恥』『半沢直樹』ほどの視聴率を獲得しなかったものの、映画作品としてヒットを生むパターンもあった。確かに今は、邦画が洋画とそれほど変わらないヒットを飛ばせる時代にはなっている。『踊る大捜査線』以降、ドラマ→映画も作る風習がテレビ局に染み付き、またその専門部署もある以上、どうにかしてこれで収益を得ようとする経営判断もあるだろう。しかし、ドラマと映画製作における長期間のキャストブッキングと予算を考えれば、今後は回収できなくなる恐れもある。
「人気ドラマ、映画化」に、今どれだけの話題性があるだろうか。“ドラマの延長線”ではなく、“映画でしか表現できないもの”を作らなければ、もはやその言葉に視聴者は何の興味も示さないだろう。現在は、ドラマ、映画、配信サービスの境界線が曖昧だ。だからこそ、劇場に行ってまで見たいと思わせる“スクリーン作品”であることが重要なのだ。悪しき風習となりつつある「映画化ありきのドラマ作り」ではなく、「ドラマのヒットありきの映画化」、もっと言えば映画ならではのストーリー作りや演出を見出してほしい。
(文/西島亨)