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『逃げ恥』、『カルテット』など話題作が続々、TBSドラマ好調の原動力とは

 『コンフィデンスアワード・ドラマ賞 年間大賞2017』は、TBS系火曜ドラマ『カルテット』が「作品賞」をはじめ、7 部門中5部門を受賞。放送時にネットを巻き込んで話題を呼んだ同作が、ドラマ界に与えたインパクトの大きさを改めて実証する結果となった。チーフプロデュース・演出を務めた土井裕泰(のぶひろ)氏に、製作過程を振り返ってもらうとともに、良質なドラマの本質について尋ねた。

ジャンルに属さない物語だからこそ、ワクワク感をもたらした

――2017年の「年間大賞」受賞おめでとうございます。まずは率直なご感想からお聞かせください。
土井 脚本家の坂元裕二さんのオリジナルで連続ドラマを作りたいという僕と、プロデューサーの佐野亜裕美の強い思いから始まったドラマでしたが、坂元さんの脚本を信じ、その世界をどう表現するかをスタッフ全員が真剣に悩み、また、楽しみながら考えて作った結果と受け止め、大変嬉しく思っています。それから、坂元さんの書かれたセリフを深いところまで表現できる俳優さんたちに集まっていただけたことが、このドラマにとって何より幸せなことだったと思っています。
  • TBS・土井裕泰氏

    『カルテット』のチーフプロデュース・演出を務めた土井裕泰氏(撮影:逢坂聡)

――改めて、支持された要因はどんな点だったと思われますか。
土井 僕自身、このドラマについてはまだ総括して終わりにできていなくて。今も日常のなんでもない瞬間に彼らの言葉がスッと浮かんできたり、今彼らはどこで何をしているんだろう?と想像したりと、今も自分の中で彼らのドラマが続いているような感覚があるんです。同じように、観てくださった方にとっても、いつまでもこのドラマについて、自分なりの解釈や想いを語りたくなるような長く、深く、心に残るドラマになったからではないかと思っています。僕はテレビドラマというのは、日常と地続きにあるもので、自分たちのすぐそばにいる人の小さな声に耳を傾けて、そのささやかな叫びを伝えるものだと思っているのですが、今回『カルテット』を手がけたことで、その思いを改めて強くしました。

――確かにネット上では何気ない日常生活を切り取るようなセリフの掛け合いが「観ていて温かい気持ちになる」「胸に響く」「日常が愛おしくなる」などと、話題になりました。
土井 人間というのはいろいろな面を持っている生き物で、みんな自分の人生に一生懸命向き合い、闘いながら、社会や他者との関わり合いの中で生きています。そういう非常にシンプルなことをベースに、私たちの隣に生きている誰かの日常を覗き見しているようなドラマを描くことがテレビには求められているのではないでしょうか。さらに本作は、30代の若いプロデューサーである佐野の力によって、そこに今の空気感というか、現代らしさがプラスされたことも大きかったと思います。例えば、椎名林檎さんに主題歌を依頼しキャストの4人に歌ってもらうことや、タイトルバックを作ること、食卓に並ぶ料理は人気フードスタイリストの飯島奈美さんに作ってもらうことなど、彼女が非常にアグレッシブに自分がやりたいことを実現させたことが、独自の世界観に繋がり、視聴者の幅を広げる良い相乗効果を生んだと思っています。

火曜ドラマ『カルテット』(TBS系)より (C)TBS

火曜ドラマ『カルテット』(TBS系)より (C)TBS

――その一方で、先の読めないストーリー展開も話題となりました。
土井 最近のテレビドラマは、事件もの、刑事もの、医療ものというように、ジャンル分けが明確にされていて、そのフォーマットに従って作っていくことが多いですが、このドラマは最初からジャンルがないというか、わからないドラマで(笑)。でも、それが結果的に、観ている人にとって「どこに連れていってもらえるんだろう」という、連続ドラマならではのワクワク感をもたらすことに繋がったのではないかと思います。

火曜ドラマ『カルテット』(TBS系)より (C)TBS

火曜ドラマ『カルテット』(TBS系)より (C)TBS

火曜ドラマ『カルテット』(TBS系)より (C)TBS

火曜ドラマ『カルテット』(TBS系)より (C)TBS

――審査員からは「視聴率からはわからないエンタテインメントの素晴らしさを視聴者に提示し、今後のテレビドラマの流れに大きな影響を与えた」との声も挙がりました。
土井 確かにリアルタイムですごい視聴率をとったわけではありませんが(笑)、視聴率は1つの大きな命題ではあるので、そこを無視してはいけないと思っています。でも、一方で、タイムシフトなどテレビの見方やネットを介した映像配信など、メディアが多様化している今、ニーズに応じていろいろなドラマがあってもいいのではないかと思うんです。その意味では、『カルテット』がこれからドラマを作ろうと思う人たちにとって、勇気を持っていろいろな可能性に挑戦しようと思うきっかけになれたなら、非常に嬉しいですね。

心に残り続けるドラマを作るには

――昨年は『逃げるは恥だが役に立つ』が年間大賞で作品賞を受賞したように、近年、TBSのドラマは好調が続いています。
土井 社内的には、16年から「金曜10時」、「日曜9時」に加えて、「火曜10時」をドラマ枠として定着させようという方針でやってきましたので、その火曜10時枠の2作品が連続で年間大賞を受賞できたことは、関わってきた人間として非常に嬉しく思っています。ドラマはテレビ局の顔の1つですので、ドラマが元気であることは、テレビ局の持っているパブリックイメージにも大きく関わってきますから。
――元気の源は何だと思われますか。
土井 照れずに言うならば「良い作品を作りたい」という作り手のシンプルで強い気持ちだと思います。時代の中で瞬間的に話題にはなるけれど、何年か経ったら「そんなドラマあった?」と思われるような作品ではなく、ずっと心に残るような語り継がれるドラマを作りたいという強い思いです。僕は子供の頃、『時間ですよ』や『寺内貫太郎一家』など、久世光彦さんが手がけたドラマを観て育ち、TBS に入った世代なのですが、その後、TBSには同じように脚本家の山田太一さん、野島伸司さんたちの作品を観て育った人たちが入社してきていますので、世代交代はしているけれど、会社の中にどこか遺伝子として、そういった思いが受け継がれているのかもしれません。

――ずっと心に残るようなドラマを作るために必要なことは何でしょう。

土井 作り手の誰かの「どうしてもこれをやりたい」という作品の核になる強い思いではないでしょうか。まずは自分たちが面白いと思えるものを信じること。前クールのTBSのドラマは日曜『陸王』、火曜『監獄のお姫さま』、金曜『コウノドリ』というラインアップでしたが、面白さの軸がそれぞれ違う3本が同クールにラインアップできる作り手の幅の広さがあることが、最初におっしゃった最近のTBSの好調の原動力になっているのではないかと思っています。

文/河上いつ子、撮影/逢坂聡
■土井裕泰
1964年生まれ。88年にTBSテレビに入局。制作局ドラマ制作部に所属し、『愛していると言ってくれ』(95年)、『魔女の条件』(99年)、『ビューティフルライフ〜ふたりでいた日々〜』(00年)、『GOOD LUCK !!』(03年)、『オレンジ デイズ』(04年)など、同社を代表する名作ドラマの演出を担当。13年放送の『空飛ぶ広報室』で演出に加え、初めてプロデュースにも携わり、16年に社会現象を巻き起こした『逃げるは恥だが役に立つ』でも演出を務めた。また、映画監督としても活躍し、『いま、会いにゆきます』(04年)、『涙そうそう』(06年)、『麒麟の翼 〜劇場版・新参者〜』(11年)、『ビリギャル』(15年)などのヒット作を手がけている。
(『コンフィデンス』 18年2月26日号掲載)

提供元: コンフィデンス

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