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地方自治体PR動画が満島ひかりを“いい意味で”無駄遣い? “攻めた”動画発信に込めた町おこしへの想い
15年前に合併も周知されず…批判を想定したうえでの“尖った施策“だった
「想像以上の反響に正直、驚いています。2月15日に公開してすぐ全国の情報番組にも取り上げられ、自治体の動画としては再生回数の伸びが異例の速さだと紹介していただいたのもうれしかったですね。動画の企画の内容は公募で行われました。我が市は平成18年3月31日に合併した新しいまちで周知されておらず、決定した事業者との打ち合わせで、『知名度向上のためにはある程度尖ったことをしないといけませんよね』という話になり、同動画が作られることになりました」
――架空の情報バラエティ番組の設定で架空のCMまで作り込んだ体裁に。地方の番組ならではの“あるある”が盛り込まれたよく出来たパロディになっているほか、ギャグなども攻めたものばかりで、自治体が制作したとは思えないほど遊びのある動画になっています。
「監督は映像ディレクターの渋江修平さんに担当していただきました。情報番組も本物らしくするために実際に地元のテレビ局に出演している方々に依頼しています。公募で決まった段階で渋江監督に仕切っていただくことになったので、企画を踏み込んで。基本的には渋江監督のアイデアに頼りきりでした」
――行き過ぎることで「ふざけすぎてる」「バカにしてる」などといった批判がくるのではと、行政として不安はなかったのですか?
「捉え方の問題で批判があるのでは、ということはもちろん想定していました。ですがプロの方々が作られた動画ですのでお任せしたいと思いましたし、メインとなる原城跡や名産のソーメン、ほかアクティビティのイルカウォッチング、世界で数カ所しか見られないリソサムニューム、物産、海産物など自治体が知らせたいものはしっかり押さえてもらっています。さらに言えば、本来、南島原市の住民の方々はおおらかで田舎特有のお祭好き。不安はなかったですね(笑)」
「この企画が出来るのは満島ひかりしかいない」南島原の地域性を絶妙に表現
「以前、監督がドラマ『シリーズ江戸川乱歩短編集』で満島ひかりさんとお仕事をしたことがあり、監督が『この企画が出来るのは満島ひかりしかいない』と推薦されました。実際に満島さんに出演していただくことになった時は『まさか、本当に?』と率直に驚きました(笑)」
――現場での満島さんはいかがでした?
「オンとオフの切り替えがすごい方。満島さんには南島原の方言で演技してもらうシーンも多かったのですが、オフの時には『この方言、この言葉遣いで大丈夫ですよね』とフランクに話しかけてくれるのに、オンになると急に目つきが変わる。監督にも『こうした方がいいのでは』と次々とアイデアを出されており、そのプロ意識に圧倒されました。実は私も市役所に住民票を取りに来た祖父役で出演しているのですが、そこで私はかなり強めの方言で演じたんです。分からないだろうなと思っていたのですが、撮影後、満島さんは『私、鹿児島生まれの沖縄育ちなので九州の方言、なんとなく分かるんです』と私の方言を理解されていたようで(笑)。それも印象的でした(※2ページ目に動画あり)」
――業界でも満島さんはそのプロ意識の高さで有名ですから。
――SNSにも天草四郎のあまりのハマりぶりに、「大河ドラマで天草四郎をやるべきじゃないか」などの声も。
「本当に格好良かったです。あの扮装で架空CM『南島原五番勝負』で数々のダンスも披露していただいたのですが、監督は『ダサく踊ってほしい』と注文を受けていたんですよ。実際にダサ目のダンスで我々がやったらものすごく変になるんですけど、なぜか満島さんが踊られるとダサいのに格好良いんですよ。それは一体何だろう? と思いました(※2ページ目に動画あり)」
SNSの活用を見据え、動画発信に注力「反響が数値として可視化できる」
「SNSで、『そうめんのふるさと納税をしました』というコメントを見た時はうれしかったですね。また市役所にも、『あのそうめんはどこで買えるのか』などの問い合わせが。ただこのコロナ禍で、原城跡の団体観光客、インバウンドはありません。ただ今後皆さまに来ていただくことを考え、原城跡の満島さんが撮影された場所に撮影で使用した旗を設置し、そこで記念撮影が行えるようにしたり、原城跡での撮影で満島さんが着られた天草四郎の衣装を展示するなど考えています」
――なるほど。聖地巡礼を狙っているわけですね。
「まさしくそうで、知名度向上とともに聖地巡礼のお客様を想定しています」
――これだけ動画がバズれば実現しそうです。他にも国際短編映画祭ショートショートフィルムフェスティバル&アジア 2018で、第7回観光映像大賞(観光庁長官賞)を受賞した観光ショートフィルム『夢』やアニメ『巨神と氷華の城』やダンスムービー『マイメンいつメン島原手延そうめん』など、動画制作に力を入れているようですが。
――SNSや動画でのPRは以前のPRと比べ何が効果的なのでしょう。
「以前は雑誌や地下鉄の広告などでのPRでした。動画の良さは再生回数で観た人数が分かること。地下鉄の広告では何人が見たか分からない。それが可視化されるのが大きな違いだと感じています。あとやはりバズりなどでの反響があること。すでにほかの地方自治体からもどのように作ったのか、問い合わせをいただいています」
――なるほど。まさに新時代の町おこし。エポックメイキングとなりそうですね!
「そうなりたいという想いもありました。コロナ禍が収束すれば、観光客も名産の売上も伸びる要素はあると思って期待しています。今後、またPR動画を作ることがあれば、それもまた攻めた形に。今後も形にとらわれないPRをしていきたいと考えています」
(取材・文/衣輪晋一)