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“老い”をタブー視せず、『シルバー川柳』に見る高齢者の意識変化
ネットやSNSの影響で若者も増加、高齢者の切れ味鋭い時事ネタも健在
『シルバー川柳』は2012年からポプラ社が書籍化。今年で9冊が刊行されており、シリーズ揃って高い人気を得ている。上記協会とともに入選作の選考にも参加する編集部・浅井四葉氏は、「『シルバー川柳』がネットやSNSで取り上げられることで、10代や20代の若い方からの応募も増加。すそ野が広がった観があります」と、反響の高さを語る。今年の最年少応募者が4歳の女児であることからもわかるように、高齢者と同居する孫世代や、介護の仕事に関わる若者世代からの応募も増えているそうだ。
もちろん、メインの応募者である高齢者も変わらず元気だ。今年の入選作にも、『メルカリで 誰も買わない ワシの服』(51歳・女性)や『グレーヘア したいがすでに ハゲ頭』(76歳・男性)、『女房から 生前退位 せまられる』(68歳・男性)などがあるが、社会の流れを敏感に取り入れていることに驚く。「70代80代の方でも、流行語や時事問題のキーワードを使いこなしていらっしゃる方が多い」(浅井氏・以下同)と言うように、そうした言葉を使いながら、自虐的なオチまでつけた秀逸な作品が並んだ。とはいえ、「“メルカリ”などはわからない方もいるので、書籍では注釈をつけて掲載しています」とのこと。これもまた、『シルバー川柳』ならではの配慮だろう。
「尿漏れ」「紙パンツ」「認知症」もズバリ、老いをタブー視せずに堂々と
だが、そんな“シルバーあるある”の中でも、最近ではある変化が感じられるという。
「“尿漏れ”や“紙パンツ”、認知症にまつわる言葉など、ひと昔前ははっきりと書かなかった老いにまつわる単語を、ズバリと表現する句が増えました。CMなどでも使われていることから、徐々に抵抗が減っていき、もはや隠すべき言葉ではないのかもしれません」。
実際、今回の入選作にも『徘徊の ルートAI にも読めず』(67歳・男性)という句がある。最近のキーワードと結び付けてはいるが、少し前までタブー視されていた「徘徊」という言葉には、高齢者でなくともドキっとするだろう。
「老いをみっともないものととらえたり、恥ずかしがったりするのではなく、堂々と言ってのける。それは、ここ10年で表現の仕方に違いが出てきたように感じます」。
自虐のレベルが鋭すぎて心がざわつきそうだが、老化による不調をも堂々と言葉にして笑い飛ばす強さが現在の『シルバー川柳』にはあるし、他の追随を許さないクオリティの高さの理由も、そんなところにあるのだろう。
今年の最高齢は97歳、「“君たちはまだまだ”と言われているよう」
「常連の方が投稿してくださると、今年も元気にしてらっしゃる…とホッとします。皆さん、そうそう太刀打ちできない表現力をお持ちの方々。そういう方の句を読むと、“ちょっと考えたくらいじゃダメなんだよ。君たちはまだまだ、夫婦の倦怠について知らないんだから”と言われているような気がします(笑)」とのこと。何事を詠むにしても、川柳にはオチが必要。自虐も含めてクスリと笑わせる表現力はまさに年の功であり、人生の大先輩の器の大きさを感じさせる。
高齢者相手ならではの苦労も、「あえてデジタルにせず、アナログで」
「川柳はハガキでご応募いただいていますが、中には日々書かれたであろう1年分の句が詰まったノートを送ってくださる方もいます。それも担当者が一句一句入力して、選考していきます」。
現在ではほかにも様々な川柳コンテストが行われているが、多くはWEBでの募集。WEBで募ったほうが応募は増え、広く認知されやすいことはわかっているが、そこには『シルバー川柳』ならではのこだわりがある。
「高齢者の方がメインなので、あえてアナログのままいきたいと協会の方とも話しているんです。デジタルにすることで、敷居を高くしたくない。高齢者の皆さんが応募しやすい体制は続けていきたいと思っています」。
来年は20回目の節目、中国からの意外なオファーも?
「老いて衰えていくことをどう見つめるか。それを笑いに転換し、前向きに切り替えていく姿はとてもたくましいと思いますし、編集部も毎年励まされています。やはり、『シルバー川柳』は、読んだ方に共感していただき、元気になってもらうことが一番。応募していただく方々も、周りを観察したり、いろいろなことにチャレンジすることで、きっと良い句が思い浮かぶはず。そうして毎日を元気に暮らしていただきたいですね」。
来年は、『シルバー川柳』にとって20回目の節目の年。
「単行本はバス旅行や老人会のお供として、皆さんで読んで笑っていただいています。来年のことは具体的には決まっていませんが、例えば川柳の一部を穴埋め形式にするなどして、参加して楽しめる仕掛けを作れたら面白いのかなと思います」。
また、「なぜか中国で川柳が流行っているようで、現地の出版社から問い合わせをいただく機会が増えた」とのこと。日本の高齢者やそれを取り巻く人々に活力を与え、時には原動力ともなっている『シルバー川柳』。これからも、意外な広がりを見せる可能性を秘めていそうだ。
(文:今 泉)
ポプラ社刊
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