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“切ないのに面白い”SNSでも高評価『シルバー川柳』が秀逸なワケ、「厳しい介護の現場に笑いを」

 世間では『サラリーマン川柳』が人気だが、高齢者が中心となって投稿している『シルバー川柳』をご存知だろうか。「『インスタバエ』 新種の蝿かと 孫に問い」「ベンツから 乗り換えたのは 車椅子」など、自虐とユーモアに溢れた句の数々は、まさに年の功とも言うべきクオリティだ。高齢者の共感を集めるばかりか、若い世代からも支持される『シルバー川柳』。主催する公益社団法人・全国有料老人ホーム協会の副理事長である市原俊男氏とスタッフ、そして単行本を発行するポプラ社担当者に話を聞いた。

若い世代もSNSで面白がって拡散、『シルバー川柳』がジワジワ知名度アップ

 2001年、全国有料老人ホーム協会20周年を記念して初めて公募した『シルバー川柳』。民間老人ホームの認知度を上げるという目的のもと、スタートした事業だった。全国有料老人ホーム協会の副理事長・市原俊男氏(『シルバー川柳』スタート時は理事長として在籍)が、当時の思いを語る。

 「高齢者といっても、まだまだ活力も、創作能力もあります。そんな彼らが社会に発信するにあたり、誰にでもできる川柳がいいんじゃないかと。あまりシリアスにはならず、高齢者独特のシニカルさとユーモアを取り入れられる川柳は、自己表現の場にぴったりだと思ったんです」。

 「1回目から応募者数も多く(3,375作品)、プロが作ったんじゃないかと思うほど非常にレベルの高い川柳がたくさん送られてきました」と、予想以上の反響から手ごたえを感じ、毎年の開催が決定したという。

 そんな『シルバー川柳』も今や18回目、応募数が1万作品に届く年も珍しくない。始めた当初よりもインターネットやSNSが充実したことで、高齢者ばかりでなく、若い世代が面白がって拡散することも増えた。またテレビなどのメディアで紹介されると、「公式サイトのアクセス数も増える」とのこと。「全国有料老人ホーム協会と言っても知らない人は多いですが、『シルバー川柳』を主宰していると言うと、わかってくれる人は多い」と、知名度が上がったことを実感しているそうだ。

老人ホームやバス旅行での口コミで話題、書籍も好調

  • 今年の入選作も収録、『シルバー川柳8』(ポプラ社刊 発売中))

    今年の入選作も収録、『シルバー川柳8』(ポプラ社刊 発売中))

 『シルバー川柳』は毎年、敬老の日がある9月に入選作を発表する。公募に年齢制限は設けていないが、中心となる応募者はやはり高齢者。「老人ホームからまとめて送られてきたり、サークル活動のようにして楽しんでいるところもあります」。中には、1人で何通も応募し、入選しているか否かを電話で確認してくるほど熱心な応募者も。高齢者にとって、応募すること自体が大きな張り合いとなっているようだ。

 さらに、2012年の第12回からはポプラ社により書籍化され、大きな反響を得た。編集部によると、「購買層は50代から60代以上が多数。子どもや孫が、おじいちゃん、おばあちゃんに贈る、といったプレゼント需要もあります。書店で購入される方はもちろん、老人ホームやバス旅行で人から勧められて買ったという方もいらっしゃいました」とのこと。この9月には第8巻が発売されており、書籍のセールスも好調だ。

ユーモアと悲哀が絶妙…高齢者が選考する『シルバー川柳』、『サラリーマン川柳』との違いは?

 『シルバー川柳』は、高齢者ならではの“あるある”を自虐やブラックジョークに包んだユニークな作品が多い。今年の入選作「デイサービス 『お迎えです』 はやめてくれ」(68歳・男性)、「うまかった 何を食べたか 忘れたが」(52歳・女性)などはまさにそれ。自虐の中にうっすら悲哀が感じられつつも、思わずクスっと笑ってしまうウィットに富んでいる。

 一方、「仲いいね いいえ夫は 杖代わり」(67歳・女性)、「猫までが 妻の真似して 俺またぐ」(69歳・男性/16回入選作)のように、協会スタッフ言うところの“妻高夫低”の傾向があるのも特徴。「『インスタバエ』 新種の蝿かと 孫に問い」(83歳・男性)、「君たちも どう生きるかと 子に聞かれ」(52歳・女性)など、流行や時事ネタを敏感に取り入れ、自虐と絡めているところなどは、もはや年の功としか言いようがないクオリティだ。

 川柳といえば、毎年『サラリーマン川柳』が話題になるが、『シルバー川柳』の盛況にも同様の傾向が見えると、市原氏と協会スタッフは分析する。

 「『サラリーマン川柳』に人気があるのは、その句に共感する人が多いからでしょう。働く人は多いですし、同じような体験をし、同じ思いを抱いたことがある人の数も多い。同様に高齢化社会となった現在、シルバーに関する悲喜こもごもに共感し、楽しんでくれる人が増えるのも当然のことかもしれません」。

 ただ、入選作選考の面では、『サラリーマン川柳』とは異なる、『シルバー川柳』ならではの視点が入るのも特徴だ。

 「入選作を選ぶのは、協会の選考会と、協会会員法人ホーム入居者です。入居者の方は作者と似た境遇であるだけに、ご自身の生活とも関わる少し重めの句を選ぶ傾向があります」。

 こういった点が、『シルバー川柳』をユーモアだけでは語れない、深みあるものにしているのかも知れない。

「高齢者の方たちを愛おしく感じる」、厳しい介護の現場に笑いと励ましを届ける

 今年の応募者の平均年齢は69.2歳。入選者も高齢者が多いが、意外に若い世代もいる。その中には介護の現場に関わる人も多いと、応募者に話を聞いたポプラ社編集部は語る。
 
「介護には厳しいことや大変なことも多いんですが、現場では笑いがとても大事なことだと思っていると。だから『シルバー川柳』に励まされるのだ、と言っていただきました」

 実際に、今回の入選作の中には「Siriだけは 何度聞いても 怒らない」という川柳がある。“Siri”とはiPhoneやiPadなどについているAIアシスタント。話しかけると、様々な事柄を音声で教えてくれる機能である。この川柳を投稿したのは、高齢者の支援センターで働く32歳の男性だ。

 「いろいろな事情を持っている高齢者と接していて、すごく深刻なことだけど、笑えることもある。現場ではそんなエピソードがたくさんあるので、形にしてみたそうです。そうすることで、あらためて高齢者の方たちを愛おしく感じることができると、この方はおっしゃっていました」

深刻になりがちな高齢化問題で、『シルバー川柳』が潤滑油に

 『シルバー川柳』の一番の魅力は何か? 協会の市原氏はそれを、「自分の人生をテーマにしながら、短く表現できること」だと考える。読んで楽しむことはもちろん、応募するために句をひねることが、高齢者に活力を与えていることは間違いないだろう。

 そして、前述の例を見るとわかるように、若い世代や“介護する側”にとっても非常に意味のあるものとなっている。高齢化、介護問題…というと、どうしても出てくる話題は重々しく、深刻になりがち。そんな中でも生まれてくるユニークな『シルバー川柳』は、世の中に明るい笑いを届け、作者それぞれの個性を想像することで、親しみをも感じさせることができる。

 「このような表現の場は、これからも続けていきたい」「今後も、人生の達人たちならではの“真理”をユニークな形で世に出していけたらと思います」と、市原氏と編集部。人々を元気にしたいという願いのもと、『シルバー川柳』は高齢者と世の中を続く潤滑油として今後も発展していくことだろう。

(文:今 泉)

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