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阿部寛、“新参者”を支えた仕事論「自分を感動させたい」

 2010年4月に連続ドラマとしてスタートした東野圭吾原作の「新参者」シリーズが、1月27日公開の映画『祈りの幕が下りる時』でついに完結する。スペシャルドラマ『赤い指』、『眠りの森』、劇場版『麒麟の翼 〜劇場版・新参者〜』、そして今作まで、足かけ8年にわたり“加賀恭一郎”を演じた阿部寛。自身にとっても代表作となった“新参者”シリーズや主人公の加賀恭一郎への思い入れ、「自分を感動させたい」という仕事のこだわりを語ってくれた。

僕にとって “挑戦”だった『新参者』が俳優の地盤を作ってくれた

「新参者」シリーズは、加賀恭一郎を主人公とする東野圭吾の推理小説が原作。1作目の『卒業』からラストとなる『祈りの幕が下りる時』まで9作品が発表されており、映像としては、2010年にTBSでの連続ドラマ化からスタート。シリーズを通して、阿部寛が演じる主人公の加賀恭一郎は、犯罪者に対しても優しさを持ち、鋭い人間観察眼で事件の本質に迫る“泣けるミステリー”として人気を博す。

溝端淳平、田中麗奈らのシリーズ通した主要キャストが再び集結

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 「連続ドラマがスタートするときは、日曜劇場という枠で主演をやらせていただくこと、それも東野圭吾さん原作の人気シリーズということで、とてもプレッシャーが大きかったんです。“加賀恭一郎”という役を、自分で成立させるのはすごく難しい。だけど難しい事をやってこそ、俳優だと思っているので、当時の僕なりに一生懸命頑張ってやっていたと思います。今見直すと、それが連続ドラマの第1話にすごくよく表れていて…。なんていうかな、その新鮮さや不安感、そしてチャレンジ…と盛り沢山だった。だから僕は、結構第1話が好きなんですよ」

 テレビシリーズでは、行列に並んでもいつも目の前で売り切れてしまい、人気のたい焼きが食べられない…など、原作にはない演出が“加賀恭一郎”の人間味を、より深めたと言っていいだろう。しかしながら、画面で見る“加賀恭一郎”は、イコール“阿部寛”と思えるほどの、はまり役だったように思えたが、阿部にとっては難役だったという。

 「この作品に出会うまで、僕はエキセントリックな役がすごく多くて…。でも、そういう役を演じるのは、すごい好きなんです(笑)。そしてこの役が来た時に、『そういえば、やったことなかったな』って思ったんです。“加賀恭一郎”は、まっすぐで心で語っていくすべてを削ぎ落した役で、本当に僕にとっては挑戦でした。このシリーズが8年も長く続いて、加賀恭一郎を起点に今もいろいろな役の仕事ができている。僕の中で軸がずっとそこにあったということです。僕の足元の地盤というか、基礎になるものがこの作品によって出来上がった。この作品との出会いは本当にうれしいことでした」

 自分自身とかけ離れた役であればあるほど演じやすいという阿部。とはいえ、エキセントリックとはまた違った方向性で、自身とかけ離れた“加賀恭一郎”という役を8年演じたことは、俳優人生の中で、大切な軸となったようだ。

もし続編があったとしても、二つ返事では受けられない

『祈りの幕が下りる時』では、松嶋菜々子演じる元女優の演出家・浅居博美との“対決”が繰り広げられる

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 “新参者”シリーズ完結編となる今作は、泣けるミステリーの最高傑作であると同時に、松嶋菜々子との初共演、また『半沢直樹』『下町ロケット』などのヒットドラマを手掛けた福澤克雄監督がシリーズで初めてメガホンをとることも注目。阿部寛と福澤監督は、テレビドラマ『下町ロケット』で出会ってからの仲。“新参者”シリーズに初めて参加するとのことで、全編見直したという監督に応えるべく、阿部自身も過去作品に全て目を通したそう。
「今作は今までとは違う監督に、あえて頼んだんですけれど、多分、一視聴者として福澤監督も『新参者』シリーズに色々と意見があったと思う。“ここをこうすればもっと面白い”とかそれを今作にぶつけてもらおうと思いました。福澤監督は『下町ロケット』でご一緒していて信頼関係もあったので、監督とともに新しい“加賀恭一郎”を作っていきたいと。福澤監督だから今作の“加賀恭一郎”ができた。それはとても刺激的な時間でした」

 日本橋・人形町が舞台の“新参者・加賀恭一郎”として、ファイナルを迎える今作。終わったな…という、清々しい気持ちであり、寂しい気分だという阿部。でも今作がファイナルとはいえ、もしかしたら原作者の東野圭吾氏が続編を書いて、映画化の話がくるかもしれない。その時はどうするか尋ねたところ、「二つ返事でOKとは言えない」という。

 「この『祈りの幕が下りる時』の完結に非常に満足していますので、ただの今までの流れではやりたくない。もうなかなかこれは越えられないと思うし、でも、もし“これを越えられる”と思えればやるかもしれない」

阿部寛の仕事論、人の心を動かすために、まず自分自身を感動させたい

  “加賀恭一郎”という役への挑戦もしかり、常にいろいろな役を演じてきた阿部。だが今までの俳優人生は、決して順調ではなかったという。20代の頃はいろいろな役がもらえず、30代の頃は、とにかくプロデューサーに見てもらって、仕事を増やそうとしたそんな阿部だからこそ、ひとつひとつの作品に真摯に向き合っているのだろう。

 「常にチャレンジしたいと思うし、どんな役でもやりたいと思うのは、その時期の反動かな(笑)。何より、人が喜んでくれるのが、すごく嬉しい。自分が出演した作品を見て、いろいろな幸せを感じてほしいし、いろいろなプラスのことも持ち帰って欲しい。それには、まずは自分が面白いと思わないとダメだと思っています。自分が演じて、それを見て、自分自身が感動できなかったら、人には勧められない。多くの人、何百万人もの人が見るものを、代弁してつくっているのだから、自信を持って見ていただける、喜んでいただけるってものを出していくことに力を注がないと、何のために俳優をやっているんだろう…と思います」

 “泣けるミステリー”として人気を博す裏には、自分を感動させたいという俳優魂があった。そんな役への探究心が尽きない阿部が、今後向き合ってみたい役どころのひとつは、時代劇だという。

 「時代劇をやるたびに、やっぱりすごい楽しいな、好きだな…って思うんです。時代劇って、日本の伝統的な部分もたくさんあるし、武士道とか“精神性”がある。時代時代によって、日本独特の文化があって、そういうものを後世につなげたいなって思うし、僕も役者という仕事人としてその一端に参加していきたい。最近、若い俳優さんも時代劇をどんどんやってるし、僕も50過ぎたけど、引き続きチャレンジしてみたいところですね」

(写真/RYUGO SAITO 取材・文/綱島深雪)
(ヘアメイク/丸山良 スタイリスト/土屋詩童)

映画『祈りの幕が下りる時』

1月27日公開
監督:福澤克雄
出演:阿部寛、松嶋菜々子、溝端淳平、田中麗奈、山崎努 ほか
公式サイト:http://inorinomaku-movie.jp

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