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『下町ロケット』の好調を支える阿部寛 苦節時代を経た三枚目残念キャラの50代俳優

  • 『下町ロケット』第3話より (C)TBS

    『下町ロケット』第3話より (C)TBS

日曜夜9時に放送中の『下町ロケット』(TBS系)。初回から高視聴率をキープしていたが、11月15日放送の5話では、なんと大台超えの20.2%を記録した。そんな好調を支えている大きな要因のひとつが、同ドラマの主演を務める阿部寛ではないだろうか。

クセのあるキャラクターを演じるヒットメイカー

 同ドラマで阿部は、父の代から引き継いだ中小企業・佃製作所の社長、佃航平を演じている。この佃が、バリバリ仕事をこなすやり手の現代ヒーローのイメージとはほど遠い、どことなく損をしていて可哀想な存在。でも曲がったことをしていない、まっすぐで応援したくなる人物であることが、ドラマ人気の理由のひとつ。

 こうした、正義感もあるのにちょっと損をしているという役は、なかなか阿部の年代ではほかにしっくりくる俳優がいない。ほかの50代の俳優では、もっとシャープであったり、威厳があったりして、阿部のような泥臭さがにじみ出たり、ちょっと心配になって肩入れしてしまうようなキャラクターになっていなかっただろう。

 いまでこそ阿部は、『TRICK』(テレビ朝日系)『HERO』(フジテレビ系)を始めとする数々のヒットドラマに出演し、クセのあるキャラクターを演じる独特の存在感を放つ俳優として引っ張りだこになっているが、もちろん最初からそんな人間臭さのある俳優ではなかった。

 阿部のデビューは1983年。ファッション誌『メンズノンノ』のモデルとしてだった。当時は『笑っていいとも!!』(フジテレビ系)の「いい男さんいらっしゃい」というコーナーに出演。“アベちゃん”と親しまれ、その掘りの深い顔だちからソース顔とも言われていた。その後、俳優デビューは、当時のトップアイドル・南野陽子の相手役として、漫画原作の『はいからさんが通る』(1987年)という作品だったことから考えても、現代のイケメン俳優と同じような道を歩んでいたことがわかる。

二枚目ゆえの抜けた部分をみせる俳優の先駆者

 しかし、当時はそんな二枚目俳優の進む道は、まだそれほど開かれていなかった。次第に俳優としての仕事は減り、その活躍がお茶の間では見られない時代が続く。そんなとき阿部は、極道の世界を描いた『大阪極道戦争 しのいだれ』や、バイオレンスアクション『凶銃ルガーP08』など男の映画の世界に飛び込む。今でこそ、そんな時代もあったのかと納得できるが、当時、阿部が肉体改造をし、男らしい役に挑んだことは意外に映ったし、また、単なる二枚目俳優の阿部に期待をしていなかった、映画マニアにもその存在を知らしめることになったのを記憶している。

 この路線だけでは、役の幅は広がらなかったかもしれないが、2000年代にドラマ『TRICK』に出演し、自らのモデルであった出自などもネタにして、徹底的に残念な三枚目路線を開拓する。今でこそ、仲村トオルや竹野内豊など、もともと二枚目であった俳優が中年に差し掛かったとき、二枚目ゆえのちょっと抜けた部分があることをフィーチャーする作品は見られるが、この点においても阿部は先駆者であったといえるだろう。その後は、『結婚できない男』(フジテレビ系)『テルマエ・ロマエ』など、誰もが知る代表作にも恵まれる。

 こうした歴史がある阿部が主人公を演じているからこそ、『下町ロケット』には説得力があるのではないだろうか。例えば、コミカルな自分を演技でさらしてきたがゆえに、佃が発する「だめだこりゃ」「なんだこりゃ」などのセリフにも違和感を抱かせないところがある。また、佃製作所の技術力は本物なのに、いつも窮地に追い込まれている場面を見ても、これまでの“残念”なイメージがあるからこそ、より引き込まれ、応援したくなる。

 視聴者は、『下町ロケット』というドラマに見入りながら、阿部の人間性がにじみでるキャラクターに共感し、佃の人生を深く見守ってしまうのかもしれない。
(文:西森路代)

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