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芸人脚本家の力量を示したバカリズム、“異業種”の血がドラマ界の活性化へ?

 ドラマ『黒い十人の女』(日本テレビ系)がSNSなどで好評だ。キャスティングの妙や女優陣の思い切りの良い芝居もすばらしいが、その“思い切りの良さ”を引き出す源である芸人・バカリズムの脚本のおもしろさがウケている。“不倫”というテーマに、風刺を利かせ、コミカルにテンポよく描き出す……と言うとそれらしく聞こえるが、おそらく“バカリズム節”の本質はそこにない。“不倫する”という言葉を“スベる”というお笑い用語に置き換えてしまう(第5話)手法など、その考え方は“ドラマのセリフ”というよりむしろ大喜利のそれに近い。果たして同作は杓子定規に“テレビドラマ”と言ってしまって良いものなのだろうか。また、こうした“異業種の血”が入ることが現在のドラマシーンにどんな影響を与えていくのだろうか。

“タブーへの挑戦”が暗黙の了解? 芸人ならではの脚本への共感

 同作は名匠・市川崑が監督した1961年公開の同名映画が原作。同ドラマで主演を演じる船越英一郎は原作映画で主演を演じた船越英二の息子で、9人の女と不倫するドラマプロデューサーが、愛人と本妻に殺害を共謀されるという物語の骨子は原作と共通。だが制作発表でバカリズムが「原作の映画ファンが引くほど違う内容になっています」と語った通り、内容はまるで違うものとなっている。

 なかでも原作と一線を画し、SNSなどでバズも大きくなる幕は、愛人たちが衝突する際のバカリズムふう“立ち回り”だ。女優陣にまるでヤンキーのケンカのような「やってやんよ!」「はぁ〜〜!?」といった威嚇セリフを言わせるのはもちろん、第4話では脚本家の夏希を演じるMEGUMIに、劇団・絞り汁の看板女優・佳代(水野美紀)への聞くに耐えない罵倒のセリフとして「このオナニー劇団・我慢汁が〜!!」と言わせるなど、「美しい女優たちと汚い言葉のギャップの魅力」といった収まりの良い言葉ではとても表現できないぶっ飛んだセリフやシーンが乱立。そしてそのセリフの内容も、だれもが心のなかで毒づいたことがあるような、実に物事の的を得ている“あるある”の連発なのだ。

 また愛人たちが風松吉(船越)や、ほかの愛人、また自分たちにツッコむ心の声のリアルさも人気。バカリズム自身も声で出演をしており、登場人物がそれぞれNHK Eテレの子ども番組のような演出で自身の状況を説明するシーンでは「クズだね」「クズ!」と連呼し、理由はどうあれ、社会的に愚かな行為とされる不倫中の彼女たちを完膚なきまでにこき下ろしている。「そんな“本音”が横行する同作はとくに今のネット社会と相性が良い」と語るのはテレビ誌の編集者。

「登場人物たちの“ツッコミ”や“本音”の文法は、SNSのネットの炎上の仕方や、掲示板でのちょっと悪ふざけしたレス群に酷似しています。ネットで見慣れていることもあり、そうした“笑いの文法”はすでに広く世に浸透している。笑いの価値が共有された場所で、お笑いのプロが得意分野を活かして書いているわけですから、ネットで評判がいいのも当然かもしれません。また、ネットでは当たり前のように言われていることを地上波が自粛していることにフラストレーションを溜める視聴者も大勢います。第7話では、視聴率が低迷するドラマの現場の裏事情がギャグ満載で解説されましたが、これも本当はテレビ局としてはあまり大きな声で言いたくないこと。タブーに挑戦することが暗黙の了解となりやすい“お笑い芸人”の書くものだからこそ許してもらえる部分も多分にありそうです」(同編集者)

脚本家ではなく、あくまで“芸人”であることが強みに

 映画監督であり俳優としても評価が高い北野武をはじめ、芥川賞を受賞したピースの又吉直樹、今や俳優としての印象の方が強い竹中直人やでんでんなど、芸人の多芸ぶりは広く知られているが、バカリズムが『素敵な選TAXI』(フジテレビ系/2014年)の脚本を手がけることが発表されたときは、「あやぶむ声の方が多かった」と前出の編集者は言う。「脚本会議でも、笑いに執拗にこだわるバカリズムさんと制作スタッフとで空気がピリピリしていた」ようで、ネットでは“話題先行”という心無い声もあちこちで散見された。

 だがフタを開けてみると好評価。2016年にはスペシャルドラマにもなり、このときのインタビューでバカリズムは「実は制作側からウケが良く、続編の話をよく質問された」と述懐。続けて「書いていた僕が楽しかったので、観る人も楽しめる内容になっているはず」と語っており、いかに彼がお笑い芸人として“笑い”を追求しながら、楽しんでテレビドラマ脚本に挑んだかが想像できる。

「バカリズムさんの最大の強みは、“お笑い芸人”の枠からブレていないこと。“脚本が本職ではない”という空気を決して消さないので、逆に“芸人だから”と許される部分もあり、慣例や自主規制的な縛りにとらわれず、わりと好きなことができます。また、先ほども言いましたが、お笑い芸人はタブーに挑戦することが暗黙の了解になり、そこに踏み込みやすくなっていることも強み。過去には、テレビ界以外のクリエイターらがそういったカウンター役を担っていましたが、様々なしがらみのなかで、最近はお行儀の良い作品ばかりが増えてしまった印象です。芸人であるバカリズムさんはテレビドラマの“伝統”に縛られず、さらにはある意味、言いたい放題もウリになり、そこで評価を得ました。そんな“部外者”や“門外漢”の人気ぶりは、今のテレビドラマ界に刺激を与えそうです。すでに一石を投じているかもしれません」(同編集者)

 “伝統”や“基礎”が大切なのは言うに及ばずだが、水も空気も流れなければ濁るのも事実。今はバカリズム脚本は業界の“鬼子”かもしれないが、こうしたある意味ルール無用で挑む“跳ねっ返り”の登場と活躍は、ネタ切れやマンネリ化が叫ばれ、視聴率の苦戦ばかりが話題になる昨今のドラマ界の活性化にも繋がるのではないだろうか。もともとネタを書いている芸人は、社会を斜めから見た風刺や笑いを盛り込んだオチの作り込みに長けており、そこにはドラマ脚本とも通ずるものがある。今回のバカリズム脚本の完成度の高さとその成功は、芸人たちに刺激を与えた一方、専業脚本家に危機感を覚えさせた一面もあるかもしれない。この先、芸人たちの参入が増えていくことも予想されるが、異業種の血が交じることでのドラマ界の変異に期待したくなる。

 一方、ドラマ脚本家としての評価を確立したバカリズムには、次はその世界観でなにを見せてくれるのか、ハードルはぐんぐん高くなるだろう。しかし、それを裏切らずにヒットを飛ばし続けてくれそうな予感を抱かせる。
(文:衣輪晋一)

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