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ORICON NEWS
生放送が減少するテレビ界、予定調和を逸脱する“何かが起こる”ことへの期待
“伝説”や“名場面”が生まれていた過去の生放送番組
「衝撃的だったのは、1989年に放送された『ヒットスタジオR&N』(フジテレビ系)での“FM東京事件”でしょうね。忌野清志郎さん率いるタイマーズのメドレー演奏でしたが、2曲目に突然、リハーサルになかったFM東京さんを批判する曲を歌い始めたのです。これは清志郎さん作詞の歌が放送禁止にされたことや、RCサクセションの反原発ソングが発売禁止になったことなどへの抗議の意味合いがあったんですが、“腐ったラジオ”“政治家の手先”とさんざんコキ下ろしたあげく、放送禁止用語を絶叫するなど、まあそれはハプニング中のハプニングだったわけです。でも、ロックしているし、カッコよかった。同番組に出演していた永井真理子さんなど歌手たちも大ウケでした。演奏終了後、司会の古舘(伊知郎)さんがお詫びのあとにメンバーと普通にトークをしているところはいま観てもウケます。まあタイマーズは、大麻を礼賛するかのような歌を歌ったり、バンド名自体もそうですから、現在では存在自体が放送禁止になるかもしれません(笑)。でも、あのときの演奏を途中で止めたり、差し込みを入れたりせずに最後の曲までちゃんと放送しているところがいい。ある意味で大らかというか、番組制作者も肝が座っていた時代でしたね……」(バラエティ番組制作会社スタッフ)
そのほか、『ザ・ベストテン』(TBS系)に出演した吉川晃司の扉破壊や、『オールナイトフジ』(フジテレビ系)でのとんねるずの1600万円のテレビカメラ破壊など、今となっては笑い話でもある“器物破損”系もあれば、『ミュージックステーション』でt.A.t.u(タトゥー)が出演直前にドタキャンし、急きょミッシェル・ガン・エレファントが2曲演奏して危機を救ったという“株を上げた系”。さらには『27時間テレビ』(フジテレビ系)で笑福亭鶴瓶が泥酔して局部を露出、その後、高島彩アナ(当時)が神妙な面持ちで謝罪、という完全な“事故”もあった。
「今は歌番組やスポーツ番組も減りましたし、バラエティもBPO(放送倫理・番組向上機構)の規制に引っかかれば番組終了もありえるので、生放送は怖くてなかなかできません。でも、お堅い系のニュース番組などは、番組の性質上生放送じゃなければ意味がないので、逆に意外とハプニングが多いんですよ」(前出・スタッフ)
予定調和から逸脱する“なにか”が起こることへの期待
一方で、バラエティなどのエンタテインメント系の番組で、すべてが予定調和のもとに進むことにはどこか刺激が足りないというか、おもしろみに欠ける。仮に“ハプニングっぽい”ノリがあったとしても、企画めいたものを感じてしまうのは否めない。生でなければいくらでも編集できるから、そこに“危険なもの”は存在しないはずという意識があり、緊張感や臨場感が削がれていってしまうのだ。老若男女が安心して観られるのが今のテレビのよさでもあるのだが、その一方で元気がないと言われることも、そうしたハプニングすらも想定内にあることに起因しているのではないだろうか? とくにバラエティのおもしろさは“想定外”にある。視聴者の多くがそう感じていることだろう。
よくもわるくも、かつて“伝説”はテレビから生まれていたことが多かった。数々の流行を生み出した『8時だョ!全員集合』にしても、生放送だったからこそ、いきなりオープニングから約10分間停電するという、いまで言うところの“神回”があったわけだし、出演者たちも機転を利かせた“神対応”をしていたのである。
現在は、『ミュージックステーション』が生放送の最後の砦と言ってもいいかもしれない。先日放映された10時間特番でも、放送開始直後に“タモリさんの声がガラガラだけど大丈夫か?”なんて声がネットニュースに即流れる時代になったわけで、生放送番組とネットニュース、SNSなどが絡む“ライブ感覚”を提供するテレビ番組が増えてもいいかもしれない。
ネットを探せば刺激的なコンテンツはいくらでもあふれている時代だが、“お茶の間”であるテレビには、なにげなく観ているなかで、そこに映し出される“テレビで放送できる健全な世界”に予定調和から逸脱するなにかが起こることへの期待が、視聴者には常にあるのではないだろうか。そんな“ドキドキ感”があるのがテレビのおもしろさであり、それを満たしてくれる生放送番組が待ち望まれている。