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佐藤浩市インタビュー『日本映画界への熱い想い 若手もベテランも考えて行動しなければならない』

作家・横山秀夫氏の衝撃作が、主演に佐藤浩市を迎えて『64-ロクヨン- 前編/後編』として映画化された。佐藤が演じたのは、警察組織のなかで生きる葛藤を背負い込みながら娘の家出失踪という家族問題も抱える主人公・三上義信。大ベテランの佐藤でさえ気負いもあったという超豪華オールスターキャストの今作への想い、長い俳優人生を歩んできたなかで“いま日本の映画界に対して思うこと”を聞いた。

エネルギーを跳ね返せなければ自分も終り

――今作には、ベテランから若手までいまのエンタテインメントシーンで大活躍中の役者が集結しています。そのなかで主演を務めることに気負いのようなものはあったのでしょうか?
佐藤浩市気負った部分はあったと思います。役者の気負いや気合いが映像に現れなければ今作を2部作にして見せる意味が無いと思っていました。CGなどない人間同士の気迫がぶつかり合う作品ですから。僕が演じた三上は広報官なので、記者団とのシーンにおいてはエキストラを含む記者クラブの全員に向かって「僕の台詞が聴こえなくなるぐらい全力でぶつかってこい!」と伝えたんです。みんなを挑発することによって、自分自身を鼓舞させるということでもあったのですが……。お芝居とはいえ記者たちからのエネルギーを跳ね返せなければ三上という役を演じることはできないですし、僕自身も終りだなと思っていました。以前出演させていただいたドラマ『クライマーズ・ハイ』(NHK)で、横山秀夫さんの原作のあり方がわかっていたので、そのときと同じような覚悟が必要だと思いながら演じました。

――三上を演じるうえで気をつけたことはありますか?
佐藤浩市三上自身が抱えている闇みたいなものや、家族に対しての負い目が彼をアクティブにさせていると感じました。家族に対して「俺は刑事だからこんなに大変なんだ」と言い訳をして無関心でいるのを、娘に見透かされていることも薄々分かっていた。そして、以前自分が関わった事件の被害者である(娘を失った)雨宮と再会することで、より強くそういった部分を認識しなくてはいけなくなってしまった。そういうことを意識しながら演じるようにしていました。
――瀬々敬久監督から三上を「こう演じて欲しい」という演出はあったのでしょうか?
佐藤浩市監督からリクエストや指示が入ることはなかったと思います。“三上の考え方”は監督と意思統一できていました。ただ、細かい部分は、演じてみると自分が思い描いていたものと違うと感じることもありました。例えば、永瀬正敏さん演じる雨宮に対するある種のシンパシーというか、私人として触れてしまう部分が演じるにつれ大きくなっていきました。そういう雨宮への想いが強くないと最後のシーンが活きないと思ったので、途中で修正もしながら、そう向くようにしていきました。

僕自身に関しては、一般家庭とは環境が違い過ぎる

――三上は娘との間に埋められない溝を作ってしまいます。三上を演じたことでご自身の家族について考えたこともありましたか?
佐藤浩市僕自身に関しては、一般家庭とは環境が違い過ぎるので、なかなか自分の家族と照らし合わせることはないです。ただ、三上の気持ちが理解できる部分はありました。僕は、自分の家族が学校でどう見られるのか、周囲がどう接してくるのかということがわかってしまう。だからこそ子どもに厳しくしてしまうこともありました。それを失敗したなと思うこともあれば、その反面甘やかした部分もあったと思うこともあります。演じたことで自分の家庭について考えるというよりは、役の気持ちやその家族について共感できるところがあったということですね。

――原作では膨大な心理描写が綴られていますが、映画では台詞になる分量が限られてきます。“映画だからこその試み”はありましたか?
佐藤浩市二次元の世界だと心情や心理描写が活字のなかで描かれますが、映画では役者がそういった部分をどう表現しようかと考えるんです。例えば、三上は思わず日吉雅恵(烏丸せつこ)に向かって嘘をついてしまう。その嘘が自分のなかでどんどんヒダのように重なっていって、雨宮まで泣き落とすような態度をとるんです。その後に赤間(滝藤賢一)が心にもない謝罪会見をしているのを見た瞬間、「俺はこいつと同じだ……」と思うんですよね。そのシーンを見てよっぽど三上は赤間が憎いんだなと感じるひともいるでしょうし、三上の本当の心情に気づくひともいる。台詞であれこれ説明してしまえば簡単なんですが、そうではなくそれを感じてくれるひとがいればそれでいいと思っています。今作ではそういった試みがたくさんできたのが良かったです。
――先日、諏訪を演じた綾野剛さんが「“アマチュアの鎧を着たプロであれ”という浩市さんの言葉が胸に響いた」とおっしゃっていました。それはお父様や先輩方から受け継いできた大切な言葉なのでしょうか?
佐藤浩市受け継いだのではなく、そのときにパっと出てきた言葉だったと思います。伝統・伝承芸能である歌舞伎の世界なら「お前の踊り方はこうだけど、このやり方は先先代とは違う」といったことはあると思いますが、役者というのはそうではないですから。ただ、何十年もこの世界に身を置いていますので、若い役者たちから意見を求められれば応えるようにしています。綾野君も今後その時々の現場や作品、共演者の方々からいろいろな言葉と出逢っていくと思います。

今の映画界に対して、どうなんだろうと思う部分はある

――昔と今とでは公開される映画のジャンルがかなり変わってきていて、今作のような社会派小説のほか人気少女漫画など原作ものの実写映画化も増えました。長年俳優として活躍されてきた佐藤さんはいまの日本の映画界に対してどんなことを感じていますか?
佐藤浩市オリジナル作品は作らないという映画会社も実際にありますし、原作至上主義という世の中だとも感じています。それはどうなんだろう……と思う部分は確かにありますが、若い子向けの原作ものの実写映画は、確実に観客が入る見込みがある。僕が若い頃はそういった原作ありきの青春映画を作ってもお客さんはなかなか入らなかったんです。大人向けの映画のほうが劇場に観に来るひとが多かったですし、ドラマも若いひと向けのものはなかなか観られない時代でした。だから、その時代のニーズにあった映画が作られているということで、それは映画界として当たり前のことです。
――若い層向けの作品が多くなれば、若手の役者たちが出演する機会も多くなりますね。
佐藤浩市いまの時代のような若い役者が活躍できる場がたくさんあるのはとても良いことだと思います。一方、今作のようなシリアスな社会派の作品がマーケットとして成立するのであれば、それはひとつ裾野を広げることにもなる。映画界が活性化すればオリジナル作品ももっと作られていきますし、若い人向けの映画が多いというのは決して悪いことではないと思います。

――若い役者さんたちとそういった話をすることもありますか?
佐藤浩市ふだん僕からそういう話はほとんどしないですね。こうやって聞かれれば答えますけど。若手の役者たちは若い人向けの映画だけじゃなく、今作のような大人向けの映画にも出演しています。最近は大人たちが劇場になかなか足を運ばなくなっている現状もあるので、若い人たちにもっともっと映画を観てほしい。若手もベテランも一緒になって、どうしたら劇場にお客さんが来てくださるのかを真剣に考えて、行動しなければいけないと思うんです。そのためには僕も広報となって宣伝活動を全力でやります。その結果、劇場に足を運んでくださった方が今作を“おもしろかった”と感じてくださったら本当に嬉しいです。
(文:奥村百恵/撮り下ろし写真:鈴木一なり)

64-ロクヨン- 前編/後編

 昭和64年。わずか7日間で終わった昭和最後の年に起きた少女誘拐殺人事件は刑事部内で「ロクヨン」と呼ばれ、未解決のままという県警最大の汚点として14年が過ぎ、時効が近づいていた。
 平成14年。主人公の三上義信(佐藤浩市)は「ロクヨン」の捜査にもあたった敏腕刑事だが、警務部広報室に広報官として異動する。そして記者クラブとの確執、キャリア上司との闘い、刑事部と警務部の対立のさなか、ロクヨンをなぞるような新たな誘拐事件が発生。怒涛の、そして驚愕の展開が次々と三上を襲う……。

監督:瀬々敬久
出演:佐藤浩市 綾野剛 榮倉奈々 瑛太 三浦友和
前編5月7日(土)/後編6月11日(土)連続ロードショー
(C)2016 映画「64」製作委員会
【公式サイト】(外部サイト)

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