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“白すぎる”オスカー、現地の温度感は?改革案にも賛否両論
アカデミー初の黒人女性会長が異例の“遺憾コメント”
アカデミー初の黒人女性会長であるシェリル・ブーン・アイザックス氏は、ノミネーション発表直後に異例ともいえる“遺憾コメント”を発表。オスカーの投票権を持つ会員構成において、女性や白人以外の人種といったマイノリティの人数を2倍にする改革案を示した。ここ数年、会員の大多数を白人の年配男性が占めていることが批判の対象となってきたが、同改革により、現役を引退した功労者たちが投票権を失うことにもなり、賛否両論の声が上がっている。
こうしたなか、とくに俳優部門においてオスカーの行方を占うとされる米俳優組合(SAG)賞では、エルバが映画部門の助演男優賞(『ビースト・オブ・ノー・ネーション』)に加え、テレビ部門にて主演男優賞(「映画/ミニシリーズ『刑事ジョン・ルーサー』)を受賞。このほか、テレビ部門でヴィオラ・デイヴィス(『殺人を無罪にする方法』)、ウゾ・アドゥバ(『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック 塀の中の彼女たち』)、クイーン・ラティファ(『BESSIE/ブルースの女王』)ら、アフリカ系アメリカ人女優たちが受賞を重ね、映画やテレビ界における有色人種の女性の存在感をアピールした。
こうしたSAG賞の結果もあってか、人種問題においては、徐々に冷静かつ前向きな意見が注目されている印象だ。英国人俳優のマイケル・ケーンはエルバの演技を讃えつつ、「忍耐強く待てば、そのときは来る。私もオスカーを受賞するのには何年もかかった」とコメント。2年前に『それでも夜は明ける』で助演女優賞に輝いたルピタ・ニョンゴは「今足りないことよりも、どんな可能性があるかということに興味がある」と前向きに語っている。
世論の多くが冷静に捉えた、アメリカ社会の不平等のひとつ
もちろん、映画界に限ったことでもない。映画ファンのなかには、感情的に「白すぎるオスカー」に憤っている人々もいるが、世論の多くはアメリカ社会に深く根付く人種や性別、性的志向などの不平等が、たまたまひとつの形となって表れたと冷静に捉えている。ここ数年は、白人警官による黒人の若者への暴力や悲劇的な銃殺事件などが起きるたびに、各地で暴動が起き、ミュージシャンやセレブリティが差別撤廃を叫ぶパフォーマンスを行ってきた。しかし、それらに比べると今回のアカデミー賞の人種問題に対する反応は、もう少し冷静だ。
アカデミー賞のボイコットよりも、むしろ少数派とされる人種や女性フィルムメイカーによる作品を支持することが、ひいてはハリウッドで決定権を持つ人々の構成や意識を変えることにつながる、と。変化には時間がかかるものだが、今回のアカデミー賞をきっかけに“議論を続ける”ことこそが、アメリカ社会全体へ影響を及ぼすことになるという意見も目立つ。
言うまでもなく、今回ノミネートされた俳優やフィルムメイカーたちはいずれも素晴らしく、公平な称賛に値する。授賞式当日は、司会を務めるアフリカ系コメディアン/俳優のクリス・ロックのモノローグを始め、受賞者のスピーチやプレゼンターのコメントなど、随所で人種問題に関する想いが語られることだろう。第88回アカデミー賞授賞式は、米時間2月28日に、ロサンゼルスのドルビーシアターにて開催される。
(文:町田雪)
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