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アカデミー賞4冠…ショービズ界の歪みに斬り込む『バードマン』を称賛したハリウッドの懐の深さ

第87回アカデミー賞で作品賞に輝いたアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』。昨年末からの賞レースを通じて、リチャード・リンクレイター監督による『6才のボクが、大人になるまで。』との一騎打ちが予想されていたが、蓋を開けてみれば、作品賞に加え、監督賞、脚本賞、撮影賞という主要4部門を制する圧勝となった。

◆散りばめられたショービジネスへのアンチテーゼ

 米国では、この結果をサプライズとするソーシャルメディアの声やマスコミ記事もあるが、映画業界内では順当と見る向きが多い。というのも、『6才のボク〜』が強かった賞レース前半のアワードの多くは批評家たちが選ぶものだが、アカデミー賞の投票権を持つ会員たちは、映画製作に携わる(または携わってきた)人々の集団。『バードマン』は賞レース後半に、フィルムメイカーたちが選ぶ米プロデューサー組合賞、米俳優組合賞、米監督組合賞を連覇していたため、オスカーへの花道は敷かれていたといえるのだ。

 『バードマン』は、かつてスーパーヒーロー映画の主役としてスターダムを謳歌した落ち目のハリウッド俳優が、ブロードウェイに進出し、キャリアと人生の再起をかける物語。アメコミ原作やアクション大作、シリーズ続編に溢れる映画業界、旬な俳優をスーパーヒーローに仕立てては使い古していくハリウッド、肝心の演技よりも、ゴシップ性の高い失態の方が話題となるソーシャルメディア、役者とセレブリティという肩書の間でアイデンティティ・クライシスに陥る俳優の姿……など、今のショービジネスへのアンチテーゼが全編に散りばめられている。

 映画業界に身を置く者にとっては、笑えないほど身に染みるポイントも多いはずだ。主演のマイケル・キートン自身も、初代バットマンを演じた『バットマン』シリーズ(1989年、1992年)以降、ヒットに恵まれない時代を過ごしており、同作の役にとてつもないリアリティと哀愁を充満させている。

◆ハリウッドならではの“笑いながら”自戒するスタンス

 映画業界を揶揄したり、批判的なメッセージが込められていると、ハリウッド業界人の不快感を買いそうな気がするが、実はアカデミー会員は、内輪もの、つまり映画業界を題材とした作品を好むと言われている。2年前に作品賞を受賞したベン・アフレック監督作『アルゴ』もハリウッド関連。CIAエージェントが架空のハリウッド映画の企画によって、イランで人質となったアメリカ人外交官たちを救出する作戦を描いたものだ。同作では最終的にハリウッドが“ヒーロー”になるが、無駄に派手な製作発表会や下品で横暴なプロデューサーなど、業界を揶揄する表現も散りばめられていた。自分たちの問題点や歪みをジョークにし、笑いながら自戒するというスタンスは、ハリウッドならではといえるかもしれない。

 ちなみに、『バードマン』は興行成績の面では小規模に留まっている。限定公開で41万5000ドルのデビュー後、オスカー受賞などを経て4080万ドルまで上昇しているものの、大衆に支持されているとはいいにくい。先日の授賞式でも、司会のニール・パトリック・ハリスが『バードマン』のキートンを模して、パンツ一枚で登壇する一幕があったものの、何のパロディかわからずに混乱した視聴者が多くいたようだ。

 もっとも、今年のオスカー作品賞にノミネートされた8作品の総興行収入が約6億ドル。うち半分以上を『アメリカン・スナイパー』が占めているという状態なので、興行成績がオスカー受賞を占うものでないことは明らかなのだが。むしろ、小規模な良作がスポットライトを浴びて羽ばたくチャンスを与えることこそ、オスカーの意義といえるだろう。
(文:町田雪)

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