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アカデミー賞4冠…ショービズ界の歪みに斬り込む『バードマン』を称賛したハリウッドの懐の深さ
◆散りばめられたショービジネスへのアンチテーゼ
『バードマン』は、かつてスーパーヒーロー映画の主役としてスターダムを謳歌した落ち目のハリウッド俳優が、ブロードウェイに進出し、キャリアと人生の再起をかける物語。アメコミ原作やアクション大作、シリーズ続編に溢れる映画業界、旬な俳優をスーパーヒーローに仕立てては使い古していくハリウッド、肝心の演技よりも、ゴシップ性の高い失態の方が話題となるソーシャルメディア、役者とセレブリティという肩書の間でアイデンティティ・クライシスに陥る俳優の姿……など、今のショービジネスへのアンチテーゼが全編に散りばめられている。
映画業界に身を置く者にとっては、笑えないほど身に染みるポイントも多いはずだ。主演のマイケル・キートン自身も、初代バットマンを演じた『バットマン』シリーズ(1989年、1992年)以降、ヒットに恵まれない時代を過ごしており、同作の役にとてつもないリアリティと哀愁を充満させている。
◆ハリウッドならではの“笑いながら”自戒するスタンス
ちなみに、『バードマン』は興行成績の面では小規模に留まっている。限定公開で41万5000ドルのデビュー後、オスカー受賞などを経て4080万ドルまで上昇しているものの、大衆に支持されているとはいいにくい。先日の授賞式でも、司会のニール・パトリック・ハリスが『バードマン』のキートンを模して、パンツ一枚で登壇する一幕があったものの、何のパロディかわからずに混乱した視聴者が多くいたようだ。
もっとも、今年のオスカー作品賞にノミネートされた8作品の総興行収入が約6億ドル。うち半分以上を『アメリカン・スナイパー』が占めているという状態なので、興行成績がオスカー受賞を占うものでないことは明らかなのだが。むしろ、小規模な良作がスポットライトを浴びて羽ばたくチャンスを与えることこそ、オスカーの意義といえるだろう。
(文:町田雪)