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『あまちゃん』女優その後の三者三様
◆条件が限られるなか慎重になった作品選び?
だが、『あまちゃん』以後は出演作が少ない。『ホットロード』『海月姫』と映画2本に主演したほかは、オムニバスドラマ『世にも奇妙な物語』(フジテレビ系)の一篇に出ただけ。あとは『ENEOS』などCMくらいでしか姿を見られない。最近では個人事務所を設立したとのことで騒動が持ち上がり、思わぬところで話題になっている。
『あまちゃん』の後、出演オファーは多かったはずなのに次回作がなかなか決まらなかったのは、事務所が作品選びにかなり慎重になっているためと見られていた。『あまちゃん』が大ヒットしただけに、より大事に育てたいということだったのだろう。朝ドラは“新人女優の登竜門”と言われ、菅野美穂、松嶋菜々子、竹内結子、石原さとみらがヒロイン役から一流女優になっている。反面、朝ドラでのイメージから脱却できず、以後はパッとしないケースも多い。そんなこともあってか、能年は『ホットロード』で(『あまちゃん』以前から決まっていたそうだが)心に傷を抱える不良少女、『海月姫』では内向的なクラゲオタクと、天野アキとは印象が大きく異なる役を演じた。
◆“演技がしたい”能年玲奈への期待と不安
それにしても、『あまちゃん』が終わって、もう2年。テレビに出すぎて飽きられることもあるが、出なくて忘れられることもある。能年の事務所は今年1月クールで、あるドラマのヒロイン役を断ったとの報道もあったが、『あまちゃん』で付いたファンはそろそろしびれが切れる頃。いくら何でも間が空きすぎる……と思われていたところに、今回の騒動。単に作品選びに慎重になっていただけではない事情があったのかと、合点はいく。
本人はブログで「演技がしたい! 演技がしたい! 演技がしたーい!」と書いていた。『海月姫』の取材でも、言葉数は少ないなかで“もっと仕事をしたい”との気持ちはにじみ出ていた。過去にも人気タレントが事務所とのトラブルで“干され”状態になったことはあるだけに心配だ。経緯はどうあれ、あれだけの逸材が埋もれてしまったら大きな損失で、ファンはやり切れない。とにかく彼女の新作を早くテレビで観たい。
◆有村架純、積極的な露出で好循環が生まれた
連ドラも、『あまちゃん』以前は『SPEC』(TBS系)での本筋に絡まない婦警役などが知られる程度だったのが、『あまちゃん』終了前の『スターマン・この星の恋』(フジテレビ系)に始まり、『失恋ショコラティエ』(フジテレビ系)や『弱くても勝てます!』(日本テレビ系)などに相次ぎ出演。映画では『ストロボ・エッジ』『ビリギャル』と話題作での主演が続く。能年のメディア露出の少なさとは対象的だ。
春子の少女時代は80年代の設定で、劇中の有村は聖子ちゃんカット。小泉今日子のデビュー時に似ていると話題になったが、1993年生まれの有村本人のイメージとは重ねられなかった。顔は売れつつ特定の色は付いていない状態だったのが、多くのCMに起用された一因。また、能年と違い脇役だったために、『あまちゃん』後も番手にはこだわらず、オファーがあれば基本どんどん受けた。多くの作品に出て人気と知名度が上がり、主演クラスでもキャスティングされ始める好循環が生まれた。
有村はもともと可愛いヴィジュアルながら、芸能界のなかで突出するまでには行かず、大勢いるアイドル女優のひとりに止まる可能性もあった。『あまちゃん』ブームで来た波を逃さず、出演作を絶やさない戦略が成功して今に至る。ただ、多くの作品に出ただけに、新鮮さという意味での旬は過ぎかけている。年齢を重ねながら飽きられない存在になれるか、ここからが真の正念場だろう。
◆橋本愛、我が道を貫く活動スタンス
橋本も『あまちゃん』後は、4部作の映画『リトル・フォレスト』に主演、公開中の『寄生獣』でヒロインなど活躍を続けている。ただ彼女の場合、『あまちゃん』の前から映画出演は多かった。広く若手女優のなかでも1〜2を争うレベルで。『告白』でのクラス委員長役から注目され、大ヒットした『桐島、部活やめるってよ』や『さよならドビュッシー』などではヒロイン。ヨコハマ映画祭の最優秀新人賞なども受賞している。その演技力や美少女ぶりだけでなく、どこか独特な個性をにじませる女優オーラはすでに高く評価されていた。
『あまちゃん』で一般層への知名度は格段に上がったが、活動のスタンスは以前と変わらない。NHKBSプレミアムの『ハードナッツ!』で連ドラ初主演、演技派を集めたフジテレビ開局55周年ドラマ『若者たち2014』に出演したが、基本テレビとは距離を置き、映画をベースにしたまま。事務所スタッフによれば、「ドラマを避けるわけではないが、本人の気質的にどっぷり取り組める映画向き」とのこと。クールで強めな佇まいからも、役ながらアイドルとして歌った『あまちゃん』の方が彼女にとってはイレギュラーな流れで、過度にブームに乗らず我が道を貫いた。
女優として三者三様の資質が、『あまちゃん』後により明確になってきた3人。能年はおおらかなスケール、有村は親しみの持てる可愛らしさ、橋本はエッジの効いた存在感を光らせながら、さらなる成長を見せてくれるはず。順当に行けば、それぞれにポジションを築いて、将来の日本のドラマ・映画界を引っ張る存在になるだろう。
(文:斉藤貴志)