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北野武監督、「わかりやすいけど痛すぎる暴力映画」を撮ったワケ

 2年ぶりの新作『アウトレイジ』(6月12日公開)の監督・脚本・編集を務め、ビートたけしとして出演もしている北野武監督がこのほどインタビューに応じ、2003年の『座頭市』以来7年ぶりにR−15指定の「わかりやすいけど痛すぎる暴力映画」を撮ったワケを語った。

最新作『アウトレイジ』がカンヌ国際映画祭に出品されることも決まった北野武監督 (C)ORICON DD inc.  

最新作『アウトレイジ』がカンヌ国際映画祭に出品されることも決まった北野武監督 (C)ORICON DD inc.  

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 同作は、ヤクザ社会を舞台に、金と権力をめぐる“悪(ワル)い”男たちの群像劇を展開しながら、衝撃的なバイオレンスが炸裂するアクション映画。5月にフランスで開催されたカンヌ国際映画祭では、『菊次郎の夏』(1999年)に続く2度目のコンペ部門に選出され、賛否両論を巻き起こして話題をさらった。北野監督は「賛否両論というのは、狙い通りっていうか。ショックを与える映画だとは思っていたんだ」と、してやったりと言わんばかりに不敵に笑った。

◆人間は追い込まれると笑うしかなくなる

 北野監督は最近の3作品、『TAKESHIS’』(2005年)、『監督・ばんざい!』(2007年)、『アキレスと亀』(2008年)を「ゴダール病というかフェリーニ病というか、普通に撮ればいいものを精神的なアートとか、わけのわからないこと考えて撮ったら、完全に失敗した」と反省を口にする。

 「しばらく撮っていなかった暴力映画にしようと思ったけど、『ソナチネ』(1993年)と比較されて、全然進歩していないと言われるのも嫌だから、今回はバイオレンス・エンターテイメントだ!ってね。その結果、わかりやすいけどものすごく痛い作品になっちゃった(笑)」。

 確かに、同作の暴力描写は半端ない。凡人が想像したこともないような“暴力”を北野監督は創造し、それをパズルのように組み合わせ、置き換えてストーリーを組み立てたという。

 「こんな暴力、こんな死に方、知らなかっただろうって見せつけてやろうと思い、一生懸命考えて、紙に書き出したりしてさ。撮ってから気づいたんだけど、あまりにも暴力シーンが痛くて、かえって笑っちゃうんだよ。それも世界共通。カンヌで上映した時も、フランス人がゲラゲラ笑っていた。人間は追い込まれると笑うしかなくなるんだよ」

◆会話劇に自信。不得意な恋愛映画も「いずれやれるんじゃない」

 エンターテイメント性を高めているのが、登場人物と彼らのセリフの多さだ。セリフというより、欲望に満ちた男たちの怒号によって全編が貫かれている。そして、ヤクザという組織内での抗争を描いているものの、普通の会社組織などに置き換えて見ることができる。誰でも楽しめるエンターテイメント作品にするために敢えてそうしたのだろうか。

 「台本を書いている時には、あんまり意識していない。結果的にそうなった。単なる暴力映画、ヤクザの抗争劇を撮ったつもりなんだけど、自分が意図していないものが出てきてしまう。何気なくやったところに笑いが忍び込んだり、いろんな社会の構図がストーリーに当てはまったり、ね。ヤクザでも、普通の会社でも、いろんな奴がいて、同じように立ち振る舞う人間がいる。基本的に地球の生き物はだいたい同じだから、想像の範囲内っていうか、突飛なことはないってことだよね」

 北野監督は「ヤクザ同士のいざこざも、小学校の校長と先生の葛藤も意外と似てるかもよ」とサラリと言ってのける。あぁ、やっぱりこの人は、ある種の天才なのだと改めて思い知らされる。凡人には見えないものが見え、聞こえないものが聞こえているのではないか、と。そうやって自ら導き出したものを信じて、反省はしても後悔はしない。今までの映画とはまた違う手法を取ったことで、新しい発見はあったのだろうか。

 「これまでエンターテイメントとは言えない映画を撮ってきたってことは、真逆にあるエンターテイメントな映画がどういうものか、意識すればわかるじゃん。俺だってもう(監督作品は)15本目だからね。少しは何かできないとまずいじゃない?(笑) 今回は暴力映画だったけど、この作品を撮り終わってみたら、我ながらこの先が楽しみになってきたんだよね。今作で会話劇ができたんで、ヤクザを普通の男女に変えて、俺が一番不得意としている恋愛映画もいずれやれるんじゃないかってね」。

 北野監督作品の恋愛モノといえば、『あの夏、いちばん静かな海。』(1991年)や『Dolls[ドールズ]』(2002年)が挙げられるが、王道からはハズレていた。恋愛映画は苦手だったのか…と聞くと「自分の恋愛体験、性生活を暴露するみたいでいやじゃない」と猛烈に照れていたのが印象的だった。

◆北野映画初主演の俳優たちが新しい風を吹き込む

 同作が今までと違う点はもう一つある。キャストに北野映画初登場の個性派俳優を敢えて起用したことだ。

 「嫌なのは俺がお願いして断られること(笑)。キャスティング担当に『俺のヤクザ映画に出たい、と手を挙げてくれる人』を集めてもらった。宣材写真を見ながら役を当てはめていった。そうしたらうまいことバランスよくハマったね」

 たけしが組長を演じる大友組の若頭に椎名桔平、英語にも堪能なインテリヤクザに加瀬亮、関東一円を取り仕切る巨大暴力団組織「山王会」本家の会長を北村総一朗、ナンバー2の若頭に三浦友和などを抜擢した。ほかに、國村隼、杉本哲太、塚本高史、中野英雄、石橋蓮司、小日向文世ら全員が“ワル”を演じきった。中でも加瀬との出会いは、北野監督の興味を大いに引いたよう。

 「加瀬さんはどうしてもヤクザに見えなくて、メイクさんと相談して、髪型をオールバックにして眉毛を細くして、四角いフレームのメガネをかけさせて…と、いろいろなことをやったんだけど、ほかの連中が『コノヤロー、バカヤロー』と怒鳴り合っている中で、加瀬さんが『バカヤロー』と言っても全然迫力がなかったんだよね(笑)。じゃ、この人は無口にしようってことにして、普段はしゃべらないけど、キレたら徹底的に相手を蹴り続けるような恐い人物像に設定して、台本を書き直したんだ。印象に残る役になって、うまいこといったな」と、嬉しそうに話していた。

北野 武

 初監督作は、主演も務めた『その男、凶暴につき』(1989年)。以後、『3-4×10月』(1990年)、『あの夏、いちばん静かな海。』(1991年)、『ソナチネ』(1993年)、『みんな〜やってるか!』(1995年)、『キッズ・リターン』(1996年)と続けて作品を世に送り出し、『HANA-BI』(1998年)では第54回ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞したほか、国内外で多くの映画賞を受賞、評価を不動のものにした。その後、『菊次郎の夏』(1999年)、日英合作の『BROTHER』(2001年)、『Dolls[ドールズ]』(2002年)に続き、『座頭市』(2003年)では自身初の時代劇に挑戦し、第60回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞。その後、芸術家としての自己を投影した三部作、『TAKESHIS’』(2005年)、『監督・ばんざい!』(2007年)、『アキレスと亀』(2008年)を監督。本作『アウトレイジ』は15作目となる。

『アウトレイジ』
【STORY】
 物語は、関東一円を仕切る巨大暴力団組織山王会の若頭・加藤(三浦友和)が、直参である池元組組長・池元(國村隼)に苦言を呈することから始まる。

 加藤は池元に、古参の弱小ヤクザ村瀬組の組長(石橋蓮司)との蜜月を怪しみ、ただちに村瀬組を締めるように命令したのだ。

 厄介なことになったと焦る池元は、配下にある大友組組長・大友(ビートたけし)に、その役目を任せる。池元の後始末や面倒なことは、いつでも大友の仕事だった。 しかし、このいつもと同じと思われた仕事が、男たちの悪の策略により、次々と事件を生み、ついには縦社会を重んじるヤクザ社会での熾烈な大下克上劇までも引き起こすことになっていき……。

監督・脚本・出演:北野武
出演:ビートたけし 椎名桔平 加瀬亮 三浦友和
國村隼 杉本哲太 塚本高史 中野英雄 石橋蓮司 小日向文世 北村総一朗

6月12日(土)より全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画/オフィス北野

 

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  • 北野武 (C)ORICON DD inc.  
  • 映画『アウトレイジ』6月12日(土)より東京・丸の内ルーブル他全国ロードショー (C)2010『アウトレイジ』製作委員会 
  • 北野武監督 (C)ORICON DD inc.  
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  • ビートたけしとして出演も 映画『アウトレイジ』6月12日(土)より東京・丸の内ルーブル他全国ロードショー (C)2010『アウトレイジ』製作委員会 
  • 椎名桔平も北野映画に初参加した 映画『アウトレイジ』6月12日(土)より東京・丸の内ルーブル他全国ロードショー (C)2010『アウトレイジ』製作委員会 

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