俳優・小栗旬が、日本を代表する文豪・芥川龍之介の生んだキャラクター『多襄丸』に新たな息吹を吹き込んだ映画『TAJOMARU(タジョウマル)』(2009年公開)。19日にDVD&BD化されるにあたり、メガホンをとった中野裕之監督に“今だから話せる”映画製作のドラマティックな裏話と、知られざる小栗旬の素顔を聞いた。
中野監督と言えば、CMや音楽ビデオの製作に長け、『SFサムライ・フィクション』(1998年)、『RED SHADOW 赤影』(2001年)などの映画作品でも知られる映像作家。自らプロデューサー兼デイレクターを務めることが多い中、『TAJOMARU』では撮影監督に徹したという。
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【中野監督】プロデューサーの山本又一朗氏から急に頼まれたんです。クランクインの2週間前でした(笑)。脚本が届いたのは撮影に入る3日前、ロケ地へ向かう新幹線の中で初めて読みました。しかも、普通なら撮影に2ヶ月はかかる内容なのに、1ヶ月半しかスケジュールがなかった。
――そんな悪条件でよく引き受けましたね(笑)
【中野監督】山本プロデューサーと1度、仕事してみたかったんですよ。彼がプロデュースする映画は必ずいい作品になると信頼していたし、“どメジャー”のドラマを撮ってみたかった。“メジャー”に必要な要素は“定番”。こうしたら、ああなるというドラマの定番がたくさん入っていると、多くの人が感情移入して作品を観ることができる。山本プロデューサーはいわば“ドラマの鬼”なので、彼の下でちゃんとドラマを理解したい、スキルを盗みたいと思っていた。“山本映画学校”に入学した気分でした。
――“山本映画学校”は厳しかったですか?
【中野監督】「不可能なことをやるのがプロ」と山本プロデューサーから言われていたし、ちゃんと撮りきりました。スケジュールの要請もあったけど、敢えて全カット2台のカメラを使って、そのシーンの頭から最後まで通して撮影するマスターショットを選択しました。
――マスターショット?
【中野監督】日本ではこのやり方はまだまだ少ないけど、ハリウッドでは監督の演出で作り込まず、まずは脚本に忠実に役者の芝居を可能な限り撮影しておく。そのマスターショットの中から一番いい素材を選んで編集していくのが山本プロデューサーのやり方。多く撮っておいて、切って作るというのが常道なんですよね。脚本が映画の最終型ではないってことですね。
――そういえば、小栗さんが松方弘樹さんとの剣術アクションシーンの撮影中にカツラが飛ぶハプニングがあったのに、そのまま芝居を続行させて撮り続けたと言っていましたが…。
【中野監督】小栗さんの画は使えないけど、松方さんの画は使えるから「OK」を出す。万事がそんな感じ。後で編集することを考えれば、ショットが膨大にあればあるほどいいし。テイク1では役者に自由にやってもらって、テイク2ではテイク1より抑えた芝居にして、余裕があればテイク3で監督が撮りたいやり方も試してみる。俺は撮影が好きだから、どんどん撮っていきましたよ。(シーンを通しで演技出来るため)役者にとっては舞台劇をしているような感じだったかもしれない。
【参照】映画『TAJOMARU』主演・小栗旬インタビュー
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【中野監督】全体的な仕上がりの印象はかなり変わっていましたね。そもそも柴本幸さんが演じた阿古のキャラが、最初の脚本から180度変わっていたし(笑)。
――撮影中や後にキャラクター設定が変わってしまうんですか?
【中野監督】芝居って生き物だと思うから、実際にやってみたらこうだったとか、こういうキャラクターの方が魅力的だよねっていう発見があるし、現場でキャラクターを変えたくなるのは当たり前だと思うんですよ。台詞の言葉尻とかも後から変えたくなることがいっぱいある。山本プロデューサーはその点を重視して、後から変えたくなるのを見越して撮影しておくんです。アフレコで台詞を差し替えたりするんですけど、最後の最後の段階でも台詞を変えちゃう。そのスキル、完成度の高さがすごいんですよ。僕も感動しました。映画にはいろいろな形があると思いますが、伝説のプロデューサーと仕事できたのは楽しかったですね。
――映像作家・中野裕之を封印することに抵抗はなかったんですか?
【堤監督】 それはなかったですね、それは全然ないです。『20世紀少年』で完全燃焼したなって思ったら、次はこれか、面白そうだなって思える。そういう性格なんですよね。
――年齢を重ねても身軽でいられる秘訣は?
【中野監督】CMで修行を積んでいるから。CMの場合、例えば赤バックで撮影した人物のカットがあったとして、試写を見た社長の奥さんが「私、赤嫌い、下品だわ」といった鶴の一声で、「緑にしろ」と言われたら、絶対に緑に変えないといけない。お金が絡んでいる仕事は、仕事としてきちんと完了させるのがプロ。「いまさら、緑に変えられるか」とブチ切れるのはプロじゃない。『TAJOMARU』は山本プロデューサーの下で、監督もスタッフの1人というのがもともとはっきりしていた仕事だし、俺はそれに賛同して参加したわけだから。それに、山本プロデューサーは、監督としてやりたいと主張したことは絶対邪魔しない、とてもフェアな人だから、すごく仕事がしやすかったですね。
◆小栗旬は「映画スター」と呼ぶにふさわしい男
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【中野監督】小栗くんは「映画スター」と呼ぶにふさわしい男でしたね。旧多襄丸の役で松方弘樹さんが出演してくださったけど、松方さんのような昔タイプの映画スターなんですよ。大酒飲みで、気前がよくて、豪快。小栗くんもいい意味で豪快でした。広島県の平家谷でロケしていた時、現場はウルトラ寒くて、体力も消耗されて大変だったはずなのに、夜10時ごろ撮影が終わると、車で20分くらいの場所にあるホテルに戻って、シャワーを浴びて、すぐさま車で30分くらいかけて町に出て、飲み始める。共演のやべきょうすけらと、毎日宴会(笑)。朝4時ぐらいまで飲んで、ホテルに戻るのが4時半ぐらい。で、6時から撮影の準備をして、8時には本番を撮っている。ね、豪快でしょう? でも、真剣に芝居するから、自信があるんだろうね。松方さんも「お前を見ていると懐かしい」って言ってましたから。
――小栗さんて、そんなにパワフルな方だったんですね〜。
【中野監督】すごいですよ、小栗くんは。ある時、「今日も町に出るの?」と聞いたら、「今日は“オールナイトニッポン”なんで」と東京に車を飛ばして、終わったらまた車を飛ばして現場に戻ってきていた。深夜に生き生きしている分、朝がちょっと苦手みたいだけどね(笑)。
――『TAJOMARU』の元ネタは芥川龍之介の『藪の中』。黒澤明監督の名作『羅生門』(1950年)も同じ『藪の中』を原作にしていた点は気にならなかったですか?
【中野監督】改めて原作を読んで、芥川龍之介は天才だと思ったし、それを映像化した『羅生門』を観て、黒澤監督は「ここが天才だな」と思うところがたくさんあったし、カメラマンの宮川一夫さんもすごい画を撮っているよね。だけど、今回の『TAJOMARU』では、芥川の原作の要素としては、大盗賊「多襄丸」というキャラクターと、森で事件が起こる2点しか残っていない。物語としては、(封建社会の中では頂点には立てない運命の)良家の次男坊が多襄丸を殺して2代目を引き継ぐというドラマが、すごく面白いと思っています。
| 中野裕之 1958年広島県生まれ。大学卒業後、読売テレビに入社し、放送業務、広告制作、深夜番組(『どんぶり5656』)の制作などを経験。独立して、1987年タイレル・コーポレーションを設立。今井美樹、布袋寅泰、GLAY、Mr.Children、DREAMS COME TRUEなど多数のアーティストの音楽ビデオを作り続けるかたわら、ビデオアートの作家として海外でも活躍する。映画作品には、『SFサムライ・フィクション』(1998年)、『Stereo Future』(2001年)、『RED SHADOW 赤影』(2001年)、『Short Films』(2003年)など。2006年発表のショートフィルム作品『アイロン』は、第59回カンヌ国際映画祭批評家週間部門において、ヤング批評家賞を受賞した。 |
2010/02/18