岩井俊二と小林武史がプロデュースを手がける『ハルフウェイ』(2009年2月公開)で、脚本家として活躍する北川悦吏子が映画監督に初挑戦する。岩井は、以前より親交のあった北川への脚本・監督の依頼について「ヨコのつながりを使った究極の自主映画」と語り、北川は「映画の常識ではありえないことでも私のなかではOK。それを岩井さんも認めてくれた」と思い通りに撮った初監督作品への自信をにじませた。
「もともと岩井さんの映画が好きでやろうと思ったこと」と今回の挑戦を語る北川。ふたりは雑誌の対談で初対面を果してから親交を深め、もともとはショートフィルムの企画だった本作で、岩井の薦めにより、脚本だけでなくメガホンも取ることになった。脚本家とは異なる部分で、精神的にも肉体的にも負担の大きい大役を引き受けた北川だが、その決意の一番大きな要因は「岩井さんが責任を持って、サポートしてくださるというので(笑)」という。
■ノート一冊分、岩井俊二という人を勉強して……
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プロデューサーとして制作全般に携わっていた岩井は、「監督をやると決めてからは、いろいろ本当にたくさん質問を受けましたね」と北川とのやりとりを思い起こす。北川にとっては、岩井美学ともいわれる岩井作品を自らも愛するがゆえにそれを意識し、プレッシャーとなった部分もあるのかもしれない。
北川「岩井さんの作品をとにかく勉強して、それから自分で撮ろうと。こんな機会もないので、気が付いたことを全部岩井さん自身に聞いて、答えてもらっていました。それがどう自分のものになっているかはわからないんですけど、まずはそこから始めました」
制作現場では、北川の希望により少人数のチーム編成でフットワークをよく撮影が行われた。
北川「(スタッフの)人数が多くなると私が緊張してしまうので(笑)。緊張感のないところでドキュメンタリーのような自然なものを引き出したいと考えていました。自主映画みたいな楽しい感じで。それで空気が軽くなるというか穏やかになり、主演のふたり(北乃きい、岡田将生)の自然なお芝居につながったと思います」
長まわしの撮影が多かった現場では、アドリブのセリフも多く、それがリアリティのある映像になっている。
北川「カットをかけないと、テンションが上がったまま勝手に芝居を続けていくんですよ。そうするとシナリオの部分よりも生身だったり勢いがあったりするんです。ふたりが勝手にやりはじめて、私が現場で涙したシーンもありました」
■アドリブの芝居で自然に出てきたセリフがタイトルに
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北川「初めからあったタイトルではないんです。あのシーンはアドリブだからこそ撮れたもので、どんな俳優さんでも芝居じゃできないと思います。あのセリフで岡田君は爆笑、北乃さんはカメラ目線もあったりして……。そういう意味では映画の常識ではありえないことをやっているのかもしれないんですけど、私のなかではOK。それは岩井さんも同じで、そういうところが私はいいなと。自由ですよね(笑)」
映画『ハルフウェイ』は、ストーリーやセリフは用意してありながらも、その場で出てきたアドリブの言葉を所々に使って作り上げられた作品。そこに映る人の気持ちが、まるで目の前にいるように瑞々しく伝わってくるドキュメンタリーのような新鮮さをもつ仕上がりになっている。この日のインタビューは北川にまかせっきりだった岩井は最後にひとこと……。
岩井「主演のふたりが元気いっぱいにハートフルに演じきった傑作で、最高のエンターテインメント。(自身の)ヨコのつながりを使いまくった究極の自主映画だと思っています(笑)」
テレビドラマの企画を経て、フジテレビ系『素顔のままで』(1992年)で脚本家として連続ドラマデビュー。その後、フジテレビ系『あすなろ白書』(1993年)フジテレビ系『ロングバケーション』(1996年)TBS系『ビューティフルライフ』(2000年)など数多くの話題作を手がける。これまでに向田邦子賞、橋田須賀子賞などを受賞。エッセイや作詞でも人気を集める。 |
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2008/12/31