『【推しの子】』や『SLAM DUNK』など、昨年も多くの漫画発のエンタメが世を賑わした。現在は紙だけでなく、電子コミック、アプリ、SNSと漫画の形態も多岐にわたる。その分テーマや世界観もより幅を広げたほか、海外発のWEBTOONも人気を得て、日本の漫画界はより多様化の様相を見せている。それに伴い、いわゆる“漫画賞”も近年とみに増加。権威的な賞のほかにも、出版社や編集部によるのもの、ユーザー投票によるものも。最近では電子コミックの賞も加わり、もはや“乱立”とも言えるだろう。ユーザーからは「多すぎてよくわからない」との声もあるが、実はこうした漫画賞の乱立は、ユーザーにとって決して悪いことではない。各漫画賞の運営担当に話を聞いた。
■漫画賞の黎明期は“権威”と“大手”がメイン、一方で課題も
一口に“漫画賞”といっても、目的はさまざま。優秀作やヒット作を表彰する功労賞的な賞から、ネクストブレイクを探すもの、新人発掘やスカウトを目的とした登竜門的なものがあり、選出される作品も変わってくる。
とくに功労賞的な賞には、『日本漫画家協会賞』、『手塚治虫文化賞』などの漫画家や評論家が選出する賞、また『小学館漫画賞』や『講談社漫画賞』のような大手出版社が選出する賞がある。1950〜1990年代はこうした“権威”による漫画賞が主であり、そこで選ばれた作品が“良い作品”とされてきた。だが年代が下るにつれ、一般認識との差異、受賞作の偏りに疑問を持たれることも。何よりも、漫画賞の数自体が少なかったことから、若い才能の発掘や気鋭の作家性が正当に評価される機会は今よりも乏しく、文字通りの“狭き門”だった。
そこで、2000年代に入って登場したのが、書店員や一般ユーザーの投票を反映したネクストブレイク賞だ。さらに2010年代になると、電子コミックプラットフォームやアプリでも賞が創設され、より細分化。権威や大手出版社に選ばれなくとも、作家が日の目を見る機会は格段に増え、よりエンドユーザーの意識と近しい結果が出やすくなったと言える。
■乱立は悪いことではない? 大手出版社とは異なる評価基準を定めた“ネクストブレイク”漫画賞
このような背景から、近年とみに漫画賞は増えていき、今や乱立と言えるような状況だ。ユーザーにしてみれば、「どれがどの賞かわからない」「乱立しすぎて特色が見えない」というところだろう。だが、様々なジャンルの賞が増えることは、漫画界全体を盛り上げることに一役買っているとも言える。
前述のとおり、以前は集英社、小学館、講談社などの大手出版社が圧倒的に強く、漫画賞界隈もその例にもれなかった。出版社が主催する賞ではどうしても系列社の作品が受賞することが多くなり、それ以外で活動する作家が注目を浴びるには時間がかかった。こうしたしがらみを脱する大きな契機になったのが、ムック本『このマンガがすごい!』(宝島社/2005年〜)だろう。公正な視点から世に知られていない良作が選ばれていると、世間でも大きな注目を集めた。このあたりから、出版社の枠組みや権威よりも、有名無名問わない選者が「おすすめしたい」として選んだものをユーザーが信じる風潮に。さらに“口コミ”への信頼度は増していき、『マンガ大賞』や『次にくるマンガ大賞』など一般投票を含む漫画賞が増えていく。
この状況にさらなる変革をもたらしたのが、2010年代からの電子コミックプラットフォーム、アプリの台頭だ。コミック誌と違い掲載数の制限がないため、大手作品のみならず、有名無名さまざまな作品を取り上げることができ、漫画自体の多様化に大きな影響を及ぼしたことは間違いない。さらに、そこでも漫画賞が生まれたことで、賞の多様性もまた大きく広がった。
電子コミックのみを対象として2018年(応募開始は2017年)に初めて創設されたのが、「コミックシーモア」による『電子コミック大賞』。電子コミックの“ネクストブレイクをみんなでつくる”という漫画賞だ。当時、電子書籍を扱うサイトは徐々に増えつつあったが、一般認知はまだまだ。そうしたなか、「電子コミックをもっと幅広い人に利用してほしい、業界全体を盛り上げたい」との思いで賞創設に踏み切ったのが、コミックシーモアだった。「電子コミック創成期からの老舗である、私たちが盛り上げていかなくては!という使命感がありました。だから、賞にもシーモアの名前は入れてなくて。どこの賞だかわかりにくいのは課題なのですが(笑)」と明かすのは、コミックシーモアの電子書籍事業部 企画グループ エグゼクティブの多田知子さん。
紙媒体を対象とした漫画賞は数多くあったが、「それを否定するものではない」。出版社が今後ブレイクするであろう作品を推薦・エントリーし、そこからユーザー投票により選ばれる形式をとっており、「出版社とユーザーと私たちを平等に繋ぐ賞だと考えていて。それで業界全体 が盛り上がればと思っています」。
とはいえ、 電子コミックならではの利点もある。紙の漫画の賞に投票する場合は、ユーザーが単行本や雑誌を買って読む必要があるが、電子コミックであればプラットフォーム上で無料で試し読みできる。これが投票の敷居を下げた。「コアな漫画好きだけでなくライトユーザーも気軽に読み、投票にも参加しやすくなったのかなと。実際、25日に発表した7回目の賞では250万票が集まりました。また、無料ならと、みなさんが幅広いジャンルを試すきっかけにもなったのではないかと思います」。
大賞のほか、男性、女性、異世界、ラノベ、TL(ティーンズラブ)、BL(ボーイズラブ)と部門が多く、ユーザーのさまざまな嗜好が反映された形に。ただ、多くの漫画賞では有名作が選ばれるのに対し、細分化され、なおかつネクストブレイク賞となると、受賞作品でも誰でも知っているような作品ばかりとは限らない 。「たしかにすべてのユーザーが知っている作品とは限りませんが、 ユーザーからは“賞をきっかけに新しい作品と出会えた”という声も多くあり 、出版社や作家さんからは“どうやって自分の作品を見つけてもらえるのか課題に感じていたが、作品に出会う機会があることがありがたい”“テレビなどに取り上げられる賞はうれしい”とのお言葉もいただけました。年々、認知度も上がっていくことで、業界の大きな流れになれていると感じますし、新しい作品を世に広めていくことへ貢献できているのかなと思います。今後も電子コミックの市場を引っ張っていけるように、頑張りたいです」。
実際、『コタローは1人暮らし』『その着せ替え人形は恋をする』など、『電子コミック大賞』での受賞作品がドラマなどメディア化された作品も多い。最新の2024年版 で大賞を受賞したのは『ホタルの嫁入り』という作品だが、これをきっかけに知名度を上げ、広く展開してゆくのだろう。早い段階から電子コミックにスポットを当て、ユーザーの思いを吸い上げながら業界を盛り上げてきた同賞の功績は、やはり大きいと言える。
一方で、功労賞やネクストブレイク賞以外の、新人発掘の面ではどうだろうか。
新人賞には、『手塚賞』、『赤塚賞』、『JUMP新世界漫画賞』、『小学館新人コミック大賞』、『週刊少年マガジン新人漫画賞』、『なかよし新人まんが賞』、『角川マンガ新人大賞』など、出版社や編集部によるものが多数存在する。だが、前述の功労賞と同様に、従来はこれら大手の賞に漏れてしまうと、デビューに時間がかかる、インディーズでコツコツ活動する…などしか選択肢はなかった。
だが、電子コミックプラットフォームやアプリが新人賞を創設している現在では、門戸はより広がっている。これらの賞では作品応募の自由度は増し、横読みのほかWEBTOON形式も対象になるなど、応募スタイルも多様化の一途。この10年の電子コミック、アプリの発展がより広く、新たな才能を発掘する仕掛けになっている。
電子コミックサービス「LINEマンガ」が主催する『LINEマンガ インディーズ大賞』は、自由な作品発表の場「LINEマンガ インディーズ」上で、プロ・アマ、ジャンル、過去作・新規作を問わない、1ページから応募可能なコンテスト。名だたる出版社やコミック誌編集部がすでに多くの新人賞を設けているなか、その名のとおり「完成度や高い技術という面よりも、多少粗削りでも“面白い”と感じられる作品であれば選出するように意識しています」(LINEマンガ 取締役COO 森 啓さん)とのこと。「一般的に新人漫画賞というものは、“連載への最初の入口(そこから時間をかけて連載を目指す)”タイプの賞と、“高い賞金額や主催企業のブランド力をもって即戦力を集める”タイプの2つの形が多いのではないかと感じていました。本賞は“連載への最初の入口”と“即戦力を集める”という間の、今までになかったポジションをイメージしています」。
こうした性質の賞であるだけに、従来の新人賞では拾いきれなかった才能を発掘することも期待されている。『LINEマンガ インディーズ大賞』として開催されたのはまだ1度だが、インディーズ作品投稿から選出されて実施されるトライアル連載では、多数の人気作を輩出。国内のみならず海外でも人気となり、アニメ化も発表された『先輩はおとこのこ』などがそれだ。
「トライアル連載では、一般的な企画会議では通りにくい性質の作品でも可能性を感じれば連載しますし、その中からいくつも人気作が出ています。『LINEマンガ インディーズ大賞』で“大賞は即、トライアル連載”という形で募集することにしたのも、“この作品の反応を読者に問うてみたい”という作品を選びやすくするため。型にはまったものであってもそうでなくても、読んで面白い、と思えるものを選ぶつもりで読ませていただいています。この仕組みを生かし、多様な才能と出会えることを楽しみにしています。現在は集英社さんと一緒に実施する『第4回 集英社少女・女性マンガグランプリ』 という賞の募集も始まっているので、もっと多くの才能と出会えるものにしていきたいです」。
また、差別化という意味では、同じ漫画賞ながら非常にユニークなものも出てきている。それが、総合電子書籍ストア「ブックライブ」による『マガデミー賞』だ。これは作品だけではなく、マンガのキャラクターを称えるアワード。「勇気や感動をくれるマンガのキャラクターに感謝の気持ちを贈りたい」と、2021年に創設された。「近年、”推し活”の高まりに見られるように、漫画のキャラクターから日々の活力をもらっている人がたくさんいることがわかりました。キャラクターへの感謝を伝える機会を定常的に設けることで、従来とは違った視点で漫画の面白さを広げていきたい、という思いから“キャラクターを讃える賞”としました」(BookLive マーケティング部 堰合さん)
ノミネートキャラクターは一般推薦で決定するが、推薦者からはリアルで熱いコメントも寄せられている。「それだけ熱量があるのは、相手が漫画のキャラクターとはいえ、“人”を讃える賞だからこそ」。また、だからこそ「その年に支持される、求められるキャラクター像の傾向が少しずつ違ってくるという気づきがあった」と明かす。例えば、昨年は主演男優賞に『BLUE GIANT EXPLORER』宮本大、主演女優賞に『メダリスト』結束いのりが選ばれ、「必ずしも才能やカリスマ性があったりするわけではない、でもその一生懸命な姿に心打たれ、応援したい、報われてほしいという温かく強い気持ちが推薦から感じられました」。一方で、コロナの渦中に開催した一昨年は、主演男優賞を『ミステリと言う勿れ』の久能整、主演女優賞を『暁のヨナ』のヨナが受賞。「“新しい気づきを与えてくれる”存在や、“覚悟があり、ついていきたいと思わせてくれる”キャラクターが求められていると思いました。今年のノミネート発表は2月の予定ですが、過去2回よりも“地道に頑張る”タイプの、より共感度の高いキャラクターに注目が集まっていると感じています」。
このように、一味違った性質を持つマガデミー賞だが、乱立とも言える漫画賞についても「それだけ作品数が増え、読む人の好みも多様化しているということ」と好意的に見ている。「どの漫画賞も様々な切り口やコンセプトで、それぞれ思いを込めて運営されています。漫画賞をきっかけに作品に興味を持つ人が増えたり、時には作家さんのモチベーションになったりしていると思うので、マガデミー賞に限らず、各賞をきっかけに一人でも多く漫画を読む人、漫画が好きな人が増えたら嬉しいです」。
ほかにも、『ピッコマAWARD』は「売上」「読者数」「いいね数」を主軸に受賞作品を選出。掲載作品数に制限がないからこそ、いま流行の作品と共に旧作『静かなるドン』が選出(2022年版)されるなど、アプリならではの面白い展開を見せている。
このように、漫画が多様化するなかで、同じく評価の基準と幅を拡大している漫画賞。乱立して差別化が難しいように見えて、実はそれが読者が求めるネクストブレイク発見や新人発掘に繋がり、ひいては漫画界全体の発展に繋がっているのではないか。さまざまなジャンルの漫画賞受賞作を眺めて、未知の作品との遭遇を楽しみたい。
■漫画賞の黎明期は“権威”と“大手”がメイン、一方で課題も
一口に“漫画賞”といっても、目的はさまざま。優秀作やヒット作を表彰する功労賞的な賞から、ネクストブレイクを探すもの、新人発掘やスカウトを目的とした登竜門的なものがあり、選出される作品も変わってくる。
とくに功労賞的な賞には、『日本漫画家協会賞』、『手塚治虫文化賞』などの漫画家や評論家が選出する賞、また『小学館漫画賞』や『講談社漫画賞』のような大手出版社が選出する賞がある。1950〜1990年代はこうした“権威”による漫画賞が主であり、そこで選ばれた作品が“良い作品”とされてきた。だが年代が下るにつれ、一般認識との差異、受賞作の偏りに疑問を持たれることも。何よりも、漫画賞の数自体が少なかったことから、若い才能の発掘や気鋭の作家性が正当に評価される機会は今よりも乏しく、文字通りの“狭き門”だった。
そこで、2000年代に入って登場したのが、書店員や一般ユーザーの投票を反映したネクストブレイク賞だ。さらに2010年代になると、電子コミックプラットフォームやアプリでも賞が創設され、より細分化。権威や大手出版社に選ばれなくとも、作家が日の目を見る機会は格段に増え、よりエンドユーザーの意識と近しい結果が出やすくなったと言える。
■乱立は悪いことではない? 大手出版社とは異なる評価基準を定めた“ネクストブレイク”漫画賞
このような背景から、近年とみに漫画賞は増えていき、今や乱立と言えるような状況だ。ユーザーにしてみれば、「どれがどの賞かわからない」「乱立しすぎて特色が見えない」というところだろう。だが、様々なジャンルの賞が増えることは、漫画界全体を盛り上げることに一役買っているとも言える。
前述のとおり、以前は集英社、小学館、講談社などの大手出版社が圧倒的に強く、漫画賞界隈もその例にもれなかった。出版社が主催する賞ではどうしても系列社の作品が受賞することが多くなり、それ以外で活動する作家が注目を浴びるには時間がかかった。こうしたしがらみを脱する大きな契機になったのが、ムック本『このマンガがすごい!』(宝島社/2005年〜)だろう。公正な視点から世に知られていない良作が選ばれていると、世間でも大きな注目を集めた。このあたりから、出版社の枠組みや権威よりも、有名無名問わない選者が「おすすめしたい」として選んだものをユーザーが信じる風潮に。さらに“口コミ”への信頼度は増していき、『マンガ大賞』や『次にくるマンガ大賞』など一般投票を含む漫画賞が増えていく。
電子コミックのみを対象として2018年(応募開始は2017年)に初めて創設されたのが、「コミックシーモア」による『電子コミック大賞』。電子コミックの“ネクストブレイクをみんなでつくる”という漫画賞だ。当時、電子書籍を扱うサイトは徐々に増えつつあったが、一般認知はまだまだ。そうしたなか、「電子コミックをもっと幅広い人に利用してほしい、業界全体を盛り上げたい」との思いで賞創設に踏み切ったのが、コミックシーモアだった。「電子コミック創成期からの老舗である、私たちが盛り上げていかなくては!という使命感がありました。だから、賞にもシーモアの名前は入れてなくて。どこの賞だかわかりにくいのは課題なのですが(笑)」と明かすのは、コミックシーモアの電子書籍事業部 企画グループ エグゼクティブの多田知子さん。
紙媒体を対象とした漫画賞は数多くあったが、「それを否定するものではない」。出版社が今後ブレイクするであろう作品を推薦・エントリーし、そこからユーザー投票により選ばれる形式をとっており、「出版社とユーザーと私たちを平等に繋ぐ賞だと考えていて。それで業界全体 が盛り上がればと思っています」。
とはいえ、 電子コミックならではの利点もある。紙の漫画の賞に投票する場合は、ユーザーが単行本や雑誌を買って読む必要があるが、電子コミックであればプラットフォーム上で無料で試し読みできる。これが投票の敷居を下げた。「コアな漫画好きだけでなくライトユーザーも気軽に読み、投票にも参加しやすくなったのかなと。実際、25日に発表した7回目の賞では250万票が集まりました。また、無料ならと、みなさんが幅広いジャンルを試すきっかけにもなったのではないかと思います」。
大賞のほか、男性、女性、異世界、ラノベ、TL(ティーンズラブ)、BL(ボーイズラブ)と部門が多く、ユーザーのさまざまな嗜好が反映された形に。ただ、多くの漫画賞では有名作が選ばれるのに対し、細分化され、なおかつネクストブレイク賞となると、受賞作品でも誰でも知っているような作品ばかりとは限らない 。「たしかにすべてのユーザーが知っている作品とは限りませんが、 ユーザーからは“賞をきっかけに新しい作品と出会えた”という声も多くあり 、出版社や作家さんからは“どうやって自分の作品を見つけてもらえるのか課題に感じていたが、作品に出会う機会があることがありがたい”“テレビなどに取り上げられる賞はうれしい”とのお言葉もいただけました。年々、認知度も上がっていくことで、業界の大きな流れになれていると感じますし、新しい作品を世に広めていくことへ貢献できているのかなと思います。今後も電子コミックの市場を引っ張っていけるように、頑張りたいです」。
実際、『コタローは1人暮らし』『その着せ替え人形は恋をする』など、『電子コミック大賞』での受賞作品がドラマなどメディア化された作品も多い。最新の2024年版 で大賞を受賞したのは『ホタルの嫁入り』という作品だが、これをきっかけに知名度を上げ、広く展開してゆくのだろう。早い段階から電子コミックにスポットを当て、ユーザーの思いを吸い上げながら業界を盛り上げてきた同賞の功績は、やはり大きいと言える。
一方で、功労賞やネクストブレイク賞以外の、新人発掘の面ではどうだろうか。
新人賞には、『手塚賞』、『赤塚賞』、『JUMP新世界漫画賞』、『小学館新人コミック大賞』、『週刊少年マガジン新人漫画賞』、『なかよし新人まんが賞』、『角川マンガ新人大賞』など、出版社や編集部によるものが多数存在する。だが、前述の功労賞と同様に、従来はこれら大手の賞に漏れてしまうと、デビューに時間がかかる、インディーズでコツコツ活動する…などしか選択肢はなかった。
だが、電子コミックプラットフォームやアプリが新人賞を創設している現在では、門戸はより広がっている。これらの賞では作品応募の自由度は増し、横読みのほかWEBTOON形式も対象になるなど、応募スタイルも多様化の一途。この10年の電子コミック、アプリの発展がより広く、新たな才能を発掘する仕掛けになっている。
電子コミックサービス「LINEマンガ」が主催する『LINEマンガ インディーズ大賞』は、自由な作品発表の場「LINEマンガ インディーズ」上で、プロ・アマ、ジャンル、過去作・新規作を問わない、1ページから応募可能なコンテスト。名だたる出版社やコミック誌編集部がすでに多くの新人賞を設けているなか、その名のとおり「完成度や高い技術という面よりも、多少粗削りでも“面白い”と感じられる作品であれば選出するように意識しています」(LINEマンガ 取締役COO 森 啓さん)とのこと。「一般的に新人漫画賞というものは、“連載への最初の入口(そこから時間をかけて連載を目指す)”タイプの賞と、“高い賞金額や主催企業のブランド力をもって即戦力を集める”タイプの2つの形が多いのではないかと感じていました。本賞は“連載への最初の入口”と“即戦力を集める”という間の、今までになかったポジションをイメージしています」。
こうした性質の賞であるだけに、従来の新人賞では拾いきれなかった才能を発掘することも期待されている。『LINEマンガ インディーズ大賞』として開催されたのはまだ1度だが、インディーズ作品投稿から選出されて実施されるトライアル連載では、多数の人気作を輩出。国内のみならず海外でも人気となり、アニメ化も発表された『先輩はおとこのこ』などがそれだ。
「トライアル連載では、一般的な企画会議では通りにくい性質の作品でも可能性を感じれば連載しますし、その中からいくつも人気作が出ています。『LINEマンガ インディーズ大賞』で“大賞は即、トライアル連載”という形で募集することにしたのも、“この作品の反応を読者に問うてみたい”という作品を選びやすくするため。型にはまったものであってもそうでなくても、読んで面白い、と思えるものを選ぶつもりで読ませていただいています。この仕組みを生かし、多様な才能と出会えることを楽しみにしています。現在は集英社さんと一緒に実施する『第4回 集英社少女・女性マンガグランプリ』 という賞の募集も始まっているので、もっと多くの才能と出会えるものにしていきたいです」。
また、差別化という意味では、同じ漫画賞ながら非常にユニークなものも出てきている。それが、総合電子書籍ストア「ブックライブ」による『マガデミー賞』だ。これは作品だけではなく、マンガのキャラクターを称えるアワード。「勇気や感動をくれるマンガのキャラクターに感謝の気持ちを贈りたい」と、2021年に創設された。「近年、”推し活”の高まりに見られるように、漫画のキャラクターから日々の活力をもらっている人がたくさんいることがわかりました。キャラクターへの感謝を伝える機会を定常的に設けることで、従来とは違った視点で漫画の面白さを広げていきたい、という思いから“キャラクターを讃える賞”としました」(BookLive マーケティング部 堰合さん)
ノミネートキャラクターは一般推薦で決定するが、推薦者からはリアルで熱いコメントも寄せられている。「それだけ熱量があるのは、相手が漫画のキャラクターとはいえ、“人”を讃える賞だからこそ」。また、だからこそ「その年に支持される、求められるキャラクター像の傾向が少しずつ違ってくるという気づきがあった」と明かす。例えば、昨年は主演男優賞に『BLUE GIANT EXPLORER』宮本大、主演女優賞に『メダリスト』結束いのりが選ばれ、「必ずしも才能やカリスマ性があったりするわけではない、でもその一生懸命な姿に心打たれ、応援したい、報われてほしいという温かく強い気持ちが推薦から感じられました」。一方で、コロナの渦中に開催した一昨年は、主演男優賞を『ミステリと言う勿れ』の久能整、主演女優賞を『暁のヨナ』のヨナが受賞。「“新しい気づきを与えてくれる”存在や、“覚悟があり、ついていきたいと思わせてくれる”キャラクターが求められていると思いました。今年のノミネート発表は2月の予定ですが、過去2回よりも“地道に頑張る”タイプの、より共感度の高いキャラクターに注目が集まっていると感じています」。
このように、一味違った性質を持つマガデミー賞だが、乱立とも言える漫画賞についても「それだけ作品数が増え、読む人の好みも多様化しているということ」と好意的に見ている。「どの漫画賞も様々な切り口やコンセプトで、それぞれ思いを込めて運営されています。漫画賞をきっかけに作品に興味を持つ人が増えたり、時には作家さんのモチベーションになったりしていると思うので、マガデミー賞に限らず、各賞をきっかけに一人でも多く漫画を読む人、漫画が好きな人が増えたら嬉しいです」。
ほかにも、『ピッコマAWARD』は「売上」「読者数」「いいね数」を主軸に受賞作品を選出。掲載作品数に制限がないからこそ、いま流行の作品と共に旧作『静かなるドン』が選出(2022年版)されるなど、アプリならではの面白い展開を見せている。
このように、漫画が多様化するなかで、同じく評価の基準と幅を拡大している漫画賞。乱立して差別化が難しいように見えて、実はそれが読者が求めるネクストブレイク発見や新人発掘に繋がり、ひいては漫画界全体の発展に繋がっているのではないか。さまざまなジャンルの漫画賞受賞作を眺めて、未知の作品との遭遇を楽しみたい。
2024/01/29