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米映画界に平手打ち?『パラサイト』インパクトの余波 ハリウッドで韓国コンテンツ急騰

『第92回アカデミー賞』は、韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が作品賞、監督賞、脚本賞、国際映画賞の4冠に輝き、オスカーの歴史を変えた。本作のオスカー席巻が今後のハリウッドに与える影響を考えてみたい。『パラサイト』インパクトの余波に包まれた現地の様子もレポートする。

『パラサイト 半地下の家族』(C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

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■作品賞が『1917』ではなく『パラサイト』だった理由

 今年の作品賞ノミネート作品は、ジャンルも規模も、配給形態も大きく異なる9本という顔ぶれ。昨年の秋から始まった賞レース前半では、多くの作品において、投票者へアピールする大々的なキャンペーンが繰り広げられ、主要メディアのオスカー予想も、いくつかの作品にばらけていた。ところが、年明けの『ゴールデングローブ賞』発表あたりから、受賞予測が徐々に『1917 命をかけた伝令』と『パラサイト 半地下の家族』の2作にフォーカスされていく。賞レース後半では、アカデミー会員の多くが属する一連の組合賞において、『1917』がプロデューサー組合賞と監督組合賞を、『パラサイト』が俳優組合賞と脚本家組合賞を2つずつ受賞し、いよいよどちらもあり得る、という状態になっていた。

 オスカーの前哨戦と言われる数々の賞のなかでも、とくに作品賞を占う指標とされるのが、プロデューサー組合賞。そこを制した『1917』が有力だとする分析は、やはり多かった。戦争テーマ、監督が自身の祖父の体験をもとに綴った脚本、臨場感のあるカメラまわしをはじめとするオスカー的要素もそろっている。

 一方、全編韓国語、かつ米国では比較的無名な俳優のアンサンブルである『パラサイト』が、アカデミー会員のなかで最大の構成率といわれる俳優たちによって最高賞に選ばれたことは、強力なインパクトを放った。賞レースにおいては、「有力作になったとたん、ネガティブな面が探される」という宿命があるが、『パラサイト』については、作品におけるネガティブな意見はほとんど聞かれなかった。脚本・美術・編集などのクオリティはもちろん、圧倒的な娯楽性とテーマ性は疑いようもない魅力。作品賞受賞に向けた唯一のハードルがあるとすれば、「国際映画賞があるからいいのではないか」という心理が働くことだと言われていた。オスカーらしい『1917』と、オスカーの歴史を変える『パラサイト』。米アカデミーは、後者を選んだ。

■「白すぎるオスカー再び」の声もあった今年、示された改革の第一歩

 8年前に白人の年配男性が大半を占めているとメディアに報じられ、2015年、2016年には2年連続で俳優部門20枠を白人俳優が占めたことで「白すぎるオスカー」と物議を醸した『米アカデミー賞』。その後、性別、国籍、年齢の多様化に向け、新たな会員を急ピッチで招待し、改革を図ってきた。昨年は、俳優部門でアフリカ系俳優2名が受賞し、全編スペイン語のメキシコ映画『ROMA/ローマ』が作品賞に王手をかけるなど、多様化へ大きく前進したかに見えたものの、今年は、また俳優部門19枠を白人俳優が占め、「白すぎるオスカー再び」という声も上がっていた。

 それ以外の部門でも、女性や有色人種、異文化テーマの作品が候補外となったことで、『米アカデミー賞』が多様な観客の声やフィルムメイカーの姿を反映するまでには、課題が多いことを露呈したのだ。そうしたなかでの『パラサイト』の作品賞は、アカデミー改革の成果の一歩といっていいだろう。現時点で約8500人といわれるアカデミー会員。うち何人が今回の投票に参加したのかはわからないが、投票者が1〜9位まで順位をつける作品賞独特の投票システムのなかでトップになるためには、多くの会員の想いが必要だからだ。

■長年の米映画業界のナルシズムに平手打ちを食わせた?

 その想いが授賞式会場にも溢れたのか、脚本賞、国際映画賞、監督賞を次々に制していくポン・ジュノ監督への喝采は大きかった。そして、作品賞受賞時の会場の盛り上がり、トム・ハンクスシャーリーズ・セロンら前列に座るスターたちのバックアップ(受賞スピーチの時間切れでステージの照明が落ちたとき、彼らが「アップ!(照明を戻して)」コールを先導し、受賞スピーチが続行された)、ポン・ジュノ監督が敬愛するマーティン・スコセッシ監督の笑顔からは、『パラサイト』陣への祝福はもちろん、自分たちが歴史的瞬間を生み出せたことへの歓喜も感じられるようだった。

 ロサンゼルス・タイムズ紙のジャスティン・チャン氏は、「『パラサイト』は、自身とその作品やイメージばかりに夢中であった、長年の米映画業界のナルシズムに、ついに平手打ちを食わせた」という独特の表現で、『米アカデミー賞』、そしてハリウッド自体における変革の一歩を評価。エイヴァ・デュヴァーネイ監督は「世界は広く美しく、すべての国の映画に『米アカデミー賞』の最高賞を受ける価値がある。(この受賞は)素晴らしくて正しいもの」と祝福のツイートを放った。米バラエティ紙のオーウェン・グリーバーマン氏は、同作の受賞を「シネマの未来への賛成票」と称し、「ハリウッド以外で作られた映画を祝することで、米映画界の人々が、外の世界にも目を向けることができることを証明した」と綴っている。

■「ロッテン・トマト」評価は、批評家99%、観客92%とそろって高得点

 さまざまな分析がありつつも、『パラサイト』の快進撃の最大の理由が、その作品力とポン・ジュノ監督の存在であることは確かだ。評価だけでなく、興行成績も記録的。米国では、昨年10月のわずか3館における39万ドルの公開から、口コミとアワード結果、配給戦略による拡大公開を経て、オスカー・ノミネーション後の1月末時点で3000万ドル、受賞後の2月11日時点で3500万ドルを稼いでいる。

 米映画レビューサイト「ロッテン・トマト」の評価は、批評家が99%、観客が92%とそろって高得点だ。米国でここまでヒットした理由としては、“格差社会”という韓国社会のみならず、米社会にもアピールするテーマ性、ホラーからコメディ、家族ドラマ、サプライズまで、すべてが詰まった娯楽性、米配給会社による絶妙な配給戦略などが挙げられる。視覚はもちろん、嗅覚までもを動員させるジュノ・マジックによって、『パラサイト』は言葉の壁を超えた。作品だけでなく、毎回通訳を伴いながら、堂々と韓国語で話すジュノの姿は爽快で、「映画に言葉の壁はない」という彼自身の言葉に説得力を持たせた。

■ハリウッドでブーム?韓国コンテンツへの注目が高まる

 では、今回の『パラサイト』の快進撃によって、ハリウッドに韓国映画ブームはやってくるのか?『パラサイト』は、すでに米HBOでリミテッド・テレビシリーズ化されることが発表されている。映画の直接的な英語版リメイクになるのか、スピンオフ的なものになるのかは明かされていないが、ポン・ジュノ監督と、コメディの名手アダム・マッケイ氏(『バイス』『マネー・ショート 華麗なる大逆転』)が、共同で制作総指揮を務めるという。

 このほか、米主要テレビ局や配信サービスにおいて、ここ数週間、韓国系コンテンツの米進出ニュースが立て続けに報じられている。10代のバイセクシャルの韓国系アメリカ人女性がK-POPスターをめざす姿を描く、ヤングアダルト小説『I’ll Be The One』の長編映画化、スリラードラマ『Memory』のフォーマットをもとにしたドラマシリーズ、音楽リアリティ番組『君の声が見える』のリメイクなどだ。

 音楽界においても、BTSの人気は続いている。これらの動きを直接的に『パラサイト』効果に結びつけることはできないが、今回のオスカーによって、韓国ショービズ界により多くの目が向くことは確かだろう。また、ポン・ジュノ監督自身が、スピーチやインタビューで繰り返し韓国映画界やファンに感謝を述べ、同国の若手フィルムメイカーを支援する姿勢を見せており、こうした後押しの影響もあるはずだ。

 同時に、『パラサイト』のオスカー受賞の余波は、韓国ショービズ界のみならず、アジアをはじめ、多文化・多言語のすべての国々に通じ得るもの。すばらしい作品と団結力を見せてくれた韓国映画界へ心からの祝福を贈りつつ、視野を広げたハリウッドと、日本や世界のコンテンツが今後どのようなドラマを見せてくれるのか、注目したい。
(文/町田雪)

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  • 『パラサイト 半地下の家族』(C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
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  • 『第92回アカデミー賞』でトロフィーを掲げるポン・ジュノ監督(Photo by Kevin WinterGetty Images)
  • 『パラサイト 半地下の家族』(C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

提供元:CONFIDENCE

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