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ピエール瀧事件からみえた白石和彌監督の映画への愛、人への愛

■「Film makers(映画と人 これまで、そして、これから)」第1回 白石和彌監督
 4月5日、無事初日を迎えた『麻雀放浪記2020』。本作は、コカインを使用したとして麻薬取締法違反の罪で起訴されたピエール瀧被告が出演していることで、公開の是非が問われていたが、配給元の東映が、ピエール瀧の出演シーンをカットすることなく公開することを発表。紆余曲折がありながら、初日を迎えた白石監督に率直な胸の内を聞いた。

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■「作品に罪はない」はあくまで原則

 「割とフラットな気持ちです」と公開当日の気持ちを述べた白石監督。3月20日には、白石監督と東映株式会社代表取締役社長の多田憲之氏が会見を開き、ピエール瀧の出演シーンをカットすることなく劇場公開することを発表。その際「作品に罪はない」という言葉が大きく取り上げられたが、会見で白石監督は「議論する必要性」を挙げていた。

 「ワイドショーの取材が来て『作品には罪がない』という言葉に対して『殺人でも同じですか?』と聞かれた。そんなわけないんです。限界はあります。例えばですが、この映画で瀧さんがコカインを吸っていたり、麻薬を打っていたりするシーンがあったなら、当然こういう判断にはならなかった。原則として“作品には罪がない”ということ。そのうえで、内容を含めしっかり議論して決定していく必要があるんです」。

 この事例のように、内容の一部が一人歩きし、意図していることがうまく伝わらないことがある。白石監督は以前から、作品を通じて、SNS等の普及により誰もが情報を簡単に発信できることによって起こるミスリードや悪意ある誤解、さらにそれに付随して発生する“炎上騒ぎ”などに対して、シニカルでユーモアを交えた表現で問題定義してきた。

 「最近そう言われるのですが、僕は普通に映画を作りたい小心者の男なんです(笑)。若松(孝二)さんや大島渚監督などは、世の中と戦っているように見られていましたが、僕は別にそういうことを目指していたわけではないんです。まあ、若松さんもいちいち戦っていたわけではないんですけれどね。映画が好きで楽しいものを作りたいというシンプルな思いなんです」。

 とは言いつつも『麻雀放浪記2020』では、マイナンバーによる抑圧された管理や、不祥事による謝罪会見、それによりグッズが撤去されていくシーンなど、いまの世の中を風刺したような場面がちりばめられている。

 「そもそもなぜ、坊や哲を2020年に連れてくるという設定にしたかというと、それは今の世の中が生きづらいと感じているからであって、そうしたシステム障害を起こしている世の中に、(「麻雀放浪記」原作の)阿佐田哲也先生や、坊や哲の力を借りて『おかしいんじゃないか』ということを言いたいという思いはあったんです。ただ謝罪会見やグッズ撤去などのシーンが劇中に出てくるのですが、まさか瀧さんの事件が起こるなんて想像もしていなかったし、その意味では不思議なめぐり合わせの作品だなと思いました」。

■世間に抗って公開した映画が「大いなるバカ映画」

 冒頭で触れた「作品に罪はない」という言葉。奇しくもここ数年、出演者の不祥事が相次ぎ、公開延期やいわゆるお蔵入りになる映画の話題が続いた。本作についても「公開の半年前にこの事件が起きたら、僕がいくらゴネても『撮り直し』という意見は出たと思うんです。良い悪いは別にして、時間がなかった。そのなかで公開するかしないかという判断の猶予がなかったことが、この映画が他の作品と大きく違ったところ」と冷静な目を向ける。

 さらに白石監督らしい言葉を続ける。「今回の件で『作品に罪はない』というフレーズで、周囲からすごく熱い言葉をいただいたりするんです。でも映画を見てもらえればわかると思いますが、はっきり言って、映画を背負う映画じゃないんですよ(笑)。東映の社長まで出てきてもらって会見して『公開します』と世間に抗って公開した映画がこれかよ!って(笑)だから人生は面白いと思う。痛快ですよね」。

 この発言こそ、白石監督の映画作家としての本質かもしれない。映画作りが好きで、映画を愛する、そしてそこに携わる人を愛する。当然出来上がった作品も全力で愛を込め、窮地に追い込まれれば守る。その内容はバカ映画でも、高尚なメッセージを含む映画でも同じ。だからこそ「作品を守る」という一心で、今回の出来事にも向き合った。それが本人の言うところの「バカ映画」ということがさらに痛快さを増しているのだろう。

■映画のリスク、尿検査などの“身辺調査”の是非と“信頼関係”

 白石監督が大切にしているもの――「映画」というものを通じて“信頼”で繋がっていく関係性。それが揺らいでしまったのがピエール瀧の事件だ。作品へのリスク、多額の損害賠償の問題など、プロジェクトに参加するまえに、身辺調査を唱える人もいる。

 「そういう時代になるのかもしれませんが……。でも映画が好きで、そこに出たい人がいて、作りたい人がいる。いままでは信頼で繋がっていた。それが崩れてしまうと正直どうしていいかわからない。例えば血液検査や尿検査をするのも一つの方法だとは思います。でもそれは薬の問題で、その他の事件のリスク、例えば『私は人を絶対殺しません』とか『なにがあっても痴漢はしません』とか、きりがないですよね。さらに参加段階ですべて大丈夫だとしても、撮影が終わったあと、何かあるかもしれない。そこで『こうだっただろ』と話を持ち出してもあとの祭りですよね。結局は信頼関係になるんだと思う」。

 ピエール瀧に関しても、これまで何度も白石監督はコメントを出してきた。“信頼関係”という意味では、白石監督は裏切られた格好だ。

 「もちろんそういう思いはあります。でも薬物というのは一度やり始めると抜け出せない。それは僕の作品でも描いてきたことで、取材でそういうものだという認識もあります。だから瀧さんがそういう状況だったことに気づけなかったという忸怩たる思いはあります。こちらの不徳の致すところです。ただ二度と瀧さんと会いたくないという気持ちではない。役者と監督という形では難しいかもしれませんが、友人として社会復帰や治療、たまに会って話すだけでもなにかが楽になるなら、そういう存在としてでもいい。なにかしらのサポートをしてきたいと思っています」。

■正論=世論では決してない

 本作ではベッキーが重要な役柄で作品に参加している。「絶対的にセカンドチャンスは必要」と白石監督は強い口調で語る。続けて「いまは“正論”ばかりが強調される。今回の件に関しても『犯罪者が作品に出ているのは何事だ!』という意見がある。これは正論なんです。だって言い返せない。メディアも正論には否定的な意見はしづらい風潮になっていますよね。そしてそういう意見があたかも世論のように報道する。でも実際は違うことも多々ある」と指摘する。

 こうした風潮に一石を投じられたという意味で、白石監督は『麻雀放浪記2020』という作品を「誇りに思う」と胸を張る。「賛否はもちろんあっていい」と笑顔を見せた白石監督。見方は人それぞれ、でも「映画が好き、映画を作る人が好き」という白石監督の意思は強く感じられる作品になっている。(取材・文・撮影:磯部正和)

「Film makers(映画と人 これまで、そして、これから)」
キャスト、監督、スタッフなど映画に関わるさまざまな人々の最新作、フィルモグラフィを通して「映画」の未来を読む。

関連写真

  • 映画『麻雀放浪記2020』の白石和彌監督 (C)ORICON NewS inc.
  • 映画『麻雀放浪記2020』の完成報告ステージイベント(3月20日開催)に出席した(左から)白石和彌監督、ベッキー、斎藤工、もも、竹中直人 (C)ORICON NewS inc.
  • 『麻雀放浪記2020』白石和彌監督 (C)ORICON NewS inc.
  • 『麻雀放浪記2020』白石和彌監督 (C)ORICON NewS inc.
  • 『麻雀放浪記2020』白石和彌監督 (C)ORICON NewS inc.

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