“大作の赤字を埋める低予算ホラー”構造のハリウッドメジャー、日本との違いとは
ハリウッドメジャーの大ヒット低予算ホラーの製作費と興収
これらはすべてメジャースタジオが製作しているが、こうした低予算ホラーは、莫大な製作費をかけながら興収が振るわなかった大作の興収を超えることもある。メジャースタジオの最近の例を挙げていくと上表のようになる。
ハリウッドでこうした低予算ホラーのスマッシュヒットが生まれる背景について、洋画配給の東和ピクチャーズ・取締役の平野健吾氏は「ホラー映画で一番重要なのは、アイデアだと思います。予算をかけなくても、ターゲットの意欲をしっかり獲得できる刺激的な企画がビジネスとして有効なのです。例えば、『クワイエット・プレイス』が世界中で大ヒットした理由は、音を出したら殺されてしまうという緊張感のなか、精一杯、生き残ろうとする家族ドラマに観客が感情移入できたからでしょう。この設定には、今の世の中に通じるなにかがあるのだと思います。いずれにしろ、大ヒットするためには、時代に合ったフックが必要です。それを見つけることができるのもハリウッドの力かもしれません」とコメントする。
上記の作品は、北米興収のみの製作費との比較だが、世界興収を含めるとさらに利益は大きくなり、低予算ホラーがいかに収益率の良いビジネスになっているかがわかる。もちろんヒット作ばかりではないのだが、リスクは少なく、アイデア次第では大きなリターンを生み出すポテンシャルを持つホラーは、大作が振るわなかったときの赤字を相殺する役割を担うことも多く、ハリウッドメジャーの経営的に欠かせないジャンルになっている。
製作委員会方式が多い日本は1本1本が勝負
まず、ホラーというジャンルに目を移すと、一時期のブームの頃を除き、日本ではホラー作品のヒットが生まれる恒常的な土壌がない。映画ジャーナリストの大高宏雄氏は、「ホラー映画の製作、興行は活発化していません。この3年間ほどを見ても、本格ホラー映画で興収10億円を超えたのは、『貞子 vs 伽椰子』(2016年)ぐらい。この分野を下支えしてきたビデオ=DVD市場の低迷も、ホラー映画を作りづらくしていますね。劇場収入、2次使用以降の映像収入ともに減少しているので、製作やマーケティング手法のやり方を新しく考える必要があると思います。ホラー的要素の強い中島哲也監督の『来る』(12月7日公開)が突破口になるとおもしろいのですが」と現況の厳しさを語る。
さらに、ハリウッドのように低予算作が大作の損失を埋める構造については「日本映画は米映画のように世界市場が確立していないので、ホラー映画で言えば、その位置付けはちょっと難しいですね。ただ、大作ばかりではなく、中級クラスの作品も多いので、このあたりのジャンルがときにヒットする場合もあり、大作の損失を結果的に埋める場合もないことはないです」(大高氏)とする。たしかに、大ヒットが減っている一方で、興収10億円ほどのヒットは増えており、そのなかからは30億円を超えるスマッシュヒットも生まれている。
ただ、製作委員会方式がほとんどの日本の大作においては、その1本1本が勝負になり、大手映画会社には、どこかの作品の損失をほかの作品で穴埋めするという発想そのものがないようだ。その年間の編成について大高氏は「今、邦画大手でいえば、大作と中級クラスが混ざっています。製作費が高額な大作で、年間のすべての番組を埋めるわけにはいかないからです。中級クラスで大作の損失を補てんしようというより、あくまで年間を通した番組編成を考えれば、そうなるということですね」と解説する。
ハリウッドのような別作品による赤字補填的な考え方がない日本だが、その一方で、大手映画会社ではギャンブル的な要素も強くなる大作ばかりに重きを置くのではなく、中級クラスの1本1本でしっかりと興収を上げていき、年間の編成で利益を積み上げる堅実な舵取りを行っているというわけだ。
そんななかで今夏は、インディペンデントから『カメラを止めるな!』のような製作費300万円で20億円を超える興収を生み出すスマッシュヒットが生まれおり、映画シーン全体が大いに刺激を受けていることだろう。ハリウッドメジャーが低予算ホラーを経営に欠かせないジャンルにするように、日本の大手もこうしたアイデアで大きなリターンを狙う低予算作品をレギュラーとして年間の編成に組み込んでいくのはどうだろうか。