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『カメラを止めるな!』ヒットの裏に「ネタバレ厳禁」“口コミ”リテラシー

『カメラを止めるな!』のスマッシュヒットが映画シーンをざわつかせている。“他に類を見ない構造と緻密な脚本”“37分に渡るワンカット・ゾンビサバイバル”など、ヒット要因となった作品内容については各所で語られているが、そのヒットが生まれた背景に注目したい。

『カメラを止めるな!』と『ブラックボックス展』の共通点

 同作は、監督&俳優養成スクール・ENBUゼミナールの製作、配給により、6月23日に都内2館で公開がスタート。同スクールの生徒らが出演し、ワークショップ的に製作され、商業映画のようなヒットさせるための宣伝予算を持っていたわけではない。しかし、公開とともに連日満席が続き、アスミック・エースとの共同配給による全国拡大公開が決定した。

 150館までの拡大が発表されているが、先週末(8/4、5)の時点ではまだ16館の公開にもかかわらず、全国映画動員ランキングで10位にランクイン。週末観客動員数ミニシアターランキングでは3週連続1位をキープ。動員は15万人を突破しており、興行収入は現時点では非公表だが2億円近くまで達していることが推測される。

 公開から連日の満席の背景には、昨年11月のお披露目上映で話題になり、チケットが完売していたこと、その後の『ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2018』でゆうばりファンタランド大賞(観客賞)を受賞していたことで、映画コアファンの間で話題になっていたことがある。そして、2館での劇場公開が始まると、瞬く間に口コミで話題が広がり、連日の各回上映がほぼ満席。作品を観たくても観られない飢餓感がさらに話題性を高めた。

 これと同じパターンでブームを巻き起こしていたのが、昨年5〜6月に東京・六本木のART&SCIENCE GALLERY LAB AXIOMで開催された『ブラックボックス展』だ。事前告知では場所、日時のみが開示され、内容はまったく明かされていないにもかかわらず、口コミで話題が拡散。国内ギャラリーでは類を見ない連日3〜4時間待ちの行列ができ、累計動員は数万人にのぼっていたようだ。

映画ファンのリテラシーが生んだソーシャルレゾナンス

 ここで注目されるのが、“体験者”がその内容を一切、口外せずにコンテンツの魅力を想起させている点だ。『ブラックボックス展』や『カメラを止めるな!』に至っては、泣けるのか、笑えるのか、感動するのかなども口コミからはわからないのに、その情報に触れた人は観たくてたまらなくなっているのだ。

 上述のような大規模宣伝の伴わないムーブメントの背景にあるのは、やはり自然発生的な口コミに尽きる。さまざまなヒットの裏には、大なり小なり口コミによるなんらかの影響があるものがほとんどだろう。ただ、SNSの個人の口コミが影響力を持つ昨今、それを利用しようとする宣伝手法もあちこちで見受けられるが、狙ってもなかなかできるものではない。宣伝としてのPR的な意図が透けて見えるものには、諸刃の剣ともなりかねないのが、SNSによる口コミ拡散だ。

 そんななか、口コミが最大のヒット要因となったこの2つの案件から見えるのは、「ネタバレ厳禁」という題材に対して、ファンのなかでコンセンサスが取られているかのように、ネタバレなしで盛り上げる、煽ることが楽しまれているのが最大のポイント。多くのユーザーが、“ネタバレなし”という枠があることで、よりおもしろがって積極的に発信をしている。そうした文化が醸成されているなか、作品を観た人、未見の人たちがそれぞれおもしろがってシェア、拡散する連鎖を起こし、共鳴を生んだのが今回の現象ではないだろうか。

 ソーシャルレゾナンスという言葉がある。1人のユーザーがいくつものSNSを使いこなしているなかで、1つの話題がそれぞれユーザー属性が異なるSNSで拡散される。それが繰り返されることで、SNSを超えた共感が生まれ、それが広く共鳴を起こし、行動へとつながるムーブメントが沸き起こる。この2つの事例からは、「ネタバレ厳禁」と、そこに生じた飢餓感が起爆剤となり、ソーシャル上でレゾナンス(共鳴)が起きたことがわかる。

『カメラを止めるな!』が現在巻き起こしている“現象”の背景にある映画ファンたちの“口コミリテラシー”。ここには、作品と同様に映画愛がしっかりとつまっている。

『カメラを止めるな!』

監督・脚本・編集:上田慎一郎
出演:濱津隆之 真魚 しゅはまはるみ 長屋和彰 細井学 市原洋 山崎俊太郎 大沢真一郎 竹原芳子 浅森咲希奈 吉田美紀 合田純奈 秋山ゆずき
製作:ENBUゼミナール
配給:アスミック・エース=ENBUゼミナール
全国拡大公開中 【公式サイト】(外部サイト)

提供元: コンフィデンス

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