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【野村不動産】「花粉どころじゃない!」日本の森が危ない、“ウッドショック”で潮目が変わった? 荒廃した森林に民間企業が挑む
奥多摩町「つなぐ森」
スギやヒノキなどの人工林は全体の4割、荒れ放題のままでは必ずツケが…
奥多摩町「つなぐ森」
そして今、問題となっているのが、これら人工林の多くがほったらかしにされたまま、荒れ放題になっていることだ。原因は、安価な輸入材の流入や人手不足による林業の衰退、所有者不明林や相続後に放置された山林の増加など。この状況について、「森が適切に管理されていないと、山が水分を保持できず、花粉症以上に私たちの生活に多大な影響を及ぼします」と語るのは、現在『「森を、つなぐ」東京プロジェクト』の一環で、東京都西多摩郡奥多摩町に「つなぐ森」と名付けた森を保有する、野村不動産ホールディングスのサステナビリティ推進部 企画推進課主任の榊間綾乃さん。
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「つなぐ森」での伐採の様子
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「つなぐ森」から伐採した木材
森林は、雨を蓄える“水がめ”につながる大切な場所 。「世界の中でも日本は山も雨も多く、水に困ることはない」と思われがちだが、現在のまま山林を放置し続ければ、私たちの生活に欠かせない水を失う危険をはらんでいるというのだ。
「奥多摩の『つなぐ森』では、既存の高齢木を伐採し、新しい木を植える、「循環する森づくり」を実施することで、 本来、森林が持つ機能の回復を目指した取り組みを行っています。伐採後には新たに木を植えていますが、育つまでには長い時間を要します。不適切なやり方で森づくりをしていては、そのツケは必ず60年後に回ってきます。これは奥多摩だけの話ではなく、全国の森も同じなんです」
デベロッパーがなぜ奥多摩に? “良いこと”をするだけが目的ではない
野村不動産ホールディングス サステナビリティ推進部企画推進課 主任の榊間綾乃さん
奥多摩町にある「つなぐ森」
「『不動産デベロッパーが、持続可能な自然環境の実現に貢献できることは何か?』を一から考えたことがきっかけでした。私たちは事業で木材を扱う立場ですし、森は川、その先の海へとつながっており、都市部にも良い影響を与えることができる。離れた場所ではなく、私たちのメインフィールドである東京でこうした取り組みを行いたいと思いました」
そして白羽の矢をたてたのが、東京の西郊に位置し、町の面積の94%を森林が占める奥多摩町だった。“東京の水がめ”とされる奥多摩湖を有する自然豊かなこの町も、森林のうちの5割弱が人工林。1980年以降、日本各地で林業の衰退が顕著に進んだが、奥多摩町も例にもれず 町に複数あった製材所は1ヵ所のみとなり 、手入れも活用もされないままの山林が増加していた。
そんな問題に向き合うために、同社では森づくりに加え、地域振興や雇用創出、遊休地域資源活用なども視野に入れ、2021年8月に奥多摩町と包括連携協定を締結。同町が保有する山林約130ヘクタールに対して30年間の地上権設定を受け、「森を、つなぐ」東京プロジェクトを始動させた。
「もちろん、私たちは民間企業なので、ただ“良いことをしている”というだけではなく、企業成長につなげることが必要。自然と都市が共生する循環を作り、拡大させていくためには、伐採した木材を有効に活用するなど出口を作ることが大切だと考えました」
「ウッドショック」で国産材にチャンス、だが分譲マンションではハードルが高い?
プラウドの木造共用棟(プラウドシティ吉祥寺) ※上記物件で使用している国産材は「つなぐ森」の木ではありません
「つなぐ森」の木を活用した家具イメージ
「奥多摩に限らず日本の山の多くは急峻。枝打ち作業が必要な人工林の場合、急峻地は作業の難易度が高く、コストもかかってしまうため、いっそう放置されがちでした。人工林の中でもスギは耐久性が弱く、建材や家具には向かないとされてきました。さらに枝打ちされていない木は節ができ、デザイン性の面でも使われにくい問題がありました 」
一方、安価な輸入材の台頭により、需要が激減の一途をたどっていた国産材だが、ここにきて状況が変わってきたという。コロナ禍の影響もあり、供給不足となった輸入材の価格が高騰。納期遅延等が発生する「ウッドショック」が起きたことで、国産材に注目が集まり始めたのだ。
こうした需要の高まりとともに自給率アップが期待される一方で、国産材も高騰を始めていると言われているが、「少しずつ高くはなっていますが、鉄やコンクリートのほうが高騰しているので。輸入材と国産材のバランスが変わってきた今はチャンスでもあるととらえています」と榊間さんは今後に期待を寄せる。
同社では、まず建材として利用することを目指し、自社オフィスのフローリング、グループの飲食店店舗などで活用。野村不動産といえば分譲マンション・一戸建シリーズの「プラウド」などが有名だが、「住宅を含む建築物には 建築基準法があるので、不燃性能が求められる部位(壁、天井等)に木材を用いる場合、不燃処理等が相当なコストアップになりハードルが高い」とのこと。
「とはいえ、現在プラウドの木造共用棟では原則として国産材を活用しており、今後は一部の物件で『つなぐ森』の木を活用することも検討しています。 さらに建材として利用できない部分は、家具としても活用。木材は内装材やフローリングに、樹皮は舗装材、端材は飲食店店舗のピザ窯の薪炭材、枝葉はエッセンシャルオイルにと、節があるスギの木も丸ごと1本使えるよう開発を進めています。今後、奥多摩の木材を使用することが付加価値につながるようになれば。我々にとっても、森にとっても良いサイクルになるのではないかと考えます」