ORICON NEWS
お仏壇のはせがわ、オタク社員考案の“厳かに飾る”「推し壇」が好調 “推し活”市場に新たな価値創出へ
神棚に推しグッズを並べたのが“厳かに飾る”「推し壇」の原点
郡司茉采さん もともと「心の平和と生きる力を自らと人々に実現する」という会社の理念があります。その理念の実現につながると考えた「推し壇」を、社内の商品開発、販売促進などの新しい戦略を募るチャレンジ企画に提案したところ、採用されて開発がスタートしました。
――郡司さんも“推し”がいたのでしょうか?
郡司茉采さん 私自身が推し活をしているオタクですが、推しを持つ人にとって、その存在は生きる支えであり、アイデンティティにもなり得る。その推しと大切に向き合って、お祈りを捧げる、感謝をするという行為は、心の平和と生きる力につながると考えました。
推しとの向き合い方は、人それぞれで千差万別です。推しに見守られたい、推しを大切にしていることを強く体感したいといった気持ちがある人もきっといると思いました。そのためにふさわしいフォーマットが必要だと考えた結果、“厳かに飾る”という着地点で「推し壇」になりました。
――「推し壇」のアイデアの元ネタのようなものがあったのですか?
郡司茉采さん お神札を貰ったことがきっかけで、自分の部屋に専用のスペースを作りました。お神札は毎年交換しないといけないのですが、新しく交換ができなくて、その空間だけが残ってしまいました。何を入れるべきだろうと冷静に考えた末に、私だったら「推しだろう」と、推しの写真やグッズを並べたことが原点になります。
それぞれの“推しとの向き合い方”を模索できる拡張性を意識した仕様に
郡司茉采さん 一般的な雑貨屋のグッズとは技法が異なる本格仕様でありながら、屋根の高さが変えられ、LEDテープライトによる20色21種類のライトアップがあり、推し活向けの細かなギミックが搭載されています。推し方は人によって違うので、それぞれのふさわしい推しとの向き合い方を模索していけるような拡張性を意識して設計しました。大切な推しを部屋の隅に置くのではなく、部屋の一番大切なところに飾る。推しを大切に扱うことで、より大切に思える。私はそういう心持ちで使用しています。
――お客様から届いている声やSNSなどから目にした「斬新な祀り方」や「意外な愛でられ方」はありますか?
郡司茉采さん 神棚のように神聖な場所として毎朝手を合わせて拝んでいる方や、ドールハウスのような使い方など、キャラクターによって愛し方が違うのでその差を表現するために使用しているという方もいます。“壇”という形体だから中に入れたくなると思うのですが、それを背景にして愛でるという発想は、私にはない向き合い方で驚きました。
――「推し壇」のサイズについてはいかがですか?
郡司茉采さん ひとり暮らしの部屋を想定したサイズで、壁掛けにもできる仕様です。かつ部屋に置くことが可能なサイズ感でありながら、満足に飾れるサイズかヒアリングを重ねて決定しました。
郡司茉采さん 自分が買う想定で、推し活仲間に相談して設定しました。本物の神棚と同じ仕様にすることで、工場の工程を変えず、価格を上げないようにしたり、もともとの信頼関係がある取引先にご協力いただき、実現できた価格です。
――2023年10月発売から1年2ヵ月ほど経ちますが、販売状況はいかがですか。
郡司茉采さん 販売当初から、想定していた販売数を大きく超える販売数でした。現在もコンスタントに販売させていただいている状況です。推し活文化のメインストリームではなく、ニッチな愛し方だと思っているのですが、大きな反響をいただき、驚きとともに納得感もありながら、ありがたく思っています。
石田あかりさん 弊社は、50〜60代以上の方の認知度が高い会社ですが、「推し壇」によって若年層に広く知っていただくことができました。お客様の間口を広げることができ、非常に価値の高い商品として見ています。
――「推し壇」がヒットした要因をどう考えますか?
郡司茉采さん 推し活人口の増加とオープンな文化になったことが要因だと思います。そこに「推し壇」を使う方向性の愛し方で推している方がたくさんいました。また、“お仏壇のはせがわ”の「推し壇」というギャップをおもしろがっていただいている方もいるかもしれません。
「推し壇」は推しを祀るための祭壇がコンセプト 若い世代の仏壇屋へのハードルを下げる商品に
郡司茉采さん 私自身はそういう不安もありながら社内企画を出したのですが、会社は優しく迎えてくれました。お客様からは想像以上に好意的な声があり、「柔軟性のある会社だ」という評価をいただいています。
石田あかりさん 発売当初の公式SNSには「仏壇店なのに神棚を扱っていいの?」といった疑問の声のほか、“お仏壇のはせがわ”というイメージからの違和感のようなご意見もありましたが、当時入社2年目の社員の発案に対する会社の柔軟性への好意的な声の方が圧倒的に多かったです。おかげさまで「推し壇」の話題性は高いのですが、いまのところ炎上のようなことはありません。
“壇”というワードが仏壇をイメージするかもしれませんが、「推し壇」は推しを祀るための祭壇がコンセプトです。混同されかねない懸念はありましたが、あくまで心の平和と生きる力を実現させる企業ミッションが根底にある商品であり、お客様にもご理解いただいていると感じています。
――アイドルやアニメなど推される側からの反応はありましたか?
石田あかりさん 推される側からのアプローチとは異なりますが、アニメとコラボしてほしいという声をいただいています。また、コンテンツ系の企業様からのお問い合わせも多くいただいています。
郡司茉采さん これまではキャラクターなどのIPとは距離のある会社でしたが、コラボなどで新しいお客様に訴求していくことをひとつの方向性として考えています。また、観光地でフォトスポットとして活用しやすい商品でもあるので、聖地巡礼のような地域活性化のお役に立てるかもしれません。
――「推し壇」が会社に与えたプラスの影響はどう見ていますか?
郡司茉采さん 仏具は普段買う商品ではないので、これまで縁遠かった若い世代の方々に会社の認知を広げ、いざ必要になった時の種まきとしての価値があると考えています。仏壇店のハードルは高いので、「推し壇」で少しでもなじみがあれば、意識も変わってくると思います。
――推し活市場が拡大する中、現在とこの先をどう捉えていますか?
郡司茉采さん 推し活フォーマットもある程度決まり、市場が飽和状態に近づいている感があります。その中で、「推し壇」での“祈る”ことのような新しい行動を提唱できれば、シーンの活性化も考えられます。
現代にあった供養の形を提案していくことが使命
石田あかりさん 仏壇店で最初に多店舗展開を成功させたのは弊社であり、挑戦という風土はずっとあったと感じます。今回の「推し壇」が生まれた公募型のチャレンジ企画制度も、現社長の新貝三四郎が会社をより良くし、かつ成長のスピードを上げていくためには、全社をあげて意見を吸い上げるべきとして、2020年から始めました。供養業界のリーディングカンパニーとして、現代にあった供養の形を提案していくことを使命として強く持っています。
――郡司さんは、そんな会社でご自身の夢を叶えてヒット商品を生み出しました。
郡司茉采さん 最初に「推し壇」を提案した時も、「よくわからないけど、がんばってみてもいいんじゃないか」と言ってもらえて、歩み寄りがあり寛容な会社だと感じました。アイデアや意見を否定されることが少なく、チャレンジしやすい環境にあります。それと会社の理解があり、推し活のための時間の融通が効くところも良いところです。
石田あかりさん 仏壇店であることがベースにあるのかもしれませんが、人の心の内側を尊重する企業文化があります。誰が何を好きで何をしていても「いいね」から入り、あらゆることに対して肯定的です。私も推し活をしていますが、とても居心地の良い会社です。
(文/武井保之)
◆はせがわ オフィシャルサイト(外部サイト)