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絶えない乗客同士のトラブル…元鉄道員が語る「駆け込み乗車はお止めください」本当の意味

駆け込み乗車、数秒の遅延でもそれが重なると…? 「一人が駆け込むと、さらに新たな波が来る」と綿貫さん

駆け込み乗車、数秒の遅延でもそれが重なると…? 「一人が駆け込むと、さらに新たな波が来る」と綿貫さん

 客同士のトラブル、人身事故、車両故障や天候不順で電車が止まり遅延する。その現場に遭遇すると、乗客対応に一生懸命な駅員の姿がある。ときに感情をぶつけられ、理不尽なクレームを受けることもある彼らは、いかに自身のメンタルを保っているのか。元鉄道員でYouTuberの綿貫渉さんは「気にしてはいけないが、気にする」と当時経験した気持ちを振り返る。

「お前らが閉めているんだろ!」勘違いから10分間怒鳴られ続けた

 綿貫さんは15歳の高校1年生のとき、たまたま見つけた駅員アルバイトに応募。大学で地理学を学び、バス会社勤務を経てJRで2021年まで鉄道員として働いていたという経歴だ。最初は“仕事”として出会った鉄道が、次第に奥深さを感じる“趣味”へと広がる。駅員、車掌として従事し、今では元鉄道員のYouTuberとして鉄道の魅力を発信している。さまざまなユーザーと接してきたなかで、苦手に感じていたのが“苦情の対応”だったという。

――著書『怒鳴られ駅員のメンタル非常ボタン 小さな事件は通常運転です』(KADOKAWA)では私たちが普段何気なく使っている電車や駅の様々なエピソードを明かしていました。実際、一番メンタルがやられそうな苦情対応の時、綿貫さんはどのように感じていたのでしょうか。

「苦情の対応が自分は苦手で、やりたくないなと素直に思っていました。でも、一定数そういうご意見が来ることは仕方のない仕事なので割り切っていました。近年感じたのは、思ったよりも乗客の皆さんの理解が進んでいることです。電車が止まった場合だと苦情は思ったよりも言われず、とにかく目的地への行き方を問い合わせる方が多い。スピーディに対応することを心掛けて、電車が止まっていることに対する苦情はここで言っても仕方ないというのを分かってもらう。どこに何時までに行きたいのか聞いて解決策を導く。迂回の案内に関しては、乗換案内アプリでは出せない、自分の知識勝負になるので、より良い案内を自分で考えて出せるので楽しんでやっていました」

――これまでユーザーから受けた苦情のなかで、もっとも理不尽だと感じたエピソードは?

「一番印象に残っているのは、自動改札の扉を駅員が操作して閉めていると勘違いしたお客様からの『通せんぼされた』という苦情です。その時はキレ続けていて、まともに話せる状態にならなかった。これではいつまでも話にならないので、『あなたみたいな態度をされて対応しようとこちらも思えません。もう少しちゃんとした言葉遣いをしてください』とハッキリ言いました。その後に再度説明をすると、なぜか理解して去っていったということがありました。私に態度を指摘されて考え直したのかもしれません」

――お客様に対して気を使って対応するサービス業特有の空気感があるのかと思いきや、時にズバッと言い切ることも大事?

「お客さまを気遣いながら対応するのが基本ですが、10分くらい怒鳴られ続けたら、さすがにこちらも『そんな態度をされても…』という気持ちになります。下手に出すぎず、言うことは言う方針の先輩方も多かったです。警察を呼ぶ一歩手前で、実際に呼んでもよかったでしょうけど、とても大事になりますし、すぐ来てくれるわけではありません。対処できるものは自分で対処していました」

――綿貫さんは苦情を受けた時、その内容を気にするタイプでしたか?

「気にしてはいけないが、気にするタイプでした。こちらに非があり、改善の余地がある苦情は真剣に聞いて、改善に努める必要がありますが、ただの八つ当たりのようなものに対しては雑音くらいに思って聞き流すことも必要です。少しの間イライラし続けてしまうものの、一晩寝れば大抵忘れるので、時間の経過を待ちます。こちらに非がないパターンだと、聞き流すくらいじゃないとできないと思います。どんどん積み重なっていくので、対応しながらメンタルの管理を学んでいきました」

「駅員は目撃してないから、良し悪しは判断しない・できない」

怒鳴られ駅員のメンタル非常ボタン 小さな事件は通常運転です

――お客さん同士のトラブルの時(ケンカ、言い合い、痴漢など)、駅員さんはどこまで仲裁に入るのでしょうか? 

「一番多いのは、乗客同士でぶつかった、叩かれたというパターンです。私もプライベートで電車の利用時に、急にカバンや腕を掴まれたことがあります。混雑した駅や車内だと邪魔な位置にいる人につい手がでてしまう人がいるのでしょう。そのようなトラブルが起きた時、警察を呼んだとしても暴行罪で訴えることはできなくはないですが、相当な労力や時間がかかります。そこまでするメリットもないように感じます。乗客同士のケンカで双方に非がありそうなもので、駅員の話を聞いてくれそうであれば、『警察呼んでもいいですが、呼んでもロクなことないですよ、お互い謝ってここは終わりにした方がいいですよ』というふうに伝えています。明らかに収拾がつかなそうな場合および痴漢はすぐに警察を呼びます」

――対応のマニュアルのようなものがあるのでしょうか?

「私の知る限りでは、無いと認識しています。詳しいマニュアルはなく、ケースバイケースです。どうしても若い駅員が対応すると収拾がつかないケースが多いので、ベテランの駅員にあえて対応してもらうこともあります」

――年を取れば取るほど、うまく場をおさめられる?

「そうですね。先輩から言われたのは、駅員は目撃してないから、良し悪しは判断しない・できない。お話を聞いても、その権限は私にありませんから…といって、その場で解決できないものは、警察を呼ぶ。これのみですね」

人身事故の発生現場では各自が任務を全う「ショックを受けている暇はありませんでした」

怒鳴られ駅員のメンタル非常ボタン 小さな事件は通常運転です

――情報を聞いて、気分が盛り下がるのは人身事故が発生した時。駅員さんは知らせを受けた時や現場で対応をした時など、どのような心情なのでしょうか?

「私は1回だけ、人身事故の発生現場に行ったことがあります。夜中で、事故発生から30分経っていました。警察もレスキュー隊も来ていて、みんなが各自の任務をまっとうしている。負傷者はすでに搬送されていましたが、遺留品の捜索を行うということで自分も手伝うことになりました。対応や手順を把握するだけでいっぱいいっぱいで、ショックを受けている暇はありませんでした。事故直後に行ったら、また感じ方も違ったかもしれませんが…」

――路線のどこかの駅で人身事故が起きた場合は?

「むしろそのほうが多いですね。自分の路線のどこか他の駅で人身事故が起き、電車が止まると、問い合わせしたいお客さんが集まってきて対応に集中します。運転再開見込み時刻が出るようになったのは数年前で、運転再開が早まるパターンも遅くなるパターンも両方あります。

 『なんでまだ動かないんだよ!』と恫喝されるようなシーンを想像する人も多いかもしれませんが、意外にそういう場面は少なかった。それよりも運転再開の見込み時間を確認して計画を立てたいという人のほうが圧倒的に多い。ある程度慣れると、駅員でもどのようにダイヤが戻るか予測できるようになるので、その電車の動きを観察するようにしていました。振替輸送のルートは、乗り換えアプリで分かりかねる部分。そういう時こそ自分の知識が生きると思って対応をしていました」

――悲惨な現場を対応した運転士さん、車掌さん、駅員さんには、どのようなケアがあるのでしょうか。

「自分の知る限りでは、特にないと認識しています。また、その対応で精神的にショックを受けたという人も見たことがありません。皆そういった場面に対応する可能性があることは分かって鉄道の仕事に就いています。実際の所、人身事故の対応となると早期に運転再開するためにベストを尽くすのが第一なので、その作業に集中していると余計なことは考えないようになるのかなと思います。それでも精神的に参ったなどの申し出をすれば、必要に応じて産業医との面談があると思われます」

「駆け込み乗車はお止めください」真の意味とは?

――日本では電車が時刻通りに到着することが当たり前になっていて、時刻通りに到着することの大変さをなかなか認識できていないケースも。綿貫さんはユーザーとの認識の差を感じたことはありますか?

「特に異常がなければ、時間通りに来ることは大変良いことなので、守っていきたいことではあります。現状でも一昔前より理解が進んでいるとは思いますが、あえて言うなら安全第一で運行しているので、ちょっとしたことでも簡単に遅れるという認識が乗客に浸透しきっていないことが問題だと感じます。

 よくドアが閉まるギリギリで乗車をして『駆け込み乗車はお止めください』と声掛けされることがありますよね。その本当の意味をどれだけ理解している人がいるのか。その駆け込み乗車1回で、数秒遅れる。車掌はギリギリ人がいなくなったタイミングでドアを閉めていて、このタイミングなら閉められると思っていても、さらに駆け込んでくる他の人の波が来る。数十秒閉められないこともあります。朝ラッシュで30秒遅れると、ホームに待つ人がどんどん増えて、さらに電車遅延につながるんです」

――自分はギリギリセーフと思っているけど、波が広がるとその後のダイヤが乱れてしまう悪循環ですね。

「コロナ前の2019年までは、もう30秒遅れたら、ホームで待つ人が増えて、パンパンで乗り切らなくなる。駆け込み乗車が原因で、車内外のお客さんに荷物が当たるなどしてケガに繋がることもありますし、トラブルに発展して大きな遅延を招くこともある。本当に駆け込み乗車はダメだということ、大きなトラブルや事故に発展することもあるという認識は増えてほしい」

――現在はYouTuberとして鉄道の魅力を伝えている綿貫さん。クリエイターとして今後どのようなことを伝えていきたいですか?

「交通機関について、様々な角度から便利な活用法や新たな楽しみ方を紹介してより多くの人に交通機関に親しみをもってもらい、この業界を盛り上げていければと思います。交通機関について、独特の見方で物事をとらえて、動画に落とし込んでいます。新たな視点から交通機関の活用の仕方を紹介して、もっと気軽に乗ってもらうことができるようにと、勝手に思ってやっています」

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